小説の名は「誰がタメ」 その14
そう思いながらモニターを見ると、さっきと違った印象を受ける。
これは何だろう‥‥‥奄美が勝つであろうと安心感というか安堵感が、モニターの中に満ちている。
その後も、お互いの駒が動く。
徐々に終りに近づいてるのが、素人の泰斗にも分かるようになってくる。
あと少しであと少しで、終りになると思っていた矢先に、武知が「負けました」と告げる。
あっと驚く泰斗に、プロ棋士三人は当たり前の顔をしている。
雨竜がそっと泰斗に「そういうもんだよ」と教えてくれる。
素人目にはどうして終わったのが分からないと思うが、プロ的にはこの先の詰みを読んでいけば、この先見込み無しとの見解になっているとの事。
最後の局面には色々な形があるらしい。
素人目に分かる、詰み一手前までする事もあるそうだ。
負けを認めた相手が、勝者のために形を作るという事もあるそうだ。
モニターから武知の「この銀がな」という声が聞こえてきた。
ずっと瞑想していた奄美が、その声に反応し「中央に来られる方が嫌でしたね」と答える。
武知の「だよなー俺もそう思う」と言う声がする。
雨竜が「これが感想戦だよ」と教えてくれる。
将棋の世界では、勝負がついたからはいサヨウナラとはならず、色々な手の可能性を探す感想戦がある。
これが他のスポーツ・競技と違う所だろう。
「これを聞くのも面白いんだよ」と雨竜が
ひとり言のように呟きながら、メモを取っている。
「後で、奄美君に聞いて良いかな?」と今度はひとり言ではなく、泰斗に伺う。
「良いんじゃないですか」とモニターを見ながら答える。
負けた武知の言動から、心理を探ろうとしている泰斗、武知の動き・放つ言葉・表情を全て目に焼き付けようとしている。
負けた武知のさっぱりした表情が気になって、武知の事が気になる泰斗。
感想戦が終わり、泰斗たちも控室から出る準備を始める。
事務局から奄美はこの後、マスコミの取材が入るらしい。
タイトル戦の出場を決めたのだから、当然と言えば当然である。
「僕らはまた次の機会にしようか」と雨竜がメモを鞄に片付けながら言う。
泰斗も納得して頷く。
雨竜と一緒に、高村・森田・迫田に挨拶をした後、将棋会館を出て行く二人。
途中、記者に質問責めされている奄美の姿を見かけたが、声をかけれずに外に出た。
出る間際、武知が知り合いの記者たちと話しながら将棋会館を出て行くのを見た。
話しかけようかなと思ったが、雨竜もいたのでその場は、雨竜と一緒に帰る泰斗。
外はまだ夕方で、千駄ヶ谷の街並みは人が多く行き来している。
雨竜は多少興奮しながら「いやー今日は実のある一日だった。色々、刺激があったな」と今日一日の出来事を振り返っている。
本当に将棋が好きなんだと思う。
「創作意欲湧きましたか?」
「もちろん! さっきタイトル決めたんだ」
「どんな?」
「‥‥‥君がタメ」
「‥‥‥将棋の話しになるんですよね?」
「棋士の話しだけど、テーマは友情かな」と言い、先を歩き出す雨竜。
「友情ですか‥‥‥」勝負の世界と、友情というキーワードがマッチしない泰斗であった。
泰斗のスマホが震える、液晶を見るとガリクソンの文字が。




