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絶滅世界 (ZOMBIE LIFE)  作者: バネうさぎ
第一章 One day
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One day -3-

 朝日を浴びろとよく親に言われたが、以前は実行しようともしなかった。

 

 しかし、今の俺は朝6時に起きて、少ないながらも朝飯を食べ、朝の散歩で朝日を浴びている。

 カロリーのある食事が恒常的に摂れれば、健康にとっては理想的な生活であろう。


 そしてさらに今食後のランニングをしている。

 厳密には、物資調達が目的であるが、運動量的にはランニングと同じ位なのでランニングである。


 俺は物資調達の移動手段を2つに決めている。

 徒歩と自転車だ。

 なぜ自動車を使わないのかというと、自動車はエンジン音がうるさく、注意を引くためという至って単純な理由のためだ。

 ならば、比較的エンジン音の小さいハイブリットカー等を選べばよいのではないかという話になるかもしれないが、車道の乗り捨てられた自動車によって退路を断たれることを危惧してでもある。

 もちろん万が一のために脱出用の車は用意してあるのだが、それ以外の用途で車を使う予定は今のところない。

 

 徒歩と自転車は、車よりも移動速度は遅い代わりに注意を引かずに行動することができる。

 

 目立つことはしない、これが鉄則だ。


 俺は「やつら」だけではなく他の「生存者」に発見されることも恐れている。

 生存者は、もれなく暴徒だ。

 もちろん自分も含まれるのだが。

 この世界で生き残るには、もはや他人の物資を盗むしかない。

 そのためには、窓を割り、ドアを破り、バールで無理やりこじ開けるしかないのだ。


 フィリピンで巨大台風があった際にニュースで「暴徒」としてとりあげられた一部の国民と今の生存者は大差ないと俺は考えている。

 人間、極限状況に陥れば何をしでかすかわからない。

 

 そんな状態で生存者同士が出会えば、必然争うに違いない。

 唯一の解決手段は、相手側のコロニーに参加するか、相手を自分の居住区に迎え入れることだが、この展開は多くのパニック系サバイバルの映画で示されている通り、あまりいい選択肢とは言えない。

 特に相手側が自分より強いあるいは人数が多い場合には、最悪の選択肢となりうる。

 逆に相手側が、自分より弱く一人きりであれば、負担は増えるが、今の生活から「孤独」は消え去る。

 その「孤独」が、果たして負担を背負ってまで手に入れる価値があるかであるが、それは相手次第であろう。


 とは言ってもここ3か月間一人も生存者と出会っていないのが現状なのだが...

 

 道で出会うのは「やつら」だけだ。

 「やつら」とは、いわゆるゾンビのことだが、メディアは患者および感染者の人権を考慮してゾンビという直接的な表現は使わず、「変形菌症患者」、「上海病患者」と呼んでいた。

 今思えば、そんなメディアの配慮が、国民の危機意識を下げてしまった部分もあるが、何の配慮もせずに直接的な表現で国民の危機感を煽っていた韓国が日本より早く滅びてしまったことを考慮すると何とも言えない。


 ゾンビ病の正式名称は‘‘寄生性変形菌症‘‘で、変形菌(粘菌)が人体に寄生することによって引き起こされる感染症である。

 感染者は、反社会性の人格障害を患い、意思疎通が不可能となり、動くものを食物とみなして捕食しようとする。

 主な感染経路は、感染者の体液又は組織の一部が、粘膜や血液に付着することによる体液感染であるが、高齢者や乳幼児といった免疫の弱い者はくしゃみ等の飛沫感染をしたという例もある。


 感染後、変形菌は感染者の細胞を餌に繁殖、血液を通して脳を浸食し、発症する。

 発症までの時間は、傷の程度、感染方法によるが6時間から3日間が一般的、5日間耐えたという情報もかつてネットで仕入れたことがあるが定かではない。

 新鮮な状態であれば、死体にも感染するという恐ろしい病気である。


 

 今俺は自宅から300m程離れた地点まで来ている。


 目標の地点は、あと300mの地点にある100円ショップである。

 この100円ショップには、俺が必要な物資として書き留めた「単一電池」、「木炭」、「ガムテープ」の全てが揃っている。

 以前にも物資を盗りに行ったことがあるためよく知っている。

 

 「ゾンビ日記」には、よく利用する物資の置いてある場所もメモしてあり、この3つも記録してある。


 俺は、周りを注意深く観察しながら競歩に近いスピードで着実に歩みを進めていく。

 幸い開けた道のため、突然ゾンビに出くわすということはないが、緊張の糸は切らない。

 両手で鉄パイプと包丁をビニールテープで繋げた簡易薙刀をしっかりと握りしめ、体勢は前かがみ、軍隊が行軍する際の動きを意識する。

 

 そうして100円ショップに到着した頃には、自宅を出てから20分以上が経過していた。

 

 店内は、すでに電力の供給が失われており、奥の様子は暗くてうかがい知れない。

 入口に向かうとすでにドアは無く、かつてガラス製の自動ドアがあった場所には大量のガラスの破片が散らばっているだけである。

 

 ガラスを跨いで店内に入ると、床は薄く埃でコーティングされている。

 埃には、足跡がところどころついているが、この足跡は全て俺が愛用しているMontrailのランニングシューズの形をしている。

 つまり、俺が5日前にここを訪れて以来、足のある来訪者は俺以外いないということだ。


 念のため、店内をくまなく警戒した後、俺は必要な物資を背負ってきた30Lのリュックに詰められるだけ詰めていった。


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