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一応完結してます。
あと番外編をつらつら書いています。
王女様というのは、ただ王宮に住んでいればよいものではない。
「本日のご予定は、午前中は歴史の授業、昼食後に作法のレッスンですが、その中でお茶の時間があります。もちろん、こちらもレッスンの一環となりますので、作法の先生が付きます」
「ううっ、作法の先生、怖いのに・・・・」
「・・・・・泣きべそかかないの。私も傍にいるから」
「・・・・うん」
前半は対王族口調。後半は、小声で。
作法のレッスン、まだエリーはよい方である。何日もかけて教え込まれるのだから。私なんて、侍女教育として一日で詰め込まれたのだから。人生の終わりには走馬燈のように今までの人生が見えるというが、生きているうちに見る日が来るとは思わなかった・・・・。
思わず遠い目をしたところに、ノックの音が響く。
現れたのは、本日の護衛騎士、ハーディガン様。
「ハーディガン様」
やつに比べたら格段によい笑顔で対応する私に、ハーディガン様はいつもと変わらぬ無表情で会釈をするだけだ。
「さあ、エリー様、お迎えが来ましたよ」
「ううっ、歴史の授業は・・・・」
「わたくしは午後の授業から参加いたします」
にっこりと笑う私に対し、どんよりと曇るエリーの顔。
昔から座学が嫌いなのだ。ドジなわりに意外と身の軽いエリーは、座学より外で遊ぶことを好む少女だった。私は逆だ。運動神経は母のお腹に忘れてきたレベルだ。
「うう、ハーディガン様、よろしくお願いします」
「はっ」
どんよりとした顔のままハーディガンを連れて部屋を出ていくエリー。
エリーも分かっているのだ。王宮に来て、両親に会い、自分が確かに王族に属するものだと。そのために、王族として教養が必要なことも。
「・・・・・ライラ先生にお願いして、今日のお茶菓子を変えてもらうか・・・」
そんな彼女を、支えるのが私の役目だ。
厨房を借りて、彼女の好物を作ろう。
そう思い、部屋の片づけをそうそうに終わらせ、私は部屋を出るのだった。
で、どうしてこうなったのだろうか?
厨房に向かうはずだった私は、なぜか黒ずくめの男たちに拉致されていた。
「おい、こいつが王女付きの侍女か?」
「ああ、間違いない。黒い髪に黒い瞳だ」
ん?王女ってことはエリーを狙っているのか?それなのに、なぜ私を?
「王女が孤児院から戻る際に、彼女が来ることを条件としたらしい」
「なるほど、ならこいつの命を盾にすれば・・・」
あ、こいつら3流だ。
仮にも、王族と平民の命を並べた場合、当然王族をとるのは目に見えている。人質の前でベラベラとまわる口と言い、手足を拘束しているくせに猿轡しないあたり詰めが甘すぎる。
ちらり、と見た窓の外は、太陽が中天を過ぎていた。気を失わされたので、どこに運ばれたか分からないが、午後の授業に参加しない私にエリーはすでに泣きべそをかいているだろう。ライラ先生には、茶菓子は私が作ると言っておいたから、厨房にいると思っているかもしれない。
なにより、私ごときに捜索隊が出されるかどうか、が問題だ。
こんなところで死にたくはないし。
覚悟を決めるのは一瞬だ。
「風よ、刃となれ」
「なに!!」
小さな風の刃が、手足を拘束した縄を切る。
「氷の花弁よ、舞え」
「うおっ」
キラキラとした氷の花弁が私の周囲に溢れる。
「なんだよ!!こいつ、魔法つかえるのか!!」
「落ち着け、接近戦に持ち込めば」
振り下ろされた剣は、周囲を舞う花弁が集まってその軌道を遮る。
「なっ!!」
「吹き飛べ、火炎」
「ぎゃ!!」
右手から放たれた火の玉が、男を吹き飛ばす。
「ウソだろ!!」
「突き上げろ、石の牙」
「うぎゃっ!!」
地面から、床を突き破って現れた大きな土によって、もう一人の男が吹き飛ぶ。
扉の外でガタガタと音がする、まだほかにもいるのか。
「風に舞え、氷の花弁」
周りを漂っていた氷の花弁を、入り口の扉に向ける。右手を上げ、その時を待つ。
「・・・・・あれ?」
「無事か!!」
扉が開いた瞬間、振り下ろした手の先に現れたのは、黒づくめの男ではなく、最近見慣れた小憎らしい男。
「あっ」
「なんだこれは!!」
無数の花弁が一気に金髪の騎士に向かう。しかし、それらは騎士に当たる寸前に炎によって消された。
「だ、大丈夫ですか?ま、魔法士がいるんですか?」
薄い水色の頭がのぞき、その後ろに茶髪も見えた。
「人が助けに来たというのに、随分な態度だな」
青筋が浮かんでいらっしゃる金髪騎士様。
「申し訳ありません。敵かと思いまして・・・・」
「・・・そ、そうか」
素直に頭を下げた私に、勢いがそがれたのか、そこで言葉が途切れた。
「私を助けに来ていただきありがとうございます」
「・・・エリー様に頼まれたのだ」
ええ、そうでしょうとも。いつの間にか名前で呼べるようになったのですね。チッ、もっとガードをしておくのだった。
「・・・・あれ?魔法士はいないのですか?」
「ルウェ殿、あれはステラ殿の魔法です」
「す、ステラ殿は、ま、魔法が使えるのですね!!」
あれ、うさぎの目がキラキラしてきた。
「ああ、この膨大な魔力はステラ殿のものだったのですね!!ここ数年いつも感じていた魔力の主がこんな近くにいたなんて」
えっと、いつも抑えてるからほとんど普通の人に近いはずですけど?今も、もう抑えちゃってますけど?
「ああ、この美しい魔力の主に出会えてなんて僕は幸運なんだろうか!!この魔力、そして不思議な詠唱に美しい魔法!!ぜひ、研究所に!!」
「・・・・・私はただの侍女ですので・・・」
あのおどおどしたうさぎはどこにいった?グイグイ来る元うさぎにドン引きのわたしを救ったのは、やはり寡黙な騎士だった。
「ルウェ殿、ステラ殿は誘拐されたのです。心身ともに疲弊しておられる」
「そ、そうですね・・・・。で、ではぜひ今度研究所へ・・・」
「この女がそんな玉か?」
おい、なに失礼なことを言ってくれてる。
ギロリと、睨みそうになるのをなんとか抑える。
「まだ残党がいるかもしれません。残党を逃がしては、またいつ現れるか・・・」
「俺が見てこよう」
「ぼ、僕も・・・・」
出て行った金髪とうさぎ。残ったのは茶髪の騎士。
「ありがとうございます。私ごときに騎士様たちの手を煩わせてしまい・・」
「・・・・あなたは・・・」
私の言葉に、普段あまり変わらないハーディガン様の眉間にしわが寄る。
「?」
すっと近寄ってきた彼に、一瞬反応が遅れた。
「傷が・・・」
「あっ」
何気なく取られた右手が、彼の手で裏返される。
手首の内側には、縄で擦れた傷が。
「は、離してください!!」
それよりも、なによりも、気づかれたくなくて手を引くが、思ったよりも強い力で逆に引かれる。
「震えている・・・」
「っ!!」
かあっとほほに血が上るのを感じた。
一応、主人公はチート能力を持っている設定。
ほとんど登場する予定はありませんが。