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絶滅世界 (ZOMBIE LIFE)  作者: バネうさぎ
第二章 Past days
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Past days -1-

 枕元でスマートフォンの通知音が鳴った。

 たぶんLINEのメッセージでも届いたのだろう。

 俺は8時間も寝続けたにも関わらず、湧き上がってくる倦怠感を押しのけ、ベッドから勢いよく起き上がった。


 頭が痛い。

 

 昨日遅くまで見ていたスマートフォンとパソコンの画面から発せられるブルーライトによる目の疲労が頭まできたからだろうが、頭痛薬も目には効かないのでどうしようもない。

 重い足取りで頭をすっきりさせるために洗面所に向かう。

 

 家には誰もいない。

 いつものように母はジム、弟は深夜に友達と遊びに行ってまだ帰ってきていないのだろう。

 そして父親は、単身赴任で九州から帰ってこない。


 家には俺一人。

 顔を洗いながら、先ほどのスマートフォンの通知音の正体を確かめるため、片手間でロックを外す。

 やはり、正体はLINEだった。

 大学のサークルの男子の同期5人で作ったグループラインで、友人の一人が他の友人が昨夜ボケた内容についていまさらツッコミを入れている。

 俺は、そのボケにさらにツッコむことも、友人のツッコみにかぶせることもせず、既読だけつけてLINEを閉じた。


 今日は、大学の授業はない。

 大学は春休みで来月3月から就職活動を控えている。

 

 みんな今の時期に志望業界の決定やSPI、自己分析といった準備を進めているにも関わらず、俺はこの時期を日がな一日ごろごろして過ごしている。

 そろそろ何かしなければならないという危機感はあるのだが、先延ばしにしてここまで来てしまった。


 スマートフォンの時計を見ると、12時を越えていたので、俺はキッチンの床下からカップラーメンを取り出して昼食にすることにした。

 ラーメンを食べていると、また大学のサークルのグループラインが動いた。


 >桐山、政治学2ってマークテストだったけ?

 どうやら俺指名のメッセージのようだ。

 俺は、成績評価は低いが、仲間内の中では比較的多く単位を取っているので、留年の危機にある一部の友人から当てにされていた。

 今回は、簡単に単位が取れる授業の情報を教えて欲しいようだ。


 >政治学2は片山教授の授業がマーク式で、阪上教授は筆記だったと思う。

 

 >おっけ さんきゅ

 

 かなり淡白な文に見えるかもしれないが、5人とも1年生の時からの仲なのでいまさら無駄に気を遣うこともない。

 1年生の初めには、大学デビューしようとバンドやテニス、体育会、飲みサーを皆それぞれ経験してきたが、雰囲気についていけず、夏ごろに今のまったり旅行サークルに入部して意気投合した。

 その後も他愛もないLINEの返信を何通かしながら、ラーメンを食べていると、30分は経っていた。


 俺は、ラーメンで八分目になった腹を休ませるために、ソファーに横になった。

 2月になっても未だ寒いので、毛布も忘れず被る。

 気分的に2度寝したくなってきたが、あまり睡眠で貴重な一日を無駄にしたくなかったので、俺はスマートフォンでネットサーフィンをすることにした。

 

 俺は、脳に刺激を求めて、9万人のフォロワーを持つ大手のオカルトニュースサイトにブックマークからアクセスした。

 サーッと指で画面をスクロールしながら気になる記事を探していると、ロンドンの監視カメラに映った幽霊やジャンボジェットから撮影されたUFO写真といったありきたりな話題の中に1つ気になる記事を見つけた。


  ‘‘奇跡の秘薬!?中国上海で脳死した子どもが意識を取り戻す‘‘


「中国、上海の上海第三総合病院で医療に革命をもたらすかもしれない奇跡が起こった。

 中国で古くから不老不死の秘薬とされていた『太歳』(別名:肉霊芝)を華僑の富豪が自身の脳死状態の娘に静脈から投与したところ、その娘が意識を取り戻したというのだ。

 太歳とは、秦の始皇帝時代からその記述がある、中国では口にすると不老不死になる肉塊の形をした生物である。

 そのサイズは、発見されたものの最大で20キロにもおよび、見た目は茶色のジェル状でスライムのようだ。

 2005年に記述に酷似した生物が中国の農村部で発見されて以来、3年に一度のペースで発見されている。

 正体は不明だが一説によると新種の菌類であるとか、地球最古の生物であるという。

 詳細はあがってきていないが、現地のローカルテレビでも放送されていることからどうやら信憑性の高いニュースのようだ」

 

 記事の後には、太歳と思われる生物の写真が添付してあった。

 大型のバケツの中に入れられたぶよぶよの茶色のスライムは目も口もなく、とても生きているようには見えず、現地の人々にいいように触られながら写真を撮られている。

 実は、この太歳という物質は以前からこのサイトで発見された記事を見たことがあったが、不老不死の秘薬というのは眉唾だと思っていた。 

 今回の記事を見て俺は、感心と疑惑の念を持った。

 

 ‘‘オカルトを好むものは常に懐疑的であらねばならない‘‘

 これは俺が氾濫するオカルト記事を参照する上での信条である。

 俺は心霊やUMA、地球外生命体と非現実的なニュースを好むが、同時にそれらすべてに懐疑的である。

 ニュースの90%が虚構であることを前提として、その中にある本当を自分で判断して楽しむのだ。

 何故ここまで懐疑的かというと、世界中でオカルトを生業としている者がいるからだ。

 これらの事業主は真偽を精査する暇もなしに常にオカルト的ニュースを提供し続けなければならない。

 そうしなければ自身の仕事が成り立たないからだ。

 実際、俺の閲覧している9万人のフォロワーを持つこのサイトも日に3回は更新している。

 結果的にオカルト的ニュースの絶対数は真実に対して圧倒的に増え続ける。

 であれば、消費するこちら側も50%も真実として受け取るわけにはいかないだろう。

 高いオカルトリテラシーを持って接さなければならない。

 

 

 スマートフォンから適度の刺激を脳に受けた後、俺は今度は身体に刺激を求め、ジャージに着替えランニングシューズを履いた。

 ランニングシューズとして愛用しているのは、Montrailの登山靴だ。

 2万円以上もしたこの靴は丈が長くて、履くのに時間がかかるのが欠点だが、その代わり足にフィットし、足裏に負担をかけないつくりになっていて、ランニングにとても重宝している。

 デザインも適度にスポーツ感が出ているので普段着にも合わせやすい。

 つい、5日前に買ったこの靴を時々目で愛でながら、俺は5キロのランニングを終えた。


 自宅に帰ると、母が帰って来ていた。


 「今日の夕飯なに?」

 俺は、テンプレートである質問を繰り出す。


 「今日は純が帰ってくるかわからないから、ご飯炊いて、スーパーで買ってきたお惣菜おかずにする」


 「ふーん。あいつ、今日もどっか泊まるんか」

 

 弟は大学一年生なのだが、最近ほとんど自宅に帰らず、外泊している。

 たまに帰ってきたかと思うと、無言でスマートフォンを眺めるだけで、気が付いたら再び家から居なくなっている。

 一日中家の番をしている俺とはまるで正反対の性質だ。


 俺は夕食を終えると、適当に動画サイトを漁って2時ごろに寝た。

 一日一日が同じことの繰り返しとなっているのですでに曜日と日にちの感覚を失っている。

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