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絶滅世界 (ZOMBIE LIFE)  作者: バネうさぎ
第二章 Past days
11/46

Past days -4-

 ‘‘上海病‘‘。

 その病気ははじめそう呼ばれた。


 理由は簡単で中国の政府高官が発表した最初の症例のある場所が上海だったためである。

 5月初頭に正式に発表されたこの原因不明の病気の存在は、各国のメディアにより政府高官の記者会見から10分後には全世界に拡散されることとなった。

 この頃には、隣国の韓国ですでに類似した症例の患者が現れていた。


 先進国の一部メディアは、この病気の取り扱いに苦慮した。

 なにせ、その症状がスクリーンの中でしか見ることのなかったゾンビそのものだったからだ。

 

 多くのホラー作品でその畏怖を集めたゾンビは、現実に存在してはいけない。

 なぜなら、その存在が恐怖のシンボルマークであるからこそ、ホラー作品にキャスティングされているからだ。

 ゾンビに限らず、貞子も伽椰子もレザーフェイスもフレディも映画の中にしかいないからこそ人気を博しているのであり、現実世界では到底受け入れられない。


 上海病などという一見、脅威を匂わせない名前を先進国がほとんど同時に使いだしたのも、ゾンビ病などと安易に名付けて自国民をパニックに陥れないためだったと言える。


 5月の中頃に国連からWHO(世界保健機関)の調査員が派遣されることとなったとき、もう一つの問題が発生した。

 中国政府が、調査員を感染源のある上海へ受け入れることを拒否したのだ。

 すでに感染源一帯は完全隔離区域となっていて、今後の感染を防ぐためにも一切の人の出入りを禁じているというのが彼らの主張であった。

 1週間に渡る政治的攻防の末、WHOは感染者のサンプルのみを持って帰国することとなった。

 

 感染者のサンプルからは以下の事がわかった。


 ・当該病気の原因となっているのはウイルスではなく、細菌に酷似した粘菌(変形菌)であること。

 

 ・当該粘菌は、新種の粘菌であること。


 ・当該病気の感染は、感染者との接触感染によること。


 ・感染源は、不明であること。

 

 有効なワクチンを作るためには、感染源の特定が必要とされた。

 事実上の「サンプルからワクチンを作ることは不可能だ」という報道がなされた時には、病気の存在が発表されてから、既に2か月以上が経っていた。


 

 スマートフォンを取り出し、就活中に一度も検索しなかった就活情報に関係のないワードである‘‘ゾンビ‘‘を打ち込む。

 その賑わいは検索候補からも一目瞭然だった。

 ゾンビというタグが付けられたサイトの最終更新日が軒並み一日以内となっており、ネット上は案の定お祭り状態となっている。


 『ゾンビによる終末まで秒読み!』

 『【朗報】人類終了のお知らせ』

 『全世界のオカルトマニア歓喜!!』

 『感染源を考察するスレ』


 といったように不謹慎な記事や掲示板のスレッドが乱立され、そこに多くの人間が集結して、オカルト界隈はかつてない勢いを見せていた。


 俺は、その中から贔屓にしている大手オカルトニュースサイトを開く。

 サイト内のカテゴリー検索を一瞥すると、今まで人類やサイエンスにカテゴライズされていた‘‘ゾンビ‘‘が1カテゴリーとして表記されていた。

 俺は、迷うことなく、そのカテゴリー‘‘ゾンビ‘‘を選択する。

 すると、最新の記事におもしろい見出しが付けられていた。


 『上海病いわゆるゾンビ病の正体は「太歳」だ!』


 それは、上海第三病院で華僑の娘が意識を取り戻した後に起こった。

 以前、その記事を自身のサイトで取り上げていたサイト管理者が目をつけるのは当然の流れだ。

 記事には、以前の記事の振り返りとサイト管理者の考察が添えられていた。


 「太歳からは以前中国の研究所が調べた際に未知の菌が発見されていて、今回の病気の正体はその菌ではないかと作者は考える。

 世界が、バイオハザードやウォーキング・デッドみたいにならないようにWHOにはぜひ一度太歳の調査を進めてほしい。」


 原稿用紙二枚分ほどの容量の記事には、それをはるかに上まわる量のコメントが寄せられていた。

 その記事に対する否定や賛同はほぼ同量だ。

 サイトを再び見るまで以前の記事をすっかり忘れていたが、俺は素直に感心の念と賛同を覚えた。


 俺は久しぶりに大学のサークルのLINEにメッセージを打った。


 >ゾンビがまじで発生したな。

  世界終わりだ。

 

 久しぶりのメッセージにも関わらず、すぐに既読と返信が届いた。


 >そうだな

  これで就活しなくていいな笑


 >俺も卒業の心配がなくなって安心した がんばれウイルス

 

 半分冗談半分本音とも取れるやり取りをしばらくした後、話題は大学4年生らしいものへと変わっていった。


 >そういえば、桐山就職活動終わったのか?


 >ああ。終わった。


 >どこにしたんだ?


 >うちの地元の食品メーカー。

  大学の説明会にも来てた、洋菓子作ってるとこ。


 >ああ あそこか

  なかなかいいじゃん


 >田中は終わったのか?


 >俺は金融志望だからこれから


 >そうか。

 

 やりとりによると就職活動を終えたのは、5人のうち俺を入れた3人で他の2人は金融志望でまだ選考がないのと、授業が忙しくて就活がままならない様子だった。


 >就活終わったら、海外旅行いこうぜ


 >いいねえ


 >でも今、海外やばくないか?


 >むしろ行く人が少なくなっているから、安いだろ


 俺はこの意見に妙に納得してしまった。

 俺は「安さ」と「安全」ならば、断然「安さ」を取るほうだ。

 というのも、海外旅行で今まで命の危険に晒されるような事態に遭遇したことがないからである。

 過信と経験が行動を誤らせている可能性があることは承知している。


 友人達とのやりとりは、2時間ほどに及んだ。

 とはいえ、片手間で返信をしていたので、ずっと携帯の画面を見ていた訳ではない。

 今はLINEのメッセージを打ちながら、各放送局の情報番組を確認している。

 番組で、上海病がどのように取り扱われているか気になったかからだ。


 番組では、おおよそ一時間の放送の中で上海病の取り扱いはどこも15分ほどに留まっていた。

 取り扱いのされ方も海外のここで感染者が見つかったであるとか、病気は日本には上陸していないであるとか危機感を煽るものは一切なく、‘‘ゾンビ‘‘というワードすら出ない様子であった。

 エボラ出血熱がアフリカで確認された時のようなどこか他人事のような印象とネットとのギャップに違和感を感じることとなった。


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