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絶滅世界 (ZOMBIE LIFE)  作者: バネうさぎ
桐山のゾンビサバイバルガイド
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桐山のゾンビサバイバルガイド -2-

 悩んだ末俺は、西洋式で2階建ての築年数の少なそうな家を新拠点に選んだ。耐久性とベッドがありそうだという安易な理由だ。

 そしてその判断は正解だった。

 家中、風呂場からクローゼットの中まで完全にクリアリングした際に俺はコンパウンドボウを見つけた。貴重な遠距離武器だ。

 

 荷物を置き、懐中電灯のみを持って洗面所で上半身裸になると、俺は身体に傷がないか隈なく調べることにした。

 俺の身体は肉付きは悪いにしろ、日々の運動で引き締まり、適度に筋肉を備えている。大胸筋はそれなりに盛り上がり、腹筋も薄っすらと6つに割れている。我ながら惚れ惚れする肉体美だ。

 胸、腹、背中を確認し終わると、次は身体の末端に目を向けていく。

 肩から肘にかけても昔に比べるとかなり太くなっている。特に三角筋に関しては腕を真っすぐに伸ばすと形が分かる程に分厚く隆起する。そして最後に手のひらを確認する。手のひらにはマメひとつないが、指の関節付近にはタコがかなりの数できている。昔は長時間武器を握っているだけで血マメが大量にできて、かなり苦しんだが今では一日中でも握っていられる。

 

 身体に特にこれといった傷はないことを確認すると、俺は食事にすることとした。

 とりあえず戦利品を全て床にぶちまける。

 再確認するまでもなく夕食になりそうなのはカップ麺くらいしかない。先ほどこの家をクリアリングした際に見たのだが冷蔵庫はもちろん壊滅。食べられそうなものはやはりカップ麺とお菓子しか置いていなかった。元の拠点からはかさばるという理由で携帯食料しか入れてきていない。このままカップ麺をミネラルウォ―タ―でふやかして食べてもいいのだが、余りおいしくないのでもう少し家探しすることにした。

 

 「この辺かな?」

 俺は玄関付近のクローゼットを開けた。さっきクリアリングした時、ここには確か工具やキャンピング用品がたくさん収納されていた筈だ。

 「お、あった、あった」

 苦も無くすぐにカセットコンロを見つけると、それを持ってリビングに戻る。

 カーテンが全て閉まっていることを確認すると、俺はさっそくカセットコンロの着火確認を行った。カチカチッと音を立てて火花を散らすと火は簡単に点いた。ガスの残量は十分のようだ。

 「また後で替えのガスを探さないとな」

 俺はそう独り言つと、ミネラルウォーターを入れた鍋を置いて沸騰するのを待った。暗い見知らぬ部屋の中でコンロの火だけが光源としてゆらゆらと揺れている。

 怪談でもするのにはうってつけの雰囲気だ。しかし、あいにくここには俺一人。それに外には幽霊なんかよりよっぽど怖ろしい化け物がうろついている。

 考えてみれば毎日が肝だめしだ。こんな生活を半年以上続ける俺は肝が据わっている方だろうか。ここに女の子がいればとっくに吊り橋効果で恋に落ちているだろうに。


 「はぁ~」

 俺は自身の置かれている諸々の境遇を嘆き、大きなため息をついた。


 夕食をとり終わると持ってきた地図で現在地を確認した。自宅との距離は確認したようにおおよそ2キロ。現在地も把握できた。

 俺は現在地に赤ペンで丸を付けた。ここから隣県へと抜けるにはあと40キロといったところだ。このまま直線に進める保障もないので、実際はそれ以上の距離を想定しておかねばならない。

 「ゾンビ日記」を開いて今後の計画と新拠点の詳細を書き込み、戸締りを確認すると俺は2階のベッドルームで睡眠をとることにした。


-----------------------------

 

 「桐山さんどっちにします?」

 敏也は見つけてきたカップ麺を俺の座っている前に放り投げてきた。

 「どっちでもいいです」

 俺が生返事をすると敏也は「じゃあこっちもらいます」といって値段が高そうな方を選んで開封し始めた。

 

 デパートから脱出した後、俺達は近くの民家に不法侵入した。幸い民家には人はおらず、急いで逃げたのか玄関のドアが開きっぱなしだった。

 町はというとまさにパニックの佳境といった様子で、路上には渋滞した無人の車列と事故車。電柱に衝突し、止まらなくなったクラクションが遠くから鳴り響いている。

 あちこちに引き裂かれた死体と蘇った死体が入り乱れ、生存者よりもはや彼らを見つける方が容易い。

 町中の悲鳴とうめき声、そして空襲警報のようなサイレンが録音の避難指示とともにスピーカーから発せられ、町は終末の交響楽団のコンサート会場と化している。

 

 「どうするっすか?避難指示の通り、市民ホールに向かいますか?」

 「まさか!?こういう時はこうしているのが一番ですよ」

 「そうっすよね。桐山さんが馬鹿じゃなくて安心しました」

 敏也の試すような質問に、俺は彼の望む答えを難なく与えた。


 「これは俺の推測なんすけど...」

 敏也は俺の正面に座るとカップ麺を食べながら話し始める。

 「ゾンビは光と音の両方に反応するっすね。人間と遜色ないレベルで」

 「ええ。そうですね。恐らくあと匂いにも」俺は付け加えた。

 「え?」敏也は驚いて顔をあげる。

 「榎本さんを観察してて気づきませんでしたか?彼の嗅覚はステージが進むにつれて変質していました。あれは退化というよりは進化でしょう」

 「え?もっと詳しく」敏也が身を乗り出してくる。

 「ゾンビといっても結局は菌がそうさせているんですよ。生物にとって最も重要な使命は何ですか?そう、繁殖ですよ。菌類ならばなおのこと。つまりは宿主を自分の繁殖に都合のいいように作り変えていた証拠ですよ」

 「でも、それは身体の免疫反応がそうさせたとも言えないすか?」

 「ええ確かにそうですね。でも彼は何と言いましたか?いい匂いがすると言いませんでしたか?あの空間に人間が大勢いたことを考慮すれば辻褄が合いませんか」

 「おー。確かに」

 ついつい饒舌に話してしまったが、内心気が気ではない。この外の凄惨な状況を目にして、家族や友人の安否を確認できないことは俺をより焦らせていた。この家の固定電話も試してみたがやはり繋がらなかった。こうなればいよいよ生存は絶望的だ。家族や友人がこの外から聞こえるとんちんかんな避難指示に従っていれば今頃は奴らの仲間入りを果たしていることだろう。


 絶望的な状況にも関わらず、不思議と涙1つ流すことはない。それどころか感覚が徐々に冴え始めている気がする。

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