三歳児の子供がリュックを背負っる姿は何事にも変えがたし可愛さである③
三階建てのこの家は、一階は父の車を停めるスペースで、二階と三階が住居である。
両親と恵の三人家族なんで、恵が家を出てからは、夫婦水入らずで暮らしている。
父・基弘は五十四歳で、電子機器の会社を経営している。
中小企業の社長になる。
母・夏菜は五十二歳は、地元のスーパーでパートとして働いている。
家に入ると、カレーの匂いがしている。
今日はカレーみたいだ。母が作るカレーは、じゃがいもは入れずに、お酒はビールを使うとこだわりを持っている。
「ただいま」とリビングに入ると、「お帰り」とキッチンでカレーを仕込んでいる母が言う。
「緑ちゃん、元気だった?」「元気元気、朱ちゃんも可愛かったよ」「三歳ぐらいの子が、一番可愛いかもしれないね」「ホント、あのサイズにリュック背負ったら、最強に可愛い!」と話しながら、父の方を見ると一人で将棋を指している。
こちらを少し見て、お帰りと頭を動かす父。
近づき「ちょっとは強くなったの?」と聞く恵。
「全然だ。スランプは続くよ」と父が言う。
「もう十年はスランプじゃない?」と恵。
「良いんだよ、負けても勝っても将棋は面白いから」と父は言う。
将棋盤の横には、奄美が書いた本が二冊置かれている。
父が気づき「送ってくれたんだよ。奄美が」と言う。
「そうなんだ」と気にしてないよと雰囲気で答える恵。
テーブルには、ガジガジの最新刊が置かれている。
その視線にも気づき父が「それは五十嵐が」
と言いにくそうに言う。
「気に入ってそうだね」と恵。
応えにくそうにしている父に「ガジガジ、面白いよね」と言うと、「読んでるのか?」と聞かれたので、「うん。泰斗君が送ってくれるから」と答える恵。
「連絡取り合ってるのか?」と父。
「うん、まぁ向こうも気を遣ってるんじゃない?」
「気を遣ってるって、アイツのした事はそんなもんじゃ済まないだろう!」と怒る父。
「もう十年も前のことだから‥‥‥」
「オマエは優しすぎるんだ」と父が、憐れみを込めて言う。
「まぁまぁ、ママ特製のカレーが出来ましたよ」と母が、嫌な空気を止めてくれる。
母は、いつもそうだ。
恵の気持ちを第一に察してくれる。
「パパも、泰斗君のガジガジ全巻持ってるじゃない」と母が、恵に言う。
「こ、これは、アイツが送ってくるからだな‥‥‥」とモジモジと話す。
いつも声が大きい父が、小さな声で喋る時はやましい事がある時だと、母はいつも言っていた。
「泰斗君、文芸部に異動だって」と父に言う。
恵の方に顔を向け「俺は聞いてないぞ」と言ってくる。
「こないだ来た時、言ってなかったわよね」と母がカレーを食べながら言う。
「うん。だから言っておいてって」と伝える恵。
「異動ってどの部署なんだ?」父が心配そうに聞いてくる。
「文芸部だって」と教えると、父が「大丈夫なのかアイツに文芸部なんて」と更に心配の声がする。
「雨竜雷って、小説家の担当らしいよ」
「な、何ッ!」と驚く父。
「どうしたの? 大きな声出して」
「雨竜雷って、有名な小説家だぞ!」




