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一気にクライマックスまで行きます。

「わぁ、絶対無理だと思ってたのに、2人で舞踏会出られるなんて夢みたい」


 私は本当に夢の中に飛び込みたいです。


 目の前ではしゃぐエリーの姿は、冗談ではなく薔薇を纏ったように美しかった。


 まさにバラ色のドレスを纏いながら、それが悪趣味ではなく可愛らしく見えるのはエリーしかいないだろう。ローズピンクのドレスに負けないくらいほほがピンクに上気し、興奮したように開かれた大きな瞳。その瞳にシャンデリアの輝きが反射して、宝石のエメラルドのように輝く。


 対して、私はとにかく地味に目立たないことを譲らなかったおかげで、ピンクや黄色、赤や時には黒といった華やかなドレスの中では比較大人しめのラベンダー色。本当は青が良かったのだけれど、なぜか針子のみなさまが譲らなかった。デザインも大人しくしてもらい、飾りは背中のリボンくらい。アクセサリーも控えめで、髪も結い上げてはあるが飾りはパールