ありふれた言葉がいい14
大学なのか病院なのか、それとも別の大きな施設なのかは分からないが大きな建物の廃墟の階段を物凄い速さで駆け降りている。
階段を降りるときは鉛のような重さはなくなり、飛ぶように何段も階段を飛び降りるように逃げていく。
地面に着くと足が重く上手く走れない。
身体を前のめりにして走っている。いや歩いている。
誰に? 何から? 分からないが何かに怯えながら逃げている。だが今回は追いかけられているのは猫である。
可愛いと思いながらも逃げている。可愛い猫から見覚えのある猫から必死に逃げている。
どうしてこんな所に? こんな所にいるわけがないのに‥‥‥。
追いかけてくる猫は、恵と奄美が子猫の時に保護したナリのはずだ。
ナリとの出会いは、恵と奄美が高校一年の時。
二人で下校している時に道端で、真っ黒な赤ちゃん猫を見つけた。とてもか細い声でニャニャーと泣いている猫を。
「奄美、見てみてこの猫ちゃん。可哀想―」
「親とはぐれたのかな?」
「奄美、お母さん猫を探そう!」
その後、二人であちこちお母さん猫を探したのだが見つからずに途方に暮れていたら恵が「奄美の家で猫ちゃん飼えない?」
「うーんどうだろう? 聞いてみないと‥‥‥」
「じゃあ、今から奄美の家に行こう!」
「エッ今から? 別にいいけど‥‥‥」
赤ちゃん猫を恵が持っていたタオルで包んで、二人で奄美の家に行った。
奄美の母親に事情を話すと飼うにしても飼わないにしても、まずは動物病院に連れて行ってきなさいと言われた。
二人で動物病院に連れていき色々調べてもらい処置してもらった。そしてめでたく奄美の家で、ナリを飼ってもらえることになった。
恵自身もよく奄美の家に行って、ナリと遊んだ。奄美が奨励会で不在の時も。
奄美は今でも猫を飼っているのか? 聞いてみよう‥‥‥。
「猫まだ飼ってるの?」
「実家ではまだ飼ってるよ」
「ナリちゃん?」
「ナリはもう寿命で死んじゃったよ。だから二代目!」
「ナリに会いたかったなー」
ここは山間部にある施設の帰りの車中である。
山間部の施設は、ダバオの中心都市の施設と違い、環境が劣悪である。
奄美もかなりのカルチャーショックを受けているようだ。
恵も初めて山間部の施設に行ったときは驚いた。世界にはこんな悲しい現実があるのかと。




