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音のない世界  作者: 横須賀かもめ
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ハンバーガショップで

 初夏の昼下がり、賑わい過ぎるぐらい賑わっているハンバーガショップ。ライブハウスの子供版みたいに店内は子供たちの巣窟となっていて、まさに無法地帯の様相である。



 白のワンピースにジーンズ姿の早乙女恵が、ブラックのコーヒーを飲みながら、周りの声に邪魔されながら大きな声で僕に言う。




 まさみの声は僕にはとても心地がいい。ハンモックに揺られているようにとても心地がいいんだ。

 もう一度、恵が「他人を理解することは絶対に無理なんだって」という。




 「本で読んだの?」

 「そう昨日一気に読んでしまった本の中で」

嬉しそうに答えるまさみ。

 そして「だから奄美のことも理解できないって事が分かったの?」

 驚いた「エッ何で?」僕たちが付き合って一年になるのに、そう思われてたなんて。




  可笑しそうに「まず将棋指しなのにサッカーしてるし」

 確かに今日はサッカー部の助っ人に参加して試合終りにここにいる訳だけど、「将棋指しでもサッカーはするよ」



 「普通の将棋指しはしないって! だって 将棋指しだもん」

 「将棋指しに凄く偏見があるのがよく分かったよ」と答えておく。

 「だって将棋の勉強全然してるの全く見たことないもん!」

 「勉強はしてるし、強くはないよ」




 真っ直ぐした眼差しで「だしメガネかけてないし」目の前で指をくるくる回しながら言う。

手で払いのけながら「確かに将棋指し=メガネのイメージあるけど」将棋指してますと

言うと、メガネかけてないとは恵以外にも言われる。棋士のイメージなのだろう。

暗くて静かで、そのだいぶ後に頭が良さそうと言われる。




「周りは?」

 「メガネばっかでニキビばっか」

 「どうして棋士になったの?」真剣な顔で聞いてくるまさみ。

 「今まで聞いた事なかったと思って」今日会ったら聞いてみようと事前に決めていたみたいだ。




 「‥‥‥一番になれる可能性があったからかな‥‥‥」確かに幼稚園の頃にはもう将棋をしていたと思う。小学生の頃には将棋を教えてくれたお祖父ちゃんにも勝つようになった。近所の将棋道場に通って、他の大人たちにも勝てるようになって、奨励会に入ることになって三段リーグまで上がることは出来たは出来たが、この先にプロになれるのか、なれたとしてその先はと考えるようになった。




 「過去形なの?」不思議そうな口調のまさみ。

 「強いやつが多いからね」

 「例えば?」

 「森田君かな」

 「誰それ有名?」

 「有名かも」

 「プロの人?」




 「まだ違うけど、プロになったら史上五人目の中学生プロ棋士になる」奨励会に同じ時期に入った森田君。僕が中二で彼が小五の時だった。

 入った時期が一緒だった事もあってか、何をするのもという訳ではなかったが、一緒にいる時間は多かった。奨励会にも一緒に行ったし、帰りに森田君の家まで送ることもあった。森田君の両親とも顔見知りになるぐらい森田君の家に行った。




 もちろん将棋もたくさん指した。森田君は居飛車党で本格派。僕は居飛車もするし、飛車も振る、いわゆるオールラウンダーだ。




 森田君に完敗する時もあれば、僕が勝つときもある。勝敗は僕の方が少し勝ち越してるぐらいだと思う。

 リーグ戦も同じ感じに上がっていった。まさに切磋琢磨という言葉がピッタリだろう。

 ただ違ったのは、森田君は棋士界から注目されていて、僕はさほどだという事だけだ。

 「将棋教えてよ」鞄から折り畳みのマグネットが付いた将棋盤を出す恵。




 驚いて「将棋のルール知ってるの?」

 鞄から将棋の本を出して「勉強した」微笑む恵。

 微笑む恵の顔はとても幸せになる。

 恵と将棋を指したのはこれが最初で最後だった。


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