ありふれた言葉がいい10
「こっちは住みやすい?」
「日本の方がいいけど、こっちも住みやすいよ! フィリピンの人は皆優しい! 住んでて楽しいよ」
空港からホテルそしてこのレストランまでの事を思い出すと、やはり印象に残ったのはフィリピンの人たちの笑顔だった。
「恵が海外で仕事するとは思わなかったなー」と食事を皿に分けながら言う奄美。
「そう?」
「またどうしてフィリピンだったの?」
「‥‥‥何でだろうね‥‥‥」
奄美の顔を見ると、当たり前だが目が合った。
「奄美って二重だったっけ?」
眉をさすって「二重になってる? たまになるんだよ一瞬だけ」
「芸能人みたいに‥‥‥いじったでしょ!」
「するわけねえだろ!」
ホント他愛ない話をしながら食事をする。フィリピン料理は想像通りとても美味しか
った。
食事を終え一服している二人。
腕時計を見て「そろそろ時間だ」と恵が言う。
「そうなの?」
「けっこう忙しいんですよねー私の仕事は」
とおどけてみせる恵。
将棋の世界みたいに夜中までという訳にはいかないのだろう。子供の元気な時間、他人が子供と遊んでいい、そばにいて良い時間というのは限られている。
お会計を恵が済ませてくれた。車の中で値段を聞くと二人で千円未満だったので、物価に驚いた。あれだけの美味しい料理を、その値段で食べれるとは。
「そんなに安いなら、奢ってくれよ」
「しょうがないな‥‥‥っていや払えよ」
車に乗って向かったのは教会であった。恵が一番よく来る場所だそうだ。
それだけ苦悩も多い場所なのかもしれない。
どうしようもない現実と向き合わなければいけない場所が教会だとは、皮肉な話しだ。
モニカの姉妹たちもここにくるそうだ。
モニカも学校帰りにはここに来て、妹や他の子どもたちの世話をしたり、自習したりしているそうだ。
教会の外観は、奄美が想像していた教会そのものだった。と言っても、奄美自身はよくよく考えると教会の中に入った記憶がない。
初めて入る教会かもと思いながら入った教会は、見た事のある物であった。
テレビなどで見た事のあるまんまという意味だけれども。教会という場所はやはり神聖でおいそれとは入れない雰囲気があった。その教会の一室で子供たちが恵を待っていた。
学校帰りのモニカとニコルもいる。
恵が奄美にモニカを紹介する。
「モニカ、前に言っていたプロ棋士の友達の横山奄美君」
「どうも」とモニカに挨拶する。
「トモダチ? カレシジャナクテ?」といたずらっ子みたいな無邪気な笑顔で恵をからかう。
こちらに来てからもう何度目だろうと数えるのは忘れた質問を恵は小声で「昔ね。昔、モニカと同じぐらいの年の時ね」と正直に答えた。
二人の関係が分かる会話である。
「ジャア、モトカレダ!」と言いながら奄美の全身を観察するように見るモニカ。
「ショウギヲサスヒトナンデショ?」とモニカから一つ目の質問だ。この後、質問責めされるのだろう恵の事で。
「うん。てかモニカ、日本語上手いね」奄美にそう言われ、恵と顔を見合わせてガッツポーズする二人。




