あっしゃビットコインよりFX派かな!⑧
「で今に至る訳ですよ」と梅酒のロックを飲みながら、泰斗と奄美との出会いを語る安井。
「偉大な漫画家は泰斗さんのおかげって事ですね!」とまさみが、泰斗の肩を叩きながら言う。
「あ、ありがとう‥‥‥でも肩が痛いよ」
「じゃあ、今度の雨竜さんの小説も絶対に売れますね」と景子が平然と言う。
「そうだと良いんですけどね」と雨竜。
「プレッシャーかけないでよ。担当変わって一発目の作品が、売れなかったらとしたら‥‥‥」天井を見て最悪のケースを想定して怖がる泰斗。
「大丈夫ですよ。雨竜さんの小説毎回売れてるじゃないですか」と安井が軽い口調で言う。
「その毎回売れているのが、俺が担当になった瞬間‥‥‥ああ辛い」とまた最悪の想定を、頭の中で繰り広げている泰斗。
「良い作品になりますよ。泰斗君の初担当小説は!」と自信ありげに雨竜が言う。
少し安心したようだが、また考えて不安になっている泰斗。
皆が泰斗を見て微笑んでいる。
そんな時、森田のスマホが鳴る。
スマホに出る森田「はい、もしもし、はい、エッ! ‥‥‥今からですか? 分かりました行きます」と電話を切る。
「ドウシマシタカ?」とガリクソンが尋ねる。
皆も気になっている様子で森田を見ている。
「すいません。今から将棋会館に行かなければいけなくなりました」
「何かあったの?」と泰斗が聞く。
「‥‥‥ええ、まぁちょっと‥‥‥また詳しく話しますよ‥‥‥」と言い残し慌てて、店を後にする森田。
「森田さんの取材はまた今度ですね」と雨竜が残念そうにつぶやいた。
「何があったのかな?」と景子がまさみに尋ねる。
「分からない」
森田の慌てように、少し心配になるまさみである。
森田が困る事になると、それは奄美も困ることになるかもしれない。
森田が帰った事で、飲み会もお開きとなった。
雨竜と安井は、まだ飲み足りないらしく、ガリクソンを誘って三人で飲みに行くみたいだ。
ガリクソンから、投資の話しを聞くのが主な目的みたいだ。
店を出た後に、泰斗雨竜と安井に「雨竜さん原稿の方宜しくお願いします。安井君、担当者に迷惑かけるなよ」と告げ別れる。
景子は少し前にタクシーで帰った。
雨竜が、景子のタクシー代を出してくれた。
景子にとってはラッキーこの上ない出来事だ。
タクシーに乗る前に景子がまさみに小声で「(雨竜は)私の事、絶対に好き!」と言っていたので「だろうね」と答えておいた。
泰斗と途中まで一緒に帰ることになり、駅まで二人で歩くことになった。
こうして泰斗さんと二人で歩くのは、初めての事ではないだろうか。
「森田さん、大丈夫ですかね?」
「ホント、大丈夫かな?」
「奄美に連絡した方がいいですかね?」
「どうだろー」お酒のせいで機嫌よく歩いている泰斗。
「奄美から連絡来ました?」立ち止まり泰斗の方を見て聞くまさみ。
「いいや」とまさみの方を見て答える泰斗。
「連絡しないんですか?」
「してみるよ」と言って歩き出す。
まさみも横を歩きながら「奄美の会いに行った人って‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥泰斗さん?」
「‥‥‥奄美からは‥‥‥」
「昔の知り合いとしか‥‥‥」
「昔の知り合いか、その通りだな」とまさみを見る泰斗。
「お葬式にも来てましたよね?」
「‥‥‥そうだったけ?」と惚ける泰斗。
「泰斗さんもちらっと喋ってましたよね?」
「‥‥‥そうだった‥‥‥よね」
「泰斗さんもあの人知ってるんですよね?」
少しイライラしながら、まさみが言う。
「うん、まぁ‥‥‥」
「どっちなんですか?」要領のえない回答に更にイラつくまさみ。
「ゴメンゴメン、一応知ってるかな」とバツの悪そうな表情の泰斗。
「同級生ですか?」
「奄美はね。俺は違うけど‥‥‥」
「二人は付き合ってたんですか?」
「‥‥‥それは‥‥‥奄美が言ってくれるよ、帰ってきたら」
「何しにフィリピンに行ったんですか?
しかもこのタイミングで?」
「俺も分からないなー奄美が帰ってきたら、教えてくれると思うよ。まさみちゃんにも、俺にも‥‥‥」
本当に知らないんだなと思うまさみ。
「決着なのかな‥‥‥」泰斗の言葉を聞いて、男っぽい言葉だと思った。
そう思ったが、泰斗からこれ以上は聞けないと悟るまさみ。
聞いてしまったら何かが壊れる、壊れそうな気がする。
「ゴメンね、迷惑かけて」と深々といきなり頭を下げる泰斗。
道行く人を気にする様子もなく。
「ど、どうして泰斗さんが謝るんですか?」
「奄美が帰ってきたら、多分まさみちゃんにも謝らなきゃいけないから‥‥‥多分‥‥‥」
どうして奄美が帰ってきたら、泰斗が謝らなくてはいけないのかさっぱり分からないが、あまりにも真剣な眼差しでこちらを見ている泰斗。
その姿を見ると納得するしかなかった。
駅まで見送ってもらった最後の笑顔は、いつも泰斗そのものだった。




