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やっと再登場うさぎさんです。
「今日もご機嫌麗しく」
「いいえ、大きな猫を見て、少々不快ですわ」
「おやおや、猫が嫌いでしたか。では、城の庭に迷い込む野良猫はすべて殺してしまいましょうか?」
「猫は大好きですわ。ですから、そんな必要はありません!!」
おかしい。
何が、と問われれば金髪騎士ウィリアムとエリーの会話が。
大きな猫をかぶってニコニコと話す金髪騎士ウィリアムはいつもの調子だが、それに対するエリーの言葉に棘があるのだ。何かあったのだろうか?
「何か?」
「・・・いえ、何も」
今日の護衛騎士は茶髪の騎士のハーディガン様なので、ウィリアム様は遊びに来ていることになる。仕事はどうした?
何度もお願いしたせいで、敬語はやめてくれたが、ハーディガン様に会うとちょっとあの日のことを思い出すので、気まずい。
「傷は・・・・・」
「えっ?」
「手首の傷は?」
ああ、やめてほしい。あの日のことは思い出したくないのに。主に羞恥で穴に入りたくなるから。
「はい、ご心配をかけてすみません。この通り、跡も残りませんでした」
服の袖をめくり、手首を見せれば、失礼と断りをいれてそっとハーディガン様の手が伸びる。慎重に触れるその手が、壊れ物を扱うようでちょっと居心地が悪い。
身動ぎしないように気をつけること数秒、跡がないか丹念に見つめたあとに離された手を、さっと戻してしまったのは失礼だっただろうか?
「そういえば、犯人は捕まったのでしょうか?」
「ああ、黒幕まで一網打尽に出来た」
なるほど、それなら誘拐されたかいがあったというものだ。
「・・・・誘拐されてよかった、と思ってないか?」
「えっ!!」
顔に出ていただろうか?
見開いた瞳を、まっすぐ射抜く深い紫の瞳。
ふぅ、とため息が耳に響く。誰のため息?それは目の前の騎士様。
「今回は、間に合ったが、次もそうとは限らない」
「いえ、私は・・・」
「あなたが素晴らしい魔法の使い手だとしても、無事である保証はない」
いや、エリーに比べたら、私の方が生存率は高い。
深い紫の瞳に、呆然と目を見開く黒目の自分が見えて、とっさに視線をそらしてしまう。
「あなたは・・・・」
あれ、前もこのセリフきいたような?
その続きは、
「ステラ殿!!探しましたよ~」
突然の乱入者に遮られることとなる。
「ルウェ殿?」
そう、薄い水色のうさぎこと、ルウェ様。実は平民の彼は、魔法に対しての異様な才能を発揮し、異例の大出世でなんと15歳にして魔法士団のトップに上り詰めた天才少年なのだ。
「ああ、ずっとおぼろげに感じていた魔力が、あなたのものであると知って、僕は胸の高鳴りが抑えられません!!」
「ひぃ!!」
両手をがっしり捕まれ、ずいっと詰め寄られれば、ドンびくのが人の性ではないだろうか。
「あ、ステラになにするんですか!!離れてください!!」
こちらに気づいたエリーが手を離させようと掴みかかるが、やはりそこは少年でも男。がっちりつかんだ手が離れません。
「いえ、この純粋で美しい魔力。その湧き出る泉を見つけたのです!!この喜びを、どうやって表現すればいいのか」
いえ、表現していただかなくて結構です。
薄い灰色の瞳が怪しく輝くのを、私は全く見たくありません!!
ぞわっと悪寒が走ったところで、ベリッと音がしそうな勢いで剥がされた。
救世主、はやはりハーディガン様で、思わずその背後に隠れてしまった私。ついでに上の服を掴んでしまった。すぐに手を離したけど、ちょっとしわが寄ってしまった。すみません、ハーディガン様。
「落ち着け、ステラ殿が怯えている」
「ああ、す、すみません。つい興奮してしまって・・・」
「もう、ステラを怖がらせないでください!!」
エリーまでもが私をかばうように前に立つ。
「大丈夫、ちょっとびっくりしただけだから」
「本当?嫌なら私がずばっと言うよ?」
なんと頼もしくなったのだろうか。いつも私の後ろにいたエリーが、私の前に出るなんて。こんな状況なのに涙が出そうだ。
「す、すみません、すみません。魔法のことになると、つい夢中で・・・・」
大きな男に見下ろされ、自分より小さな少女ににらまれ、縮こまるルウェ様が、やはりうさぎに見える私もたいがい甘いのかもしれない。
大丈夫、というようにエリーの肩に触れてから前に出る。
「相変わらずの魔法馬鹿っぷりだな」
そんな様子を面白がる金髪騎士を、にらみつけたのはエリーだった。それに肩をすくめて出て行ってしまう姿に、私は口を開けそうになった。
やっぱり、なにかあったのかな?あの二人。
「ルウェ様、私に何か・・・」
「そうです!!ステラ殿の魔法を見せていただきたくて、探していたんです!!」
ああ、やっぱりめんどくさそう。
遠い目をした私を、誰も咎められないと思う。
ぽんぽん進みます。
あまり詳しく感情も書き込んでないので、想像しながらサラッと読んでいただければ幸いです。