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約1つのラベルと心臓  作者: 大門 笏
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第n+4話 河童の川流れざれば刮目せよ

 二会手にえで 夏雄なつおはいつものように見知らぬ世界でいつものようにいる侍乃公他じおれた 美都子みつこを見つけたので一声掛けようと近寄ったが、その前に彼女が抱えていた小さな龍がぴぎと鳴いた。

「何だそいつ」

「こんにちは夏雄君。これは龍ね」

 龍だと言われても夏雄はあまり疑っていない。サイズは美都子が抱えて少し余裕が有るぐらいで、黒いウロコとクリーム色の腹。足と手がしっかりある。東洋の細長いタイプではなくて、恐らく西洋のタイプのほうが近いだろう。

「こんちは。っつーか普通に龍なのか」

「ぴぎ」

「……ってここの龍なのか?勝手に連れて来ていいのか?」

「この子のお母さんがパートで忙しいから預かってきたの」

「なんでもう知り合いになってんだよ」

「類は友を呼ぶっていうでしょ?」

「お前人間だろ?」

「共通の趣味があれば仲良くなるのなんて気楽よ」

「趣味?」

「口から火を吐ける」

「それは趣味じゃねぇ」

「特技?」

「特技でも……特技だよ」

「じゃあ新学期になったら積極的にアピールしてこっと」

「いやお前ホントに火吐けるのかよ?」

「吐けるわよ?激辛ラーメン食べた時とか」

「漫画か何かか」

「ぴがー」

「はーい。ばもくんご飯ですよー」

 美都子は一旦龍を下に置くと持っていた探検リュックから龍と同じ位のサイズの枯れ木を取り出した。

「え?食うの?」

「食べるわよー。ほらことわざにもあるでしょ?『好き嫌いせずに食べましょう』って」

「ことわざじゃねぇよ」

「『野菜食いの丸太腕』」

「それっぽく言ってんじゃねぇよ」

「ん」

 龍は枯れ木を躊躇いもせずガシッと掴んだ。

「んー」

 そしてそのままグッと枯れ木を抱きしめて顔をつけた。

「ちなみに、この子の名前はさかばーもよ。長いからばも君。雄よ」

 さかばーもの方を見ると、心なしか枯れ木が縮んでいるような気がする。

「龍はああやって自然からエネルギーをもらったり奪ったり出来るの。時に歯の弱い100歳未満や2900歳以上の龍は主にこの方法で栄養を取るわ」

「へぇ、そんなやつらもいるんだな」

「まるで夏雄君ね」

「俺は出来ないから」

「でも顔の後ろでおむすび食べられるでしょ?」

「俺は妖怪か何かかよ」

「妖怪黒髪男」

「日本人全員妖怪じゃねぇか」

「意外な真実ね。妖怪下暗しってやつかしら」

「勝手に真実にすんな」

「でもね、意外と常識だと思ってたらそうでもなかったってこともあるのよ?」

「そりゃあるだろうな」

「この前、銀行ATMでお金振り込もうと思ったら出来なくってね」

「ほお」

「深夜4時に行ったからいけなかったのかしら?」

「そりゃ閉まってるわな」

「機械は年中無休で動けるのにね。やっぱりあれかしら。将を射んと欲すれば先ず馬を射よってやつかしら」

「それは違うな」

「じゃああれ?弘法筆を選ばず」

「全然関係無ぇな」

「態々遠出して火星まで行ったのに、ちょっとぐらいオマケして振り込みさせてくれてもいいじゃないのよ」

「なんで火星にATMがあんだよ」

「妖怪火星にATM建て男」

「んなやついるかよ」

「妖怪ATMに火星創り男」

「火星2つあるじゃねぇか」

「妖怪火星破壊男」

「1つならいいって問題じゃねえよ」

「妖怪髪の毛を火星の分身にする系男」

「だから数の問題じゃねぇっつうの」

「さぁさ、与太話はこれぐらいにして」

 美都子はさかばーもを抱えたままスッと立ち上がった。

「散歩しなくちゃ。ばも君にとって1秒は約496エチニンなんだから」

