パニック・イン・ザ・ストア -11-
外の世界にいる家族に連絡を取るため俺達は中山と順子のスマホを借り、各々の家族に連絡を取ろうと試みた。しかし、どの番号にかけても通話中を示す単調な音しか聞こえず、結局俺達は途方に暮れた。
「くっそ」
榎本がワックスで固められた髪を右手でくしゃくしゃにしながら、悪態をつく。
「チッ」
敏也が連鎖的に舌打ちをする。
そしてそのやり取りを他の数人が鋭い目つきで見守る。
ビィーーーーーーー。
突然、トイレ内に不快音が響きわたった。その音は抑揚がなく、テレビの信号音を低音にしたような印象だ。
この不快音の発生源を探し、全員が周囲を見渡す。まるで世界の終わりを知らせるかようなその音は、先程まで民放を映し出していた中山のスマホから聞こえてきていた。
画面には以下のように表示されていた。
『政府緊急速報 しばらくお待ちください』
表示された画面に映し出された文字を見て、全員が息をのむ。
今まで慌ただしく被害の甚大さをまくしててていたテレビキャスターの声と現地ヘリからの映像よりも、この単調な不快音と一行の文字列の方が危機的事態を如実に語りかけていた。
全員が小さな画面を食い入るように見ていると、パッと画面が切り替わり、スーツを着た初老の男性を映し出した。
小奇麗なスーツに似合わず、その顔には明らかな疲労と狼狽が表れている。
『えー。ゴホン。もう音、入ってるのか』
初老の男性は自身の前に設けられた演壇に置かれている原稿を神経質に見ながら、画面外のスタッフに話しかける。
画面外で慌ただしく混雑する声の中から、スタッフの肯定の声が聞こえると、初老の男性は前に向き直る。
『えー。現在、日本国内だけでなく世界中で同時多発的に起こっております暴動や事故についてですが、既に各局で報じられているように寄生性変形菌症の患者によるものであります。この奇病についてはかねてよりWHOや国立感染研究所にて
研究が進められており、幾つかの症状が確認されております。』
初老の男性が原稿のページをめくると同時に画面の右端に「内閣府 友利事務次官」というテロップと、上方に「非常事態宣言」といった内容のテロップが流れ始めた。
「おい、政府の緊急会見なのになんで総理大臣が出てこないんだ?」
敏也が疑問をぶつける。
「た、確かにそうですね。何かあったんでしょうか」
晃が同意し、疑問を上乗せする。
「もしかして、もう安全な場所に避難してるとか。核シェルターとか...」
中山が答える。
「この非常事態に国民おいてトンズラこきやがったのか!?」
敏也は苛立ちを抑えることなく大きく悪態をついた。
彼らが会話をしている間に事務次官は症状を話し終わり、次の話題に入ろうとしていた。
『現在、国内の一部で携帯電話の基地局の機能が停止するという事態が生じており、警察や消防に連絡ができない状態となっております。そのため事態が沈静化するまで国民の皆様には可能な限り、自宅待機を願います。
また、有症状者や患者、感染が疑われる方につきましては、人混みへの接触を避けていただきたく...。特に医療機関への受診は混乱が予想されるため、お住まいの地方公共団体の許可があるまで、お控えください。
政府では現在、事態の鎮静化に向け、地方公共団体や報道機関と協力を進めており、今後、都道府県ごとに順次避難誘導を行う予定ですので、テレビやラジオの電源は入れた状態で待機ください。』




