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音のない世界  作者: 横須賀かもめ
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ありふれた言葉がいい17

 誰にもバレてはいけなかった禁断の真実が。

 レイプした相手に惹かれているかもと思った時、奄美はどう思っただろう?

 男としての尊厳が失われたのではないだろうか? 自分の存在価値が崩れる程に‥‥‥。

 だから、自分の気持ちを言えなかった。愛した人より好きな人が出来た。




 それも立派な愛だなんて口が裂けても言えるはずがない。

 恵自身も自分の気持ちに気付いたのは、もっともっとずっと後だったのではあったが‥‥‥。

 それでも、事件直後から自分の心にあるなんとも言えない違和感に気付いていた。どうしても恵自身が被害者面してられない違和感が、奄美の優しさにそっと寄り添えない自分がいたことを。




 レイプされて汚れてしまったから、だから奄美のそばにはいられないという解釈をして、自分を押し流していた。

 こうなった場合はこういう行動をとりなさい。こういう思考で物事を考えなさい。まるで教科書・参考書にあるような行動をしようとした。考えようとした。でも出来なかった。




 心の病なのかも思った時期もあった。答えを探してるのに見つからない、何を探しているのかも分からない。いっそのこと心の病の方が良かったかもしれない。

 恵が自分の気持ちに気付いたのは大学の時だった。誰も知らない所に行って、一からスタートしたいと思い地元を離れ地方の大学に行った。




 同じ大学に通う男の子に告白されたのは、入学して三ヵ月した頃だった。

 新たな人生を歩みたいと思ったし、悪い人ではなかったので付き合うことにした。

 彼は地元の大学生。彼は恵に優しかった。

 彼の一番の長所は空気を読む事だった。





 恵のやりたい事、やりたくない事を尊重してくれた。

 ある日の夜、恵の家で二人で晩御飯を食べながらテレビを見ている時だった。

 晩御飯といっても、恵が作った訳ではなく近くの弁当屋で買ったものだけど。

 テレビではバラエティ番組が流れており、ゲストにミュージシャンが出ていた。昔はバンドでギターを担当しており、今はソロ活動をしている四十歳ぐらいのミュージシャン。




 恵はバンド時代の曲も、ソロのヒット曲も知っている程の人物である。

 「この人、俺と高校一緒なんだ」と彼が言った。

 「そうなんだ」何気なしに相槌のような返答をする恵。

 彼が何を言うのか分かった。だからそれに乗ろうと思った。

 「俺の‥‥‥3つ上!」「なんでやねん!」

 二人で顔を合わせ笑いあった。笑いあっていたが、関西弁でツッコんだ時に、何でだろう不意に分かってしまった、恵は自分が泰斗に恋心を抱いていることを。





 今まで生きてきた世界から、飛び立ったような気分がした。

 まるでルールも価値観も違う世界に来た嬉しさがあった。

 今までいた狭い部屋から階段を上がった先に見えた広がる煌びやかな部屋。

 今までいた部屋と階段が消え、この部屋で生活しなさいと言われるぐらいの劇的な変化が脳内で起こった。




 なんともいえない高揚感の後にやってくる、これからの事を考えるとくる恐怖感。

 自分の気持ちは誰にも言えない。

 「そ、それは‥‥‥」

 「いいんだよ。俺には言っても、俺には。




恵の事だから誰にも言ってないんだろ?」

 何も答えられずにいる。

 「十四年ずっと‥‥‥なにもしてやれず‥‥‥」

 「奄美は何も悪くない、私がダメなの。好きになっちゃいけない相手を好きになったんだから」

 「好きになっちゃいけない相手じゃないよ」

 微笑んで恵の方を見ている奄美。




 「泰斗と仲良くなったのはどうして?」

 「悪いとは思ってる」

 「そんな事ないよ。むしろありがたいと思ったし、嬉しかったもん」

 その後に出てくる言葉を聞きたがっている奄美の様子が恵は分かった。




 「泰斗君と仲良くなって、私は少し救われたの。私の事、思って仲良くなったの?」

 「あれだけの事したんだから、このままバイバイというのはと思ってたんだけど、喋ってるうちに俺よりも人間として上なんじゃないかと思いだして、そうなると犯罪者に俺は人間として負けてる可能性があるのかと思ったら、嫉妬したなーそんな事思ってたらいつの間にか仲良くなってしまった。アイツの魅力に気づいたんだろうな」

 「泰斗君の事、好きなんだね」

 「恵にも負けてないと思うぞ」と微笑む奄美。




 泰斗と仲良くなったからこそ、この気持ちに気づいたんだろうと恵は思った。

 「フィリピンに来たのは、それを伝えたかったから?」

 恵と泰斗のことをはっきりするのは、俺の使命みたいなものだから。それに自分の中の壁みたいなものを、取っ払いたくてね! それが中々分からないんだけど」

 「タイトル戦に出るのに壁に当たってるの?」

 「出るだけじゃなくて、勝ちきるために」

 「相手、森田君だしね」




 「そうなんだよ」

 「ソフトともするんでしょ?」

 「そうなんだよ。よくご存知で」

 「そっかーじゃあそろそろ日本に戻らなくちゃね!」

 少し寂しそうに奄美の方を見る恵。




 「また日本に帰って来いよ」

 「そうだね‥‥‥」

 「そうれか、泰斗を連れてまた来るよ」

 「そうだね」

 少し元気を取り戻した表情の恵。

 「奄美」

 「ん?」

 「壁を超えるにはね」

 「うん」

 「関西弁でツッコめばいいよ」

 「は?」


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