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絶滅世界 (ZOMBIE LIFE)  作者: バネうさぎ
第三章 パニック・イン・ザ・ストア
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パニック・イン・ザ・ストア -10-

 「どういうことっすか?」

 敏也が追求する。その目には非難の色が浮かんでいる。


 俺は即座に受け答えに失敗したことを悟った。


 狭い空間に大人数、さらに外には死の恐怖。

 沈黙でさえ苦痛に変わる。

 彼が意図していても意図していなくとも、先程の会話はこの空間のストレスを緩和していた。

 この苦痛から解放される希望があると皆信じたいのだ。

 その証拠に今現在俺の方向に全員の視線が向けられている。

 

 「いや、あの、そういうつもりじゃなく。ここに僕たちがいるということを誰かに知らせないと助けに来れないんじゃないかと思いまして」

 俺は3秒で考えた言い訳を口にする。



 「...確かに。そうですね。携帯もメールも使えないんじゃ、このままデパートごと隔離ということも」

 榎本が反応する。


 「も、も、もしこれがテロリストの仕業でないなら、この状態にも説明が付きませんか?」

 森田が突然口を開いた。

 「普通に考えて、電波妨害なら電波なんか、た、立ちませんよね。電波がシャットアウトされるんですから。でも大勢の人が警察に電話しているならさっき電話がつながらなかったことにも説明が...」

 森田は喋るにつれ、声がどんどん小さくなり、最後の方は何を言っているか聞き取れなかったが、言わんとしていることは全員が理解した様子だった。


 「あのいいですか...。皆さんの来る前、僕ずっとスマホでニュース見てたんですけど。これ見てください」

 唐突に中山がエプロンのポケットからスマホを出して、その画面を見せた。


 スマホは有名検索エンジンの運営するネットニュースサイトを映し出していた。

 『飛行機の墜落、高速道路での大規模な交通事故。東京都心での暴動。大阪での無差別殺傷事件...』

 何十、何百もの事件、事故が5分を刻まずに更新されている。


 「これはどういう...」

 全員が絶句した。この種々のニュースが今、自分達の置かれている状況と無関係でないと悟ったからだ。

 すべて説明がついてしまう。

 この状況をゾンビ映画に例えるとすべて説明がついてしまう。

 各々が知るゾンビ映画、小説、ゲームは違えど、発狂した人々の出現、同時多発的に事件事故が起き、インフラが破壊される様はどれも似通ったものだろう。


 「そのスマホでテレビとかみれないすか?」


 「たぶんアプリをダウンロードすれば見れると思います。やってみます」

 

 中山がアプリをダウンロードしている間、再びこの空間には沈黙が訪れた。

 俺はその間ずっと昨日食べた回転ずしのネタを思い返していた。

 9貫目の後に食べたプリンの味を思い出そうとしたとき、テレビが付いた。


 『政府からの公式発表はありませんが、今現在日本各地で多発しております事件事故の要因は、当番組でも幾度か紹介しております寄生性変形菌症の患者であると考えられます。

 テレビの前の皆様のご家族やご友人の中に突然挙動がおかしくなったり、発熱するという方がおられる場合、近づかず、110番及び119番をしてください。

 また、ご自宅におられる方やこれから外出される方は外出を自粛し、安全が確認するまで自宅に待機し、各地方公共団体の支持に従ってください』

 

 『見てください!たった今から東京大手町の交差点にて警官隊総勢300名が感染者の鎮圧をおこなう模様です。警官隊は皇居を背にして2方向から迫る感染者に対峙するものと考えられます。皇居は現在、非感染者の

 避難場所として提供されており、また都内では外出禁止令も発令されています。そのため、ただいまこのヘリの上空から見える人影はほぼすべてが感染者と言っても過言ではない事態です!

  み、見てください!警官隊に向け一斉に人影が動きだしました!何と恐ろしい光景でしょう!警官隊の人数を遥かに上回る数の感染者が今、警官隊に向けゆっくりと移動しています!』

 

 そこから30分間、俺達はチャンネルを次々と変えながら、今、日本で起こっている事態を確かめた。

 しかし、どのチャンネルも全国で同時多発的に始まった死のパレードの様子を実況するだけで、CMも含めて他の話題は一切報じられなかった。

 いつのまにか中山から取りあげられたスマホは、せわしなくチャンネル変更される苦役から解放され、今は無作為に選ばれた民放の報道を垂れ流しにしている。

 画面の上方を間をおかず流れる緊急速報は都市部の交通事故や芸能人の訃報から、やがて他国の被害状況、日本の議員や大臣の訃報とスケールが大きくなり始めていた。


 「僕たちのことは出てきませんね...」

 

 そう誰かが発するのを合図にさらに空気が重くなるのを感じる。

 その発言の通り報じられたニュースの中には俺達のことどころか、このデパートで起こった惨劇のことですら触れられることはなかった。

 自分達の存在が誰にも認知されていないことは、すなわち助けに期待できないということである。

 

 「だ、大丈夫よ!もう報道されてしまって出てこないだけよ」

 まるで自分に言い聞かせて安心するためのように順子が会話を繋ぐ。


 冷静に考えて、もう報道されてしまったのなら、なおさらそろそろ外で何らかのアクションが起こされていてもおかしくはない。

 さらに言ってしまえばこれだけの大事件、普通なら生中継され、随時速報が入るレベルであるのに一度報道されて終わりなど異常すぎる。

 今俺達が置かれている惨劇を世界各地でさらなるスケールの惨劇が上塗りしていることを物語っている。


 俺は水を差すこともできずに、ただただ動かずにひっそりとしていた。

 今朝食べたヨーグルトがもたらしたカロリーが底をつき、腹から音が漏れ始めているからだ。

 

 これは想像以上にリミットは近いかもしれないな...。


 今はまだ腹の音を隠す程度の羞恥心を披露する余裕があるが、このような状態が続けば身体が言うことを効かなくなっていく。そうなれば、人間としての尊厳を捨てる行動に出る必要にも迫られるだろう。

 特に食事が摂れないということは、この状況では最も重要な課題である。

 まだここに籠城してから半日も経たないというのに胃が空腹とストレスでキリキリと締め付けられているのを感じていた。


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