小説の名は「誰がタメ」 その④
雨竜は二人の、目の動き、姿勢の変化、指の動き、今何を考えているんだろかと、何かヒントを探し二人の動きをつぶさにチェックしている。
十分ほどかけて、三手進んだところでマスコミたちが退席していくので、泰斗と雨竜も対局室を後にした。
対局室を出て、棋士控室に行くと、事前に奄美が解説がいるだろうという事で、プロ棋士の迫田四段(二十歳)をお供に付けてくれていた。
「初めまして、奄美さんからお二人に解説するように言われました。宜しくお願い致します」と迫田君が言う。
棋士控室に、奄美と武知の対局局面が再現されている。
モニターには二人の局面が映されている。
普段見る将棋対局と違って、天井から盤のみ映されている。
「わざわざありがとうございますと雨竜が迫田に頭を下げる。
恐縮してしまう迫田。
それほど本を読まないであろう彼まで、恐縮させてしまう雨竜雷のオーラはただならぬ物がある。
「迫田君は、対局中どんな事考えてるんですか?」と聞く雨竜。
少し考えながら「序盤は持ってきた作戦が使えるかとかですねかね」と答える。
「序盤はということは、中盤は?」
「そうですね。この局面でやれるのか、やれないのか、どこから攻めるのか? とかですかね」と答える迫田四段、付け加え「あ後、お昼ご飯は何食べようかなとかですね」
「そんな事、考えるんですね」と泰斗が気になって思わず聞いてしまった。
同じく頷きながら、続きを聞きたそうな雨竜。
奄美が一手駒を動。
モニター越しに見ながら雨竜が「奄美さんが四間飛車ってよくある事なんですか?」
「ちょっと前までは、三間飛車とか中飛車とか攻撃的な振り飛車を指してましたが、最近は四間飛車も多用してます」と迫田が答える。
「そういう時は、何か心境の変化とかあるものですか?」と泰斗が聞く。
親友の奄美の事が心配なのだろう。
迫田が悩みながら「‥‥‥どうなんですかね‥‥‥奄美さん、振り飛車党ですが居飛車を指さない訳じゃないですからね。研究会では僕、奄美さんの居飛車にボコボコに負けた事ありますし」
「研究会、奄美さんと一緒にしてるんですか?」と雨竜がモニターを見ていたが、迫田の方を向き聞く。
「はい。僕が奨励会の頃に誘って頂いて‥‥‥」
「いわゆるライバルなのに、一緒に勉強するって事ですか?」と泰斗が聞く。