「……もしかして、単位をこの世界のに直しただけか?」

「それが大切なのよ」



「だーぐーだーぐー」

 照りつける日差しも構えないのか、さかばーもはハイハイで力強く進んでいく。

「早いわねぇばも君。この調子なら地球の引力と力比べしても勝てるんじゃないかしら」

「適当なこと言ってんじゃねぇぞ」

 夏雄と美都子は、その後ろをゆっくりと着いていっている。

「よくあることよ。親馬鹿ってやつ?」

「親じゃねぇだろ」

「ばも君預かったし親同然よ。2000番目ぐらいの親ね」

「間に誰が入るんだよ」

「高原から見上げる空」

「物ですらねぇのか」

「だー……」

 ふと、さかばーもがふとその場で止まった。

「ん?どうしたのばも君」

「ぱうぐー」

 さかばーもが凝視しているのは、ミミズだった。それはコンクリートが日差しのを反射する中うねうねと必死そうに動いている。

「ん?どうしたんだ?」

「龍は学習に長けた種族よ。ミミズの動きから東洋式の竜を想起して、対抗意識を燃や」

「あー」

 ぱくり。

「食った!」

「あら」

 夏雄と美都子が各々反応している間に、さかばーもは咀嚼をするとあっさりミミズを飲み込んだ。

「ちょ、ちょっと。待て!待て。どうすんだ!?」

「お腹空いてたのかしら。ちょっとご飯作ろっと」

「いやそれもあるけど!食っていいのか?」

「ミミズ?単純に落ちてる物だから汚いけどミミズは別に問題無いわ」

 そう言いながらさっさとお粥を完成させた美都子はスプーンでさかばーもに食べさせてやった。

「手際いいな」

「まぁね。私も小さい子の世話したことあるし」

「へぇ。きょうだいとかいるのか?」

「私自身のお世話をちょっと」

「お世話って言わねぇ」

「1人で家族ごっこしたこともあるし。一番頑張ったのでは1人9役してたこともあるわ。その時は私が変な物口に入れないように私が見張ってたりしてたわ」

「さかばーもは変な物口に入れてたけどな」

「だって私龍じゃないし」

「そりゃそうだが」

「1人家族ごっこで学んだの。龍は大体なんでも食べるって」

「どういう状況だったんだよ」

「お父さんとお母さんが人間の筈なのに生まれた子供が純粋な龍で、『お前!こいつは一体誰の子供なんだ!』って」

「ホントそうだよ」

「その様子を聞きながら黙々と箸をポリポリ食べる龍」

「そこの描写いるか?」

「そう。龍が本当に望んでいたのは、親権がどうか消印が当日かかなんてちっぽけなことじゃなくて、早く大自然に帰りたいということだけだったのです」

「じゃあなんでその家に住み着いてんだよ」

「当時3歳の私にはその矛盾に気づかなかったのです」

 美都子は細い枝をさかばーもに握らせながらわざとらしくしんみりと呟いた。

「ぐいぱー、ぐい、ぱー」

 そんな話をしている間にも、食事の終わったさかばーもは呑気そうにふらふらと歩いている。

「……って歩けるのか!?」

「あら、ほんと。歴史的瞬間ね」

 2足歩行にまだ慣れていないのだろうか、その足取りはおぼつかないが、『初めの一歩』はとうに越している。

「親差し置いて俺達が観ちまうのか……」

 夏雄は誘拐犯にでもなった気分だった。

「まるで逆かっこうね」

「……なんか微妙に分かる」

 微妙に分かってしまった。

「千里の道も一時の恥って言うし間が悪いことはしょうがないわよ」

「それは分からねぇ」

「さって、ばも君の歩き記念として、金の王冠を進呈しなきゃ」

「やめとけ首の骨折れるぞ」

「大丈夫よ。ばも君の頭上で浮くように魔法がかけてあるわ」

「なんで魔法使えんだよ」

「30日間でカートリッジ交換が必要だけど」

「お前の魔法じゃないのかよ」

「適材下暗しって言うでしょ?」

「言わねぇ」

「適材黒髪男」

「それまだ引っ張るのかよ」

 美都子が取り出した王冠を放り投げると、よたよたと歩くさかばーもの上で王冠が動きを止めた。そしてさかばーもの動きに合わせてふわふわ浮かぶ。

