忠告
大きな欠伸をしながら、アヴィンは綺麗に入っていないレコードを揃える。平凡な身長と容姿に特別な力や得意なものもなく、運良く受かったこのレコード店へバイトとして雇われている身だ。ふと、ドアベルがなり「いらっしゃいませ」といつもの挨拶を事務的に発すると、レジへと戻りながら来店客をみる。
来店した客は男だった。身長は非常に高く、体格も非常に良い。綺麗に整えられた頭髪に、綺麗に整えられたスーツを着こなしている。アヴィンはふとその彫りの深い顔に見覚えがある事に気付く。
「君がアヴィン君かね?」
非常に低い声にアヴィンは背筋が震える思いをする。目の前にいる男はこの国の大統領だと気付く。アヴィンは壊れたおもちゃのようにカクカクと頷くと、大統領は満足そうに頷くと懐から1枚の写真を取り出す。
「君に彼を今日中に探して欲しい」
それだけを告げると、大統領は背を向けて立ち去っていく。
アヴィンは背中から垂れる汗を拭きながら、すぐに写真の男を探そうと即座に行動をし始める。
インターネット上に写真を掲載して不特定多数に探して貰うよう協力を願う。それと同時に街中で配布できるようにビラ作りをする。
数十枚を印刷が終わると、早速街へ飛び出して行動を開始する。掲示板が設置してある店へと出向き、貼らせて貰えないか交渉し、人通りの多い場所ではビラを配っていった。
昼が過ぎ、太陽が傾き始めていく。手応えもなく時間だけが過ぎていく。
アヴィンは肩を落として家路へと向かう。
家へ帰ると、玄関で靴を脱ぎながら、玄関の電気を付けようとスイッチを手探りで探して押すが反応がなく、首を傾げる。
真っ暗中、そのまま進み部屋の灯りを付けようとスイッチを手探りで探すと、いきなり照明と共にクラッカーが鳴る音に迎えられる。
中には大統領を始めとして数人が部屋にいて、アヴィンを迎え入れていた。
「君はあの男を探せなかったようだね?」
大統領は一歩前に進みながら笑みを深める。
「大丈夫だ。君を取って喰おうとは思わない。ただ、覚えておくんだ」
そう告げて肩を叩くと不思議な安堵感に包まれて意識が急速に薄れていく。
「彼には注意するんだ」
気がつくと、アヴィンはいつもの寝室で目を覚ました。
昨夜の事を思い、一抹の不安を抱える中、時計をみると出勤時間に近づいている事に気付き、急いで準備を始めて出掛ける。
いつもよりも遅い朝は、人通りが少ない。その中を早歩きで進む中、ふと周りの音が無くなっている事に気付く。
周囲の人々がアヴィンをみている中、急速に足に力が入らず、そのまま倒れてしまう。
「ミツケタヨ」
薄れゆく意識の中で男の声が聞こえたような気がしたが、寒気に襲われて意識を手放した。
お題
「レコード店」「大統領」「約束の日」