控室
棋譜を配信したり、将棋雑誌の記者たちが使う部屋のパソコンに映しだされている二台の盤。
それを眺めている将棋記者の雪村。
四十という年齢の割には体型はスリムで、ファッションもそれなりに気を遣っている。
今日も小奇麗なジャケットと黒パンツスタイルである。独身だが、その独身を謳歌している。
「早いですね雪村さん」
同じ会社の記者・津川が入ってくる。
元奨励会員で現在二十七歳。二十歳の時に奨励会に見切りをつけ、以後色々な事をした
いと定職に就かフリーターだったが、二年前に雪村と同じ雑誌社に勤めることになった。
いつも飄々として動じたり、驚いたりした
事を見た事がない。
振り向き声の主を確認しながら、「いや津川、オマエが遅いから」呆れながら返事をす
る。
「どうなってます?」
「まだ始まったばかりだよ」
「じゃあちょうど良いじゃないですか」
席に着き買って来たパンをかじり出す津川。
津川の方に向き直り雪村が言葉を続ける。
「オマエ分かってるのか、今日がどれだけ意味のある一日か」
「分かってますよ」あっさりと答える津川。
「史上五人目の中学生棋士が誕生するかも
しれなにって時に」
「森田君でしょ」
やけにあっさり受け応える津川に「負けると思ってるのか?」
飄々と答える津川の顔「地獄のリーグですからね」
「元奨励会の言葉は重いな」
盤面を眺めながら「雪村さんだって、横山応援してるんでしょ?」
言葉に詰まりながら「気になるんだよな」
「史上五人目の中学生棋士よりもでしょ」
「何か気になるんだよなアイツの将棋」
「珍しいですね一人の棋士、いやまだ棋士じゃないけど肩入れするなんて」
コーヒーを一口飲み「将棋そんなに好きじゃなさそうなんだよなアイツ」
頷きながら確かめるように盤面を見つめ「将棋だけじゃないですからね人生」
気になり聞いてみる雪村「オマエはどうだった?」
飄々と「気づいたのは奨励会辞めてからですよ」
無言で盤面を見つめる二人。