パニック・イン・ザ・ストア -17-
「この中は危ないんじゃないんすか!?」
従業員通用口の扉の前で敏也は俺に問いかけてきた。
「たぶん大丈夫です」
「たぶん?適当な理由でこんなとこ入りたくないすよ!」
敏也の語気が強まる。ここで問答をしていても時間がもったいないので俺は仕方なく理由を話すことにした。
「いいですか。まず榎本さんを最初にこの奥で襲ったのはゾンビです。それは敏也さんもわかりますね」
俺は敏也が返事をするのを待たずに話を続ける。
「襲われた後、榎本さん何て言ってたんでしたっけ。確か"襲ってきた相手が仲間を呼びに行ったからこの先は危ない"ですよね。おかしいとは思いませんか?
あの時は敵の正体が掴めていなかったので疑問には思いませんでしたが、襲ってきているのはどう見ても映画で見るようなゾンビです。ゾンビが目の前の餌を見逃して仲間を呼びにいきますか?」
「なるほど。じゃあ榎本を襲ったゾンビは死んでいるか少なくとも動けないってことっすね」
「そうです」
「でも1ついいすか?何でその通りに報告しなかったんすか?」
「それは扉を開けたら、わかりますよ」
俺は通用口の扉を開いた。中はあの時と同じで真っ暗だ。
肩から掛けている小型バックの中から小さな懐中電灯を出し、自分達の足元から奥を照らしていき、ここが通路になっていることを確認すると同時に目当てのものを見つけた。
「あれです。」
俺は懐中電灯の光でそれを照らして、敏也に示した。
それは頭が割れた女性の死体だった。右手には指が3本しかない。
「あれが...なんすか?」敏也が問う。
「たぶんあれが榎本さんを襲ったゾンビであり、彼と中山さんの元同僚です。多分、榎本さんは人殺し、それも同僚を殺してしまったことを隠しておきたかったんでしょう。だから僕たちをここに入れたがらなかったんですよ」
「なーんだ。結局あの人も俺達と同じじゃないすか」
敏也はそう言って笑ったが、俺は榎本と敏也に決定的な差があると思った。それは意識の差だ。榎本はとっさに殺しはしたがそれを隠す程度の罪悪感は持っていた。だが敏也は違う。彼はまだ転化してもいない榎本を惨殺した。それも計画的に。
そして恐らく俺の感性はどちらかといえば、敏也に近い。だからこそ、俺は隣のこの男を危険視している。
この男とこのままいれば、いつか殺し合うことになるだろう。
通路の突き当りには部屋があった。"事務室"と書かれたドアの向こうにはマネージャーと老人のゾンビがいるのだろう。
俺はそこではなく通路の途中にあるドアを照らした。ドアには"非常用出口"と札が張られ緑色のランプがドアの上で鈍く光っている。
「ここです」
俺達はドアノブに張られたプラスチックのカバーを破壊してドアを開け、太陽の光を再び浴びることに成功した。
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以上で三章終了です。次回よりは4章に突入します。




