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絶滅世界 (ZOMBIE LIFE)  作者: バネうさぎ
第一章 One day
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One day -1-

 握りこぶしほどの目覚まし時計が朝を知らせた時、頭の中では携帯電話が鳴っていた。


 俺は、遂に救いの手が差し伸べられたという安堵感に包まれながらゆっくりと目を覚ました。

 目の前には黄色の天井。枕元では、依然目覚まし時計が鳴ってる。時間は午前5時50分。


 いつもと同じ朝の光景だ。


 現実感を取り戻すため、しばらくそのままの体勢で天井を見つめた後、俺はベッドから起き上がった。


 ベッドの傍の勉強机にある缶から、乾パンを1つ摘みあげ、口に入れる。

 しっかり咀嚼した後、パサパサとした口内に潤いを求めて、ペットボトルの水を口に含む。

 この作業を2回繰り返した後、今度はすぐ傍のカーテンを開けてみる。


 空は、晩冬の朝らしく未だ濃紺の色をしている。

 窓から見える外は、ただ無造作に車が駐車されているだけで、人の歩く様子もない。

 音に関しても、煩い新聞配達のバイクのエンジン音どころか雀の鳴き声すらない。

 

 静かである。


 俺は、しばらく外を観察した後に着替えをクローゼットから取り出した。

 パジャマ替わりのジャージから、伸縮性の高い青のジーパンと、黒のタートルネックのアンダーシャツ、 緑のパーカーに着替える。

 コーディネートとしては、ダサいことこの上ないが、見せる相手もいないので気にならない。

 

 着替えが終わると、ベッドの下に落ちているマチェットをベルトに差す。

 俺が日々、ベルトが着けられるズボンを選ぶのはこの相棒を提げるためだ。


 手探りで相棒の居心地の良い位置を調節してから、俺は自室を出た。


 自室を一歩出ると、お菓子の袋やペットボトル、着古した服、その他様々なゴミが床のあちこちに散乱している。

 大掃除の必要性に辟易しながら俺は、1階へ下り、リビングを抜けた先のダイニングに向かった。


ダイニングを4割ほど占拠するテーブルには、鯖や鶏肉、果物等の缶詰が無造作に置かれている。

 俺はそれには目もくれず、畳んである薄手のジャンパーを着て、新聞紙の上に並べられたランニングシューズを履く。


 準備が終わると土足のまま、今度はキッチンの奥にある勝手口へ向かう。

 ドアノブを掴み、音がでないようにゆっくりと開いたが、ドアはキィと金属の音を微かに響かせて開いた。


 頭だけ少し出して、外の様子を窺う。

 誰もいないことを確認した後、外へと足を降ろす。


 勝手口は幅1メートル程の路地裏に面している。

 路地裏は、区画整理されて綺麗に並んだ7軒の一戸建てとアパートの間にあり、その道は50mほど続いている。

 さらに、路地裏は3本に分かれていて、いずれも公道へと出る。


 俺はドアを閉め、目の前にある我が家の敷地と路地裏を仕切るアルミ製の扉を静かに開き、路地裏へと出た。

 2月を迎えたが、依然として外の空気は冷えきっている。

 体感では1度かそれ以下だ。

 息を吸い込み、肺を酸素でいっぱいに満たすと冷気で身が引き締まったのかやっと目が覚めた気がした。


 何の気なしに足下を見るとアスファルトの隙間から雑草が生え放題になっている。

 以前は自治会が定期的に路地裏の清掃を行っていたが、現在参加者はいないため放ったらかしの状態だ。 だからと言って、代わりに掃除をしようなんて殊勝な考えをもったことはない。


路地裏をしばらく歩いて適当な場所で立ち止まると、俺はそこで壁に向かって、本日初めての排泄をした。



 外の光を浴びて家に戻ると、時計は午前6時半を指していた。

 俺は、家の戸締りを一通り確認すると、ベルトからマチェットを外し、毛布を被ってリビングのソファーに横になった。

 リビングのソファーは、枕代わりにクッションを置くと、ちょうど腕置きに踵が乗るサイズで身長173㎝の俺にぴったりのつくりだ。


 そのままソファーで寝転がり、自然と2度寝できることを期待しながら、1時間ほど漫画を読んでいたが、

 ジャンパーも手袋も着けずに出たため、外の冷気にすっかり充てられて完全に目が冴えてしまっている。

 

 朝の食事と排泄および見回りを終わらせた俺としては、昼食まで極力体力を使いたくないので、この状態は実に好ましくない。



 俺は、何度同じ話をループさせたかもわからない漫画の催眠効果に限界を感じたため、漫画を床に置いて目を閉じた。

 

 目を閉じると、色々な考えや記憶が湧き上がってくる。

 その流れにそのまま脳を任せると行き着くのは大体が、最悪な記憶や将来への不安である。

 

 だから、俺は寝るときはいつも、本を読みながら自然と寝落ちするに任せるか、現実離れした空想に浸る。

 空想の中では、俺は自作のファンタジー世界の主人公であったり、既存の漫画やアニメの強キャラであったりする。

 現実世界と全く乖離した設定をあえて選ぶことで、現実の入り込む余地をなくすのだ。

 この手法で俺は、現在36日間連続快眠を達成している。


 最近のトレンドの空想メニューは、俺が1年前見ていた深夜アニメの世界だ。

 そのアニメは、最弱だった特殊能力者の主人公の少年が能力者の集まる高校で仲間との出会いを通して強くなっていくという設定のライトノベルを原作とした作品だった。

 俺はその設定で謎の能力者というオリキャラとして登場し、主人公を圧倒するという空想を繰り広げる。

 剣の動きや能力の詳細などできるだけ細かく描写することで空想の世界は広がりを見せていく。


 そうして、空想するうち、いつものようにぱったりと眠りについた。








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