ありふれた言葉がいい⑥
「去年は負けたからなー」
「‥‥‥今年も森田君とだね」
「どうして負けたのかなと思って。天下人だから‥‥‥仕方ないんだけど」
真面目な横顔の奄美を見ると、やはりプロの世界で生きている人間なんだと思った。改めて、そしてこれが奄美の日常である。
会話が意外に続くのが、恵にとっては新鮮な出来事だった。
あれだけ心配してた事が、こうもあっさり覆る。
十四年の歳月が、各々の想いを何処かに飛ばしたのか、昔の恋という事実がそうさせるのか?
それとも他愛のない会話だから続くのか‥‥‥他愛のない会話だって続かない事も多いのもまた事実。
「ホテルは決まってるの?」
「うん」
鞄からメモを取り出す奄美。
「セダ・アプリーザダバオ」
「高級ホテルじゃん」
「そうなの? 泰斗に予約してもらったから」
泰斗という名前出てくると凄んでしまう。
察したのか奄美が、話題を変える。
「子供たちに将棋を教えればいいの?」
合わせるように「そう! みんな喜ぶと思うの」
「喜ぶかな? 将棋なんて教えて?」
「喜びますよー子供は新しい物が好きだから」
微笑んで見せる恵。
その顔を見て、微笑みかえす奄美。
「この後も、仕事なの恵は?」
「どうして?」
「いや、ダバオを観光しようと思って‥‥‥」
「何処か行きたい所あるの?」
「ガリクソンに聞いたんだけど‥‥‥」
「ガリクソン、まだ日本にいるの?」
「今、俺の家にいるよ」
「ハッ? どういう事?」
「エッだから、今ガリクソンは俺の家で留守番してくれてるよ」
「何で?」
「何でって聞かれても、ガリクソンが留守番してくれるって言うから」
「ハァーッ! 何でそうなるの?」
思い出した奄美という人間は、人とすぐ仲良くなる人間だった。
そしてガリクソンも、そちらタイプの人間だった。
呆れるというか、その可能性すら疑ってなかった自分に落ち込む恵。
「ガリクソンも連れてくれば良かったかな?」
「‥‥‥いやそうじゃなくて、いや別にいいんだけどガリクソンは」
「でさ、そのガリクソンが言っていた、夕陽の綺麗なビーチに行きたいなと思って」
「サマール島の事かな?」
「島に行くんだ」
「そう。だから船に乗らないと‥‥‥」
「そっか、じゃあ今日すぐにって訳にもいかないか‥‥‥」
「だね。サマール島に行くならモニカも連れていきたいな」
「モニカっていうのは?」
「こっちで出会った、私の友達。高校生なんだけど、めちゃくちゃ勉強仕事を頑張ってて、たまには息抜きをと思って」
「高校生で、そんなに頑張ってる子には是非、息抜きさせてあげないと」
「奄美だって、高校生の頃から働いてるじゃん」
「いや意味が違うでしょ。恵の知り合いって事は苦労してるんだろ?」
「私の仕事、調べたの?」
「‥‥‥うん、まぁ何となくだけどね」
「ありがとう」
「お礼を言われるほどじゃないよ」
二人で話しているとホテルに着いた。
そこからニ十分ぐらい車の中で、本当に他愛のない話をして、奄美をホテルの部屋に送った。




