新章スタート10年後
角早出版のコミック誌編集部のオフィスを
猛スピードで歩く五十嵐泰斗二十七歳。
向かっている先は編集長のディスク。
青いリュックを背負いながら朝一から大きな声で編集長に詰め寄る。
「何で俺が文芸誌に異動なんですか!」
星田編集長があくびをしている所を直撃する。
「何でって俺に聞かれてもな。会社の方針なんだから」
「反対してくれても良いじゃないですか! 週刊アクティスの担当してる連載どうするんですか?」
「それは後任に引き継いで」
週刊アクティスとは角早出版から発行している週刊青年誌である。
発行部数が落ちてきてるとはいえ、業界三位の発行部数がある週刊青年誌である。
泰斗は入社五年目で、新人発掘と連載中の漫画「カジカジ」という現代に生きる忍者活劇漫画を担当している。
その編集長・星田が「異動は一か月後だからな、それまではアクティス頑張ってくれよ。後、文芸誌に挨拶いっとけよ」
憮然としながら返事をする泰斗。
「あっオマエの担当は、坂本に引き継いでくれ」と星田ディスクが言う。
「坂本さんですか」坂本とは、泰斗と同様に週刊アクティスの編集者である。
過去には文芸部に所属していた事もある。おっとりした人物という印象で、泰斗自身深く話した事がない先輩になる。
辺りを見回したが、坂本さんはまだ出社していないようだ。
「ちょっと出てきます」
と出て行く泰斗の後姿を見ている星田。
文芸部は小説の発行はもちろん、文芸誌も扱っている部署である。
文芸部に赴く泰斗。編集者何人が忙しく働いている。
知り合いを見つけ、「編集長いる?」と聞く。
知り合いがどうして文芸部にと聞いてくるので、異動の事を告げ編集長の山形のディスクを指さしてくれた。
山形に挨拶する泰斗。
新聞を畳み、挨拶を返してくれる山形。
新聞を読んでいる大人に少し感動する。
出版社に勤めてはいるが、小説も新聞もほとんど読んでいない。
星田は新聞は新聞でもスポーツ新聞しか読んでいる所を見た事がない。
星田と比べ、落ち着いている印象を与える山形。年齢は星田よりも五歳上の五十五だと聞く。
五年経ったとしても、星田が山形程の落ち着きと貫禄が出るとは思えない。
軽く挨拶を済ませると、一冊の本を渡させた。