パニック・イン・ザ・ストア -13-
次に全員が揃って目を覚ましたのは、スマホの時計が午前7時を示した頃だった。
自動消灯していた店内に再び灯った光が、太陽の代わりに俺たちに朝を告げてくれた。中山によると商品の搬入と開店準備のために午前は忙しくなるため、7時になると全館自動で電気が点くようになっているらしい。
俺達はトイレ内に設置された簡易洗面所にて交替で顔を洗い、朝の支度を済ましていった。
俺は顔を洗うついでに水道水をたんまり胃に入れて腹の足しにしようとも思ったが、用を足したくなるとこれはこれで別の問題が浮上するので、一口だけ胃に入れた。
「いつまでもこんなとこにいると肩がこるわ」
順子がぼやき、それに森田が同意した。
狭い空間で寝たため、身体の疲れは全くと言っていいほどとれていない。
疲れが取れなかったのは他の者も同じなのだろう。
榎本は目を真っ赤に充血させ、晃も目の下に昨日まではなかったクマをつくっていた。神経質そうな彼のことだ。昨日はほとんど眠れていなかったに違いない。
妻のほうは相変わらず言葉数は少ないが、夫ほど疲れてはいないのか時折笑顔を見せながら、夫の代わりに周囲に返事をしている。
「お腹減りましたよ。そういえば昨日から何も食べてないです」
伸びをした中山の関節はポキポキと快音をたてた。
「何かあったかしら」
順子は自身のカバンを漁り、やがてカラフルな包装がされたスティックガムを取り出して、中山に差し出した。
「こんなのしかなかったわ」
「すみません。いただきます」
中山は礼を言うと、スティックガムの包装を解き、ガムを一つ取って順子に返す。
そのままガムを噛みだすと微かに花のような香りが漂ってきた。
「いい匂いがすると思ったらそのガムの匂いですか」
充血した目で虚空を見つめていた榎本が唐突に口を開いた。
「何の匂いか当ててみて」
「カレー...。いやもっと香ばしい匂いですね...」
「全然違うわ。これはバラ風味よ」
見当違いな回答に順子は少しはにかみながら、パッケージを榎本に見せて答えを披露した。
「バラですか...。とにかくひどく食欲をそそる匂いですね。私もお腹が減ってきました」
榎本の見当違いの嗅覚は彼をかなり消耗させていることを物語っていた。何より彼の左手の前腕は昨日からひっきりなしに掻いていたせいでかさぶたをつくる暇もなく、血が滲んでいる。
この空間で依然としてリーダーであろうする彼の自意識過剰な責任感は彼自身を蝕んでいるのかもしれない。この空間の統率は意外にも彼を筆頭に崩れるかもしれないなと俺は思った。
「僕もガムいただいていいですか?」
俺はなるべく愛想よく順子にガムをねだり、貴重な朝食を手にした。




