三歳児の子供がリュックを背負っる姿は何事にも変えがたし可愛さである②
「朱ちゃん、将棋知ってるの?」と恵がビックリして聞く。
「けっこうしってるんだ」と朱。
「何で知ってるの?」
「みたから」と朱。
緑に向かって「何処で?」と聞く恵。
「分かんない? 朱ちゃん将棋知ってたんだ」
「じいじとやったの」と朱。
「じいじ、将棋してたかな?」と首を傾げる緑。
「ちがう! からてのじいじ!」
恵が、ちょっと何言ってるか分からないですという顔をしている。
緑が「あっ! 奄美君のお祖父ちゃんね!」と、思い出す。
ビックリして飲み物を飲んでいる所だったので、むせる恵。
「あ、会ったことあるの?」
「うん。朱ちゃん合気道道場に行ってるから! ねぇー」と緑が言うと、「うん!」と言う朱。
「と言っても、空手だと思ってるけど」
「小さい朱ちゃんが、合気道なんて危なくない?」
「礼儀作法と、後は子供がいっぱいで、あちょあちょやってるだけよ」
「アチョー」と合気道っぽい動きを、上半身だけでする朱。
「てな具合」と緑。
「そうなんだ」と納得せざる得ない恵。
「恵のお母さんが、教えてくれたんだよ!」と緑が言う。
「ハァッー!」と怒号に近い声を出してしまう恵。
「めぐみちゃん、こわいよ‥‥‥」朱がビックリしたので、すかさず「ゴメンね朱ちゃん」と謝る恵。
「じいじ、さいきんげんきないの」と悲しそうに話す朱。
「ちょっと体調崩してるみたい」と補足してくれる緑。
「恵ちゃんが思った通りにすればいいんだよ。君は、誰かを気遣えるほどまだ強くない。
奄美もそうだし、彼もそうだ。だから自分のやりたいようにすればいいんだよ。他人の事なんて考える必要はない。我儘で何が悪い。
我儘は、若い子の特権だから。恵ちゃん、強くなりなさい。奄美よりも、彼よりも」
十年前、奄美のお祖父ちゃんの道場。
夏休みが終わろうとしている、八月の暮れの暑い日。セミの声が、恵の身体にまとわりついていた。
「セミは俺にとって、ヒーローなんだ」と奄美が言っていたなと、朱ちゃんの笑顔を見ながら思い出す恵。
「そっかー体調崩しちゃってるのか‥‥‥」
いつだったか‥‥‥夏の公園で奄美が言っていた言葉。
「虫嫌いなのに、セミはヒーローなの? 蝶々が目の前飛んでても、ビクビクしてる奄美がセミは良いの? セミの裏側、けっこうグロイよ?」
思い出してゾクッとしている奄美の顔。
「確かに、でも小さい時、よくセミ取りしたからなーあれの影響だな!」
「男の子はするよねセミ取り」
「恵の近所は何セミが多い?」と奄美が聞いてきた。
「いや知らないよ」と答えると。
「エッ!」たいそう驚いた顔をしている奄美。
「何セミが知らないの? そんな人がこの世にいるの?」
「いるいる、いっぱいいるよ」
「鳴き声で分かるじゃん! クマゼミかアブラゼミかツクツクボウシかとか?」
公園で鳴いているセミの声を聞きながら「分からない。区別付かない。今、鳴いてるのは何セミ?」
「クマゼミ」速攻で間髪入れずに答える奄美。
鳴き声を聞いても、さっぱり分からない恵。
セミの鳴き声が大きくなる。
「アッ、アブラゼミ! アブラゼミだ!」とテンションが上がる奄美。
「アブラゼミ?」
「うん! こんな所にアブラゼミがいてるなんて!」とソワソワする奄美。
「珍しいの?」と聞く恵。
「珍しいなんてもんじゃないよ! 奇跡だよ! ちょっと見に行こう」と奄美が提案する。
迷っていると、先に行ってしまう奄美。
「ちょっ待ってよ」と後を追いかける恵。
昔のことを思い出しながら歩いていると、実家に着いた。




