小説の名は「誰がタメ」 その➈
「どの辺りを見て判断させれてるんですか?」と雨竜が疑問を投げかける。
「先手の駒得がやっぱり良いと思うんですよね。今は桂得ですからね」と迫田。
「そして後手の右の銀が攻めに参加してないんですよね」と森田が言う。
確かに、後手の銀が九5の位置で、奄美の玉からあまりにも遠い。
素人の泰斗から見れば、そこに至るまでに銀の活躍もありお役御免でも構わないと思うが、それでは奄美の玉を仕留めきるには至らないという事だろう。
全部の駒が躍動する将棋が理想であるみたいだ。
相変わらず熱心にメモを取り、盤面をカメラに撮ったりしながらも森田と迫田のやり取りを聞きながら、時には質問している。
将棋に関する全てを学ぼうとしている。
雨竜の書く小説はどんな物語になるのだろうか‥‥‥泰斗はまだ何も聞いていない。
将棋の世界を舞台にするのか、棋士を主役にするのか、それともプロ棋士を目指す人間を主人公にするのか、それもこの時間が終わった後に聞くことになるだろう。
局面の解説をしているのを見ているのも、それを聞いてるのを見るのも飽きてきた泰斗。
部屋をウロウロしたり、座布団を枕にして寝てみたりしながら、時間を潰す泰斗。
時間を持て余し、三人の会話に入ってはみるが全く分からない。
というかさっきから駒が一手しか動いていない。
時間を持て余し、迫田の顔を触ってみる。
汗でべとつく嫌な感触だ。
小声で止めてくださいねと、優しく注意される泰斗。
泰斗を無視して検討に余念がない三人。
少し腹が立ってきたので、鞄からボールペンを取り出し、一生懸命検討をしている迫田の頬をボールペンで突く。
無視をして検討を続けるので、ボールペンで迫田のほっぺに落書きをして、鞄からタバコを取り出して部屋を出て行く。
「こんなイタズラするの奄美さんと全く一緒です」と泰斗の後ろ姿に言い放つ迫田。
部屋を出て行く時に、その声を聞く泰斗。




