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約1つのラベルと心臓  作者: 大門 笏
3/13

第n+1話 おかえりの火蓋

 二会手にえで 夏雄なつおは花火を見に行ったことがある。それどころか、手持ち花火を行ったことすらある。

 パチパチといった乾いた音の中で、いやそれ以外の何かも含めて、夏雄はまどろみの中で花火を連想しながら、体をゆっくりと起こ

「ストップ!」

 さなかった。

 冷静になればおかしな話だ。周りで仕切りに鳴る軽い破裂音が、花火である筈が無い。

 そしてこの熱風に煽られる感じ。それも全身を。

 全身……?

 なにやら尋常でない事態を体が察するとほぼ同時に、何かビニールに包まれた人体のようなものに体を抱えられる。

 冷静に軽く周囲を見回すと、辺り一面赤世界だった。

「っぅ!?」

 夏雄は慌てて反射的に息を止めた。その瞬間に苦い臭いが鼻で渦巻く。

(燃えてる……!?)

 ゴウゴウと火が自分の領地に胡座をかいている。火の形が燃えている物を想像させる。

「っ!」

 夏雄は目への刺激から、思わず目を閉じた。

 それから夏雄は頭を使いながらもただ雷に怯える子供のように縮こまって誰か何かの中にい続けた。

 それから気づくと目を閉じてずっと、熱風の中も涼しい風の中も暗闇だけを真剣に感じていた。

「はい、もう大丈夫だよ」

 夏雄がゆっくり目を開けるとほぼ同時にするりと人の高さから滑り落とされた。料理の工程のように夏雄は横向きにくるくると地面に転がり着地する。

 夏雄はチクチクする目をゆっくりと無理せず開きながら、改めて平静を取り戻す。

 とても、恥ずかしい。

 勿論、火の脅威にそこらの人間は無力ではある。

 だが、だからといって、大の高校生が自分を抱きしめるように震え上がっていたらそれは明らかに恥ずかしい光景である。

「えっと、ありがとうございます。ゴホッ、本当に」

 転がった雰囲気から自分を助けてくれた人の方向を類推し少し目を開ける。

「うわ大丈夫か君?髪が真っ黒焦げだぞ?」

「えっと、これは地毛です」

 万能翻訳機と万能翻訳マイクがまだ正常に動いてることを信じながら話を交わす。

「成る程。それで目が真っ黒なのは、火のせいなのかい?」

 助けてくれた人はハハハと笑った。

「ははは、それも……地眼?ん、元からです」

「夏雄君!」

 タタタと駆ける音と最早聞き慣れた声の方向に目を向けると、やはり侍乃公他じおれた 美都子みつこだった。棒のついたアイスか何かを2つ持っている。

「喉が渇いてきた夏雄君に唐辛子アイスを1つ売りつけてあげようと思ったけど、喉に負担がかかるといけないから2つ共私が食べるね。とても美味しそうに」

 というわけで唐辛子アイスを堪能している美都子は無視して、助けてくれた人に改めて日本の文化で頭を下げた。こういうのは精神でなんとかなる。

 そんな辺りで耳障りな警告するような音と共に、いかにも人を優しく運びそうな車が現れた。



 簡単な検査と薬の処方で、病院からあっさり帰された夏雄を待っていたのも、飲み物を持った美都子だった。

「お疲れ。まさか家火葬やかそうに巻き込まれるなんてね」

「やかそう?ここじゃよくあることなのか?」

 夏雄は美都子から渡された飲み物を一口含んで、喉への刺激に目を顰めた。

「お前、あのなぁ」

「ここで飲み物って言ったら大体炭酸よ。甘いか甘くないかはあるけど」 

「……」

「私冗談は言うけど嘘と冗談はつかないわよ?」

「それが嘘で冗談じゃねぇか」

「そうとも言うともあにはからんや」

 美都子の恐らく意志を持った歩みについて行きながら、夏雄は美都子の流言に軽くため息をついた。

「これは話題を変えましょ。ここの人はかなり火に強いのよ」

「火に?」

「故に火と思いっきり親しめているから、火への信仰が厚いのよ。さっき夏雄君が巻き込まれた家火葬だけど、あれは自分が引っ越す前の家を焼くことで家を弔っているの」

「ふぅーん。成る程な」

