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都恋愛事始  作者: 由一 朗
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杉田玄也が五条松原の自宅を出て四条川端の南座裏手へ着いたのは酉刻(午後五時)を少し回ったばかりだった。

酉刻と言ってもこれから夏へ向かおうとしているこの時季の日はまだ高く、空を仰ぎ見れば雲ひとつ無い青々とした空が建物の間から覗いている。家々の軒先には祭り提灯が掛けられ、そこかしこからお囃子の音も聞こえてくる。そんな中を玄也は自宅から徒歩でここまでやってきた。

最寄り駅から一駅だからと言う理由もあるが、それ以外の理由の方がむしろ大きい。

逸る心を静めるために態々歩いて来てはみたものの、一向に静まる気配は無く逆に昂りつつあるほどだった。待ち合わせは京阪の南座前出口、四条に出ればそこは目と鼻の先だ。

通りに目をやれば今日ばかりは洋服に混じって浴衣姿の男女の姿が目立つ。

通りに出る前にふと歩を止めると、玄也は一階が遮光処理の一枚ガラスの建物の前でガラスに映った自分の姿を見ながら身だしなみを整え始めた。

せっかくのこの日のための格好だ。不備があっては今まで重ねてきたことが全て無駄になってしまう。襟を正して手櫛で髪を梳き、乱れが無いのを確認する。そして覚悟を決めて通りに出ると南座口へ視線を向ける・・・・いた。

一目で分かった。

惚れた弱みか恋は盲目か、他の有象無象は目に入らず彼女だけしか玄也には見えていない。

白の木綿地に藍で雨の線と芙蓉の花の描かれたシックな柄がとても似合って見える。それは普段よく知る活発な姿とは裏腹に淑やかで涼しげな印象だった。

逸る心を抑えて近づいていく。と、彼女はこちらに気付き小さく手を振ってにこりと微笑んだ。

初めて見た彼女のそんな仕草に嬉し恥ずかしと言った態で息を弾ませて目の前に立てば、まだ乱れがあったのだろうか何事か呟きながらそっと手を伸ばして襟元を正された。それに照れつつも応えるように無言で手を差し出すと、彼女は少しおどけた顔でその手を握る。

刹那の沈黙の後、二人は揃って破顔する。そして二人はその笑顔のままで歩き始めた。

四条大橋へと、その先の四条川原町へと。

そう、今日は祇園祭宵山の日。


ついに始めてしまった・・・もう後戻りは出来ないw

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