10年後その②
雨竜雷という作家の小説みたいだ。
普段全く小説を読まない泰斗には、誰のことが分からない。
「雨竜らいって読むんですか?」
「聞いた事ないか」と聞かれ慌てていると。
「気にするな。小説読んでなくても別にいいよ」と笑いかけてくる。
「雷と書いてライと読むんだ」と教えてくれる山形。
「ライですか」と当たり障りのない返答をする。
「担当してもらうから」あっさり告げる山形。頷くしかない泰斗。
本を持ちながらアクティス編集部に戻ってくる。泰斗を見つけて声をかけてくる男・安井。
「泰斗さん文芸部に異動なんですか?」と心配そうに言ってくる。
今や売れっ子の漫画家「ガジガジ」作者の安井、持ち込を見たのが縁で担当している。
苦労して二人三脚でやってきた漫画が、すでに十巻まで刊行されており、人気漫画になってアニメ化の話しも進んでいる。
「泰斗さんって小説全く読まないでしょ」
付き合いが長いから、安井は泰斗の趣味嗜好を熟知している。
「うん、まぁ‥‥‥」持ってる本を見て「雨竜雷の本じゃないですか」「貰ってな、知ってるのか?」「雨竜雷の担当何ですか?」「うんま、まぁ、知ってるのか?」「凄いじゃないですか雨竜雷の担当なんて!」
興奮して喋るのは安井にとっては珍しいことだ。いつも寡黙で下を向いている様な子だ。
「有名なのか?」本の表紙を見ながら質問する泰斗。いつもより高い声「有名なんてもんじゃないですよ。デビュー作で賞を獲って‥‥‥」
「そりゃ安井君もそうじゃないか」
「いや僕のはただの漫画ですから」
「こっちもただの小説だろ」
「そうですけど、やっぱり凄いですよ小説は! デビュー作将棋の話しだったんですけど面白かったな」
本の著者の項目を見る泰斗。
「エッ同じ年なの!」
安井が思い出したように「泰斗さんの知り合いにプロ棋士いるんですよね?」
まだ著者欄を見ながら「いるよプロ棋士の親友が」