 日本でも人が死ねば火葬する。ペットが死ねば土を掘って埋める。そんなものか。

「子供がじゃれあって簡易的な火炎放射器で火をかけあったりもするみたいね」

「それはよく分かんねぇ」

「あら?夏雄くんはやったこと無いの?」

「いや俺日本人だからな」

「ニホンザル?」

「てめぶん殴るぞ」

 夏雄は手渡されたサイダーを仕方無くもう一口飲んだ。

「少年は皆どこの誰でも火に憧れ、テスト用紙を燃料にタバコと麻薬を吹かすものだと思っていたわ」

「んなわけねぇだろうが」

「変ねぇ。やっぱり最近のブームは非青年運転免許なのかしら」

「なんだよそれ」

「運転免許偽造して高校入りたてとかに自動車免許取るのよ」

「無理だろ」

「そこは何かを何かして何かするのよ。ほら、少年って憧れるでしょ?クラッカーとかビスケット」

「何かって何だよ」

「何かとは何かを見つけるのが青春ってものよ。……着いたわ。ここでまったりしましょ」

 美都子について入ったそこは、デパートだった。

「3階にフードコートがあるの」

 フードコート内は親子連れ等で賑わっていた。彼らの髪も肌も力強く真っ白だったが、関係の無いことだ。

「へー」

 確かに見渡すと、心なしか刺激物が多い気がする。熱い物、辛い物、意外そうなラベルを貼られている甘い物。

「なんか食べる?奢るわよ?100円まで」

「子供の菓子か」

「ここなんかいいんじゃない?『石鍋激辛炒飯』。石焼ビビンバみたいなものね」

「俺は食わんぞ」

「じゃあこれなんてどう?『石鍋ソフトクリーム炒飯』」

「絶対合わねぇだろそれ」

「評判はいいわよ。前に『石鍋シュークリーム炒飯』食べたけどなんとか悪くはなかったし」

「ギリギリじゃねぇか」

 その他にも、有名人と思われる人達のサインや記念写真が一列に展開されていた。フードコートでそこまでスペースを割くのは日本では珍しい。

「……おい」

 その店であるものを見つけた夏雄は美都子を短く呼びつけた。

「あら、どうしょうぼうしょ?」

 美都子がととと近寄ってくる。

「普通の水、あるじゃねぇか」

「あれ?」

 夏雄が指差した方向を見た美都子は首を傾げた。

「私、近場で売ってないなんて一言でも言ったっけ?」

「じゃあ炭酸じゃなくてそれ買えよ!」

「えーやだよー」

 美都子は口をとがらせた。

「そもそもね、いい、夏雄君?」

 美都子が言葉をゆっくり切った。

「覆水を前にした人が出来るのは、謝りながら盆を舐めるか、謝らせながら床を舐めるしかないの」

「何が言いたいんだよ」

「うーん、どっちかっていうと、砂漠でラクダを舐めるって感じだけど、あれ?」

「……」

「ま、とにかく、でも私は気軽に頼ってもらっていいわ」

「いや頼れるかよ!」

「……」

 美都子はここで顎に手を当て思案げな表情になった。

「なんだよ?」

「これ結構大変な問題ね」

「何が?」

「成る程成る程。うーん、そうよね。夏雄君は常日頃から天使の羽みたいなの持っててもらわないと」

「いや何の話だよ」

「そうよ。備えあればうしい れいな(10代男性)。夏雄君が精霊みたいな存在だったら誰も彼もハッピーーホワイト土用のバレンタインって感じで覆水と正月の凧が同時に重力を無視して上がってくるのよ!」

「待て俺の話になってないか?」

「もし私に問題が無かったら全責任を夏雄君に押し付けるしか無いじゃない」

「いやまず仮定を疑



えよ」

 突然の自分の家にも、もう慣れてしまった。薬の入ったビニール袋は持ったままなので軽い火傷や煙による痛みもすぐ治るだろう。

 そしていつものように勉強机の上を確認するとアイスの棒といつもの付箋があった。

『事実の刑には準備万端がアリ PS.そのアイス当たりだよ』

「どうやって引き換えるんだよ?」

 今の夏雄には知るよしも無いが、そのアイスの棒は結局大晦日の大掃除の時に捨ててしまうのであった。

投稿した時、美都子の出番が少ないって焦ってらぁ。うける(笑)

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