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音のない世界  作者: 横須賀かもめ
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小説の名は「柴崎駿物語」⑤

 泰斗は電車で帰り、最寄駅から歩いて自宅マンションに帰ってくると、玄関前に奄美の姿があった。

 紙袋を持って、ボーっと立っている姿を見るととても有名人には見えない。

 「どうした?」

 こちらに気付き「これお土産」と紙袋を見せる。

 中身を見ると、サングラスと腕時計だった。





 「これでナンボ?」

 「うーん三千円くらい?」

 「安ッ!」

 「買ってきてやっただけありがたく思え」

 「上がっていくだろ?」

 「もちろん」

 二人で泰斗の部屋に上がる。





 男の一人暮らしの割には、綺麗に掃除されているワンルームの部屋。

 冷蔵庫から缶ビールを出し奄美に渡す泰斗。

 「サンキュー」と缶ビールを受け取る奄美。

 「飲んでるのか?」と尋ねる奄美。

 「星田さんに誘われてな」と答えながら缶ビールを開ける泰斗。





 「星田さんに、奄美と将棋指せるようにセッティングしましょうか? って言ったら、滅相もない絶対言うなよ、って怒られたよ」と伝える泰斗。

 「全然、指すのに」と言ってくれる奄美。

 「ソフトとタイトル戦、両方応援してるって! 対局も仕事サボって見るって言ってたぞ」

 一本目の缶ビールを飲みほす奄美。





 「ペース早いな」

 「日本のビールは上手いから」

 「いや、フィリピンも大差ないだろ」

 「そういや、まさみと飲みに行ったんだって?」

 「雨竜さんとかもいたけどな、後森田君も」 

 「森田君もいてたんだ」と驚いた様子の奄美の表情。





 「ガリクソンが、うちの出版社で投資の講義してくれたから」と答える泰斗。

 「雨竜さんの小説はどう?」

 「順調よ」と答える泰斗だが、ただ一つの懸念材料は奄美と森田の取材をどう切り出すかだけだ。

 「どんな小説なの?」と興味津々の奄美。

 今日読んだ内容を奄美に聞かす泰斗。





 師匠と弟子の関係の様で、父と子のような関係で、将棋を通して親友のような関係でもある。

 歳の差がある二人の男の絆の話しであると泰斗は思った事を伝えた。

 将棋のシーンは少ないが、要所要所で物語の肝になっているのが将棋であることも、重ねて奄美に伝えた。





 「今までの雨竜雷の小説とは、全然違うみたいだな」

 「そうなんだよ。でも面白かった、そしてそのディテールを詰めるために、取材が必要みたいなんだけど‥‥‥」

 「もちろん協力するよ」

 「でも問題が‥‥‥」言いにくそうにモジモジしている泰斗。

 「おいおいどうしたどうした?」

 満を持してという感じで「時間がなくて、

奄美と森田君同時にインタビューしたいんだけど‥‥‥」おそるおそる伝える泰斗。


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