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ヒロインって守ってあげたくなるタイプを想像しますが、やっぱり守られるだけがヒロインじゃない!!

って話です。

「ステラ、ステラ、あのね・・・」

「はい、どうしましたか?」

「もう二人きりの時はいつもみたいに、って言ってるじゃない!!」


 いえいえ、正確には二人ではありません。なぜならあなたの前には。


「エリー様、今日は城下で有名なお茶菓子を用意しました」

「えっ!!本当!!」


 金髪の騎士さま、ことウィリアム様がいるではないですか。


「わぁ、これ孤児院にいたときにも食べたかったお菓子だ!!」

「そうでしたか。私も苦労したかいがありました」


 苦労したのはあなたのところの使用人でしょう。


 ちらりと見たものは、確かに孤児院時代に食べたいと言っていたお菓子だった。地球風に言えば、ドーナッツ。油を大量に使うこのお菓子は、孤児院にいたときには作ってあげられなかった。ご丁寧にチョコレートでコーティングまでしてある。孤児院時代は、バターを使わない質素なクッキーなどしか作ってあげられなかったから。


 あれにすっきりとした紅茶がよいだろう。そう思い、茶器を用意する。


「ステラも一緒に食べよう!!」

「いえ、私は・・・・」


 困ったように笑えば、エリーには理解できるはずもないか。


 この金髪騎士ウィリアムが、私の分まで用意するわけ・・・・。


「・・・・・お前も座れ」


 空耳かと思いました。


「わぁ、ちゃんとステラの分も用意してくれたんですね!!ありがとうございます!!」

「いえ、当然のことです」


 おい、私に対する口調と違いすぎないか?


 が、どういうわけか私の分も用意してあるらしい。内心で小首を傾げながら、3人分のお茶を用意する。


 エリーは砂糖とミルクをたっぷりと、金髪騎士ウィリアムはストレート。あまりにも頻繁に来るものだから覚えてしまった。


「ふふふっ、嬉しい!!いただきます!!」

「・・・・いただきます」

「・・・・・」


 私の前世の記憶のせいで、我孤児院にはいただきますとごちそうさまの文化が出来てしまった。不思議そうにエリーと私を見る金髪騎士ウィリアムは無視する。


 あ、と思う間もなく手づかみでドーナッツをつかむエリー。けれど、パクリとそれを口にした後の幸せそうな顔を見れば、咎める気も起きない。


 私も、同じように手づかみで食べれば、数秒迷った金髪騎士ウィリアムも同じように手づかみで食べる。


「おいしいね、ステラ」

「はい、おいしいです」

「もう、いつもの口調で!!」


 ここでちらりと視線を向けることを忘れない。気にしてないような感じなので、ここはエリーの言葉に甘えるとしよう。


「おいしいわ」

「うん、孤児院のみんなにも食べさせてあげたいね」

「そうね。トトやランはきっと大喜びするわね」


 その風景を想像して、思わず笑みが漏れる。


 同じように想像したのか、エリーも笑う。


 環境の変化に一番参っているのはエリーのはずなのに、いつも明るいこの子。まだ15歳なのに、なんて健気なんだろう。


 私はちゃんと、この子を守れているだろうか?


 紅茶がなくなったところで、席を立つ。おかわりがいるかと問えば、元気よく頷くエリー。ちょうどお湯がきれてしまったので、少し席を外すことを告げ、私は部屋の外に出た。





 ステラの姿が見えなくなったところで、私は口を開いた。


「ステラを助けてくれて、ありがとうございました」

「いえ、私は騎士として当然のことをしたまでです」


 そう笑顔で告げるウィリアムを、私は笑って見つめる。


「いえ、本当は平民のステラを、見捨てる選択肢もあったのでしょう?」


 コテン、と首を傾げれば、騎士の顔が強張った。


 私だってそんなことが分からないほど馬鹿ではない。ステラがいつも先回りするから、私が口を出さないだけ。ううん、ステラも知らないかも。私の本心を。


「私は、別に王宮になんて戻る気はなかったんです」

「・・・・・・」


 ニコニコ、私はいつもの笑顔のまま。


「ステラは、いつも私を守ってくれたんです。私を一番に考えてくれた、たった2つしか変わらないのに、私のお姉さんであり母でもあったんです」


 親に捨てられて孤児院に来る、そんな寂しさからステラが救ってくれた。正確には捨てられたわけではないけれど、再会した両親はやはりどことなく他人な気がする。


「ステラは、常に自分を殺しちゃうんです。常に何が最善かを考えて、そのために自分を犠牲にして・・・・」

「・・・・・・」

「そんなステラが言うから私は王宮に戻ったんです」


 ステラは、いつも私を見ていて、私を見ていなかった。私を通して、何かを見ていた。


 私を守ることで、ステラがステラでいられることに、気づいたのはいつだっただろうか?


 私を見ていないことが、ひどくショックで、けれどステラがいなくなってしまうことも恐ろしかった。


「ステラは私を傷つける存在を許しません」


 にこにこ、ステラは私が笑っていると嬉しそうにしてくれる。だから笑っていた。


 でも、


「だから私は・・・・」


 笑みを消す。


「ステラを傷つける存在を許しません」


 笑みが消えた私の真剣な瞳を受け止めたウィリアムは、真剣な表情をふっとやわらげた。


「そんなこと、とっくに分かってるさ」

「えっ・・・」


 いつもの雰囲気からがらりと変わったウィリアムの姿に、今度は私がうろたえる番だ。


「あいつが自分のことを犠牲にしやすいことも、二人がお互いに依存関係にあることも、全部最初っからお見通し、ってことだ」

「なっ!!」

「俺を誰だと思ってる」


 にやりと口角を上げたウィリアムは、いつもの紳士的な姿とは違い、とても男らしくてなんとなく色気?があるような気がして、言葉が出なかった。


「さすが、この俺が目をつけただけのことはあるな」

「な、なんですって!!」

「怒るなよ?褒めてるんだ、これでも」


 くつくつと笑うウィリアムに、怒ればいいのか恥ずかしがればいいのか分からない。


「まあ、ますます惚れるかな」


 その小さな呟きは、私には聞こえず、戻ってきたステラが不思議そうにこちらを見るので、なんでもない!!っとそっぽをむいてごまかしたのは我ながら子供っぽかったかもしれない。

実は意外と鋭いエリー。

ウィリアムは初めからきづいてます。エスパー並みの勘の良さです(笑)

エリーのことも、番外編で書けたらなぁ~と思います。

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