「……ふと思ったんだけど」

 王冠をぼんやり目で追っていた夏雄は、呟く美都子の方に視線を戻した。

「夏雄君も2足歩行してるわね」

「そうだな」

「凄いわね」

「普通だろ」

「果たしてそうかしら?」

「そうだろ」

「コロンブスの卵って言うし、夏雄君も夏雄君が歩く姿を見て目から角膜が落ちたんじゃないかしら?」

「失明してんじゃねぇか」

「2階の手から角膜が漏れる」

「ホラーかよ」

上手じょうずたなごころあれば水心あり」

「たな、え?」

「ともかく、夏雄君もあれね。偉いわね。こしあん辺りでもあげるわ」

「なんでこしあんなんだよ?」

「こしあんよりつぶあんが安しって格言があるのよ」

「格言かそれ?」

「っと、あらばも君」

 突然、美都子がさかばーもをあやしながら早歩きで進みだした。

「うっ、ううっ、うっ、」

「はい、ばも君これは食べ物じゃないからねぇ。ばも君は衣食足りてる正統派な龍だから、金を食べるのはやめようねぇ」

(龍の子も何でも口に入れるんだな)

「あう、ばう、うう」

「ばも君ね、私の指はカモシカのような指だけど、食べ物じゃないからねぇ」

(おい食われてるぞ大丈夫か)

 そんなこんなありながらも、さかばーもを先頭に道を進むと、さかばーもが建物の前でピタリと止まり、「ぐぷ」とそれを指差した。

「ん?知ってんのか?」

「ばも君のお父さんが仕事してるのよ」

 その建物はテントだった。占いの館を10倍ぐらいずつ拡大したような感じだ。

「ばも君のお父さん、サーカスの団長兼猛獣使い兼猛獣なのよ。自制心の強い方だそうよ」

「猛獣使いってそういうことじゃねぇだろ」

「人は誰しも誰の指図も受けずに猛獣になるものなのよ」

「がっぴー!」

 さかばーもが突然叫ぶと、テントのカーテンがサッと開いた。

「おぉ!その声はまさか、息子のさかばーもではないか」

「がぷぴぱがー」

 テントの中から篭もるような大きな生物の声がした。

「こんにちはー」

「こ、こんにちは」

 取り敢えず美都子に乗じて、夏雄も挨拶をしておく。

「やぁ、ここまで来るの疲れたろう。狭いとこだがここでゆっくり……」

 カーテンの隙間から姿を表したのは、さかばーもより遥かに大きな龍だった。

「……って誰だ?」

「あれ?私の事聞いてませんか?さかばーも君を預かって欲しいと頼まれていたんです」

「ん?そうかすまない。ちょっと待っててくれ。家内に間違いが無いか確認してくる」

 そう言って龍はさかばーもを抱えたままテントの中に引っ込んでいってしまった。

「うーん、ばも君のお母さんったら、このこと言い忘れてたのかしら?」

「は?」

「良かったわね。お父さんが紳士的で」

 美都子は足で丸を書いた。

「そうだな」

「彼の気性が激しかったら、今頃私達は無実の罪でけん玉みたいになってたところよ」

「要はとんでもないってことだな」

「結婚するならやっぱり、夫婦生活における3つの報連相をもっと大事にして欲しいわね」

「なんで3つあるんだよ」

「1つ目はほうれん草袋」

「スーパーにでも行ってろよ」



 それから少しして誤解の解けた2人はお礼とお詫びにとサーカスを楽しんで、夏雄が感想を言おうとしたら途中で家に引き戻された。

 取り敢えず習慣となったのでいつもの付箋を見る。

『西に月歩の子供あれば 行ってあんこを食わせてやり』

「前も思ったけど、なんであんこだけなんだよ」

 そして西ではなく東である。

前回は遊んでたので書けませんでした。わぁお。

ってことで代わりに今回はボリューム5割増です。

今回はかなり書いてて楽しかったんで、自分の書いてて楽しいことが分かってきた気がしなくはないです。

まぁこの作品が全体的に読みづらいのはみんな知ってると思うし。

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