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音のない世界  作者: 横須賀かもめ
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ありふれた言葉がいい⑦

 明日、会う約束をして‥‥‥二週間ぐらいはこっちにいるみたいだし、徐々に話す内容も濃くなってくるのであろう。

 初めにしては上出来のスタートだったのではないだろうか‥‥‥と思う恵であった。 




 明日、奄美に将棋を教えてもらおう。

 指導対局も仕事の内だからお手の物だろう。

 言葉は恵がフォローするつもりだ。

 久しぶりに奄美が将棋を指す姿が見れる、奄美の将棋を指す姿が目に焼き付いている。

 普段は落ち着きがなく、騒いでるのに盤上に座ると途端に近づきがたい存在になるように感じた事を思い出す。




 次の日のダバオもとても暖かく、朝から日差しが心地よかった。

 奄美は事あるごとに「こっちの天候は良いな」しみじみと言っている。




 奄美と恵が初めて会ったのは、こんな天気の日ではなく雨の日であった。

 奄美と恵が初めて会ったのは、お互いを認識したのはと言った方が良いだろうか、二人が十四歳の時である。




 クラスメートだったが話した事なく、顔と名前が一致する程度の関係だった。

 ある雨の日、恵は体調が悪く早退した日であった。

 昼前に学校を出て、家路をおぼつかない足取りで歩いていると雨が降って来た。

 降りだしたと思ったら、あっという間に大雨になり、疲れてる身体にムチ打って小走りでコンビニで雨宿りすることにした恵。




 雨で濡れた制服を持っていたハンカチで拭いて、雨の様子を見ていると一人の男子学生が、傘をさして歩いているのが目に入った。

 同じ学校の生徒なのはすぐに分かったが、誰だか分かったのは目の前に来た時であった。

 同じクラスの横山奄美君である。




 喋った事はないが知っていることがある、将棋のプロを目指しているという事。

 初めて聞いた時はビックリした。将棋というのは静かなメガネをかけている人がするイメージだったから。




 奄美は活発で体育の時間などは目立っていた。運動神経は良かった、短距離なんかは男子の中でも上位の速さだった。

 そしてメガネはかけていない。

 お祖父ちゃんが合気道を教えているとも聞いた。

 恵の知ってるだけでもかなりの同級生が、習いに行っている。




 「学校は?」と奄美が恵に声をかける。

 「体調が悪くて、帰る所」と答えると、

 「大丈夫?」と心配そうに顔を覗き込んでくる。

 「うん。大丈夫! 横山君は学校は?」

 「あっ俺? 今から東京行かなくちゃならなくて」

 「将棋で?」

 「そう!」当たり前の事だからという顔で答える奄美。




 「雨止まないね」と雨空を見上げる恵、まだ雨止む気配はない。

 「傘使う?」と恵に傘を差し出す奄美。

 そのまま走って行ってしまう奄美。

 「あっちょ‥‥‥」これが二人の出会い。


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