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前回で色々分かっているとは思いますが、あと少しお付き合いください。

 で、やっぱりただで終わらない舞踏会。


「きゃぁぁぁぁ!!」


 本当の意味で武闘会になってしまった。


 エリーの登場と共に音を立てて割れたガラス。


 揺れるシャンデリアが視界に入った時、私は動いていた。


「シャンデリアを覆え、風の膜よ!!」


 口が。


 落ちてくるシャンデリアを、風の膜が空中で包み込む。イメージは広げた風呂敷にシャンデリアを落として包む感じ。


「ハーディガン様、ここは私に任せてエリーのところへ!!」

「わかった!!」


 ゆっくりとシャンデリアを下ろしながら、ハーディガン様に叫ぶ。ゆっくり下すから、みんな早く逃げてよ!!


 ハーディガン様が走っていくのを耳で聞きながら、私はシャンデリアに集中する。


 無事地面に下したところで視線を巡らせれば、エリーを囲むように立つ騎士たち。ウィリアム様とハーディガン様も見える。そのさらに外を囲むように黒ずくめの男たちが。


「エリー!!」

「ステラ!!」


 こちらに気づいたエリー。ホッと安堵したような顔が、一瞬で強張る。


「えっ?」


 エリーと私の間に立つように、私からエリーの姿を隠すように現れた人物に、間抜けな声が出る。


「やっとこの時が来た」

「ルウェ様?」


 魔法士団長の制服を着た、うさぎさんことルウェ様。


 その薄い灰色の瞳が、怪しく輝く。


「僕はね、魔法の才をかわれたからここにいる」

「ルウェ、様?」

「そう、買われたんだよ、僕は」


 意味が分からず名前を呼ぶことしかできない。


「ステラ!!」


 エリーの声は聞こえるけど、ルウェ様のせいで姿が見えない。


「僕には、これしかないんだ」


 ゆるく持ち上がった手が、私の喉に触れる。


「僕はね、魔法で一番じゃなきゃいけないんだ」


 その灰色の瞳の奥に、自分と同じ光が見えた瞬間、私は理解してしまった。


「・・・・どうすれば、よいのですか?」

「ふふふっ、あなたは頭がいい」


 三日月のように弧を描く唇。


 私の喉を、いつの間にか軽くつかんだルウェ様が、まるで内緒話でもするみたいに耳に唇を寄せる。


「僕と一緒に来て」

「・・・・その対価は?」

「ふふふっ、君の大事なものから手を引かせる」


 それならば、答えは一つ。


「分かりました」

「では、約束通り」


 私の喉に手をかけたまま、ルウェ様、いや、ルウェの顔だけが離れる。


「我の敵を排除せよ、刃の嵐よ」

「守れ、嵐の盾よ」


 紡がれた言葉と、巻き起こった魔力の奔流に、思わず魔法を使っていた。


「っ!!」

「相変わらず、美しすぎて憎たらしいくらいの魔法だ」


 喉を圧迫され、息が出来ない。


 空気を求めて開いた口に、何か液体が流し込まれる。


「がっ!!」

 

 それはまるで炎を飲み込んでいるみたいに口から喉を熱く焼いていく。


 あまりの痛みと、喉を絞める手に意識が揺らぐ。


 まだだ!!まだ、こいつの魔法は!!


「そして、その精神力・・・」


 容赦なく締まる手と、焼ける喉。


「っく、うう!!」


 あと少し、あと、すこ、し。


 薄れゆく意識の中で、最後に見えたのは、血が舞う舞踏会の広間だった―――――。





「ステラ!!」


 私とステラの間を遮断するように現れた人影に、嫌な予感がした。


「ステラ!!」

「馬鹿、下がってろ!!」


 ステラの元に行きたくて、乗り出した身をウィリアムに押し戻される。


 私を囲む騎士たち。その中には、ステラの元にいたハーディガンの姿もある。


 どうして!!どうしてステラを一人にしたの!!


 分かってる。ステラが行かせたんだ。ステラが。


「ウィリアム!!ステラが!!」

「今はお前が優先だ!!」


 分かってる。それも、分かってる。


 でも、嫌な予感が消えない。むしろ大きくなっていく。


 あれは魔法士団の団長。あの人は、いつもステラに興味を持っていた。


 それが魔法に対するものだけだと、私には思えなくて、何かと邪魔しようとしていた。 


 でも、ステラは何の疑いも持たず、私を引き離した。


 嫌な予感がする。


 ステラの耳に何か囁いた瞬間、空気が変わった気がした。


「何!!」

「っ!!」


 見えない風の刃が、黒づくめの男を切り裂き始めた。その刃が、こちらに届く寸前で何かにはじかれるように軌道をずらす。


 ステラだ!!


 そう、少なくともウィリアムとハーディガンは思ったはずだ。


「見るな!!」

「っあ!!」


 一瞬見えた赤は、すぐにウィリアムの手に遮られる。それでも、鼻をつく鉄の臭いが、今目の前で繰り広げられている惨状をまざまざと実感させる。


「うっ」


 こみ上げてくる吐き気。それよりも、耳をつく悲鳴に耐えられず、私は両手で耳をふさぐ。


 立っていることさえ困難になり、強く目を瞑りしゃがみこむ。


 実際は、それほど長い時間ではないのに、とても長く感じた。


 悲鳴と、刃が私たちを覆う膜にぶつかる音が、消えても、私は目を開けられなかった。


「ちっ、やってくれるな」

「・・・・ウィル」

「ああ、狙いはあっちか・・・」


 その言葉に、目を開いた。


 一面に広がる赤、赤、赤。転がる黒い塊は、さっきまで私たちを囲んでいたもの。


 思わず口を覆えば、ウィリアムが視界を遮るように前に立つ。


「見ない方がいい。眠れなくなるぞ?」


 最後はどこか軽く言ってくれたのに、私は全く聞いてなかった。


「ステラは!!ステラはどこ?」

「・・・・・」


 その胸元を掴みながら叫ぶ私。それなのに、答えないウィリアム。


「ハーディガン!!ステラは!!」

「・・・・・いません」


 目の前が、真っ暗になった気がした。


 あの時、何かをささやかれたステラ。そのあとに巻きおこった風と、私たちを包んだ膜。


「どうして・・・」


 ふらりと傾いた私の体を、ウィリアムが受け止めてくれた。


 その腕に、縋りながら、私の視界が揺らいでいく。


「ステラが、きっとステラが・・・・」

「ああ、分かってる」


 いつの間に正面から抱きとめるように腕を回し、私と一緒になって座り込むウィリアム。


 どうして、どうして分かってくれないの?


「どうして・・・・」


 あなたが私を大切にしてくれるように。


「どうして・・・・」


 私もあなたが大切なことを。


「どうして!!」


 その怒りをどこにもぶつけられなくて、でもこの感情を抑え込むには大きすぎて、私はウィリアムの胸をどんどんと叩いていた。


「どうして分かってくれないの!!」

「・・・・・」

「私も同じくらい、ステラが大好きなのに!!」

「・・・・・」


 ドンドン。


「ばかばかばかばかぁ。ステラのばかぁ!!」

「・・・・・」


 子供みたいにわめく私を、ウィリアムはただ黙って傍にいてくれる。


 本当に向けたい相手に向けられない怒りを、目の前の人にただ向ける。


「どうしてよ!!どうして・・・」

「・・・・」


 いつもいつもいつも、自分のことは後回し。


「落ち着け・・・・」

「・・・・うっ、ひっく・・・」


 感情が爆発した私の背を、ウィリアムの手が撫ぜるように上下する。


 その手に、少し理性が戻ってきた。


「お願い。ステラを、ステラを・・・・」

「・・・・・」


 胸を叩いていた手は、いつの間にか縋るようにその服を掴んでいた。


「助けて・・・・」


 顔を上げる力もなく、叫ぶ力もなく、うなだれる私。流れる涙が落ちる様子が見えて、自分が大粒の涙を流して泣いていることに気づく。


 怒ってるはずなのに、何泣いてんのよ、私。


 もうぐちゃぐちゃだわ。


 ステラの馬鹿。ばかばかばか。


 ステラを助けたいのに、何の力もない私は誰かに縋るしかなくて、嫌になる。


 こんなだから、ステラも私を頼ってくれない。


 怒りから自嘲に代わり、自己嫌悪に陥りかけたところで、いつのまにか力いっぱい掴んでいた手をそっと上から包まれる。


「えっ!!」


 そっと握っていた服から離される。視線の先に、金髪の頭が見えて思わず声を上げる。


「エリザベス様」


 フルネームで呼ばれ、騎士の礼に乗っ取った形で片膝をつくウィリアムと、その横にハーディガンが並ぶ。


「命じてください」

「えっ?」


 止まらない涙が、私の頬を伝う。


 顔を上げたウィリアムが、涙にぬれた私の瞳をまっすぐに射抜く。


「王女であらせられるエリザベス様の命とあれば、わたくしは近衛騎士団の威信にかけて、その任務を遂行いたします」


 その真剣な瞳に、ハッとした。


 私が直接ステラを助けに行くことはできない。けれど、私にも出来ることはある。


 ぐいっとドレスの袖で涙をぬぐう。


「近衛騎士団に命じます」


 スッと背筋を伸ばす。見本は、ステラだ。


 いつも何かあると私の前に立ってくれたステラ。


 相手につけいる隙を与えないように、凛と背筋を伸ばすステラの背中を、私はいつも見ていた。


 顔を上げ、声が震えぬようお腹に力を籠める。


「わたくしの大切な友人、アステリーリアの救出を」

「はっ!!」

 

 泣かない。私が泣いても、ステラは戻ってこない。


 ぐっと唇を噛みしめる私を、ウィリアムが目を細めて見上げる。


「さすが、俺の惚れたお姫様だ」


 小さく呟かれた声は、私の耳には聞こえなかったけれど、立ち上がったウィリアムが、すぐに助けてくるとでもいいたげに私の頭を撫でたから、またうっかり涙が出そうになってしまった。


予想通りの展開で申し訳ありません(>_<)

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