小説の名は「誰がタメ」 その10
部屋を出て、廊下を歩き事務局の奥にある外に出る扉を開けると、灰皿がある。
日差しを浴びながら、四階から下を歩く人たちを見ながら、外の空気を吸い、タバコを吸うためにライターでタバコに火をつける。
下を覗きながらタバコを吸っていると、後ろの扉が開く音がした。
振り向くと、そこにはプロ棋士で奄美の師匠にあたる高村九段(五十五歳)が入って来た。
というか出てきた。
泰斗に気づき「どうしたの五十嵐君? こんな所にいるなんて‥‥‥あっ奄美の応援?」
漫画の担当から、小説の担当に部署が異動したこと、それにあたって担当の小説家が将棋の話しを書きたいという事なので奄美と友達だと伝えると、奄美の取材がしたいと言われたので、今ここで取材をしてる事を伝えた。
「ああーそういう事なのか。担当の小説家ってのは?」
「雨竜雷先生です」
「雨竜雷なのか! 今いるの?」
控室にいますよと伝えると、そわそわしている高村。
「ファンなんですか?」
「よく読むよ」
「後でサイン頼んでおきましょうか?」
五十五には思えないぐらい可愛くうなずく高村。
そして思い出して「奄美の祖父の葬式参加出来なくてごめんね」と言ってくれた。
「対局だったんですよね。それは仕方ないですよ、奄美もそう言ってましたよ」
高村は、奄美と泰斗と恵のことを全て知っている数少ない人物である。
各々の家族以外では高村だけかもしれない。
将棋の世界では、プロのなるために奨励会に入会しなくてはならない。
その奨励会になるためにはプロ棋士の弟子にならないといけないのだ。
奄美が子供の頃、埼玉にある将棋道場に通っていた所に教えに来ていたのが高村だった。
その縁で奄美の師匠となったのだ。
だから奨励会の頃、付き合っていた恵の事を高村は知っている。
奄美と恵を自宅に招いて食事を振舞った事もあるそうだ。
なので、泰斗が犯した事件の事も知っている。
奄美のプロ入りが決まった日の出来事だから。高村が忘れるわけがない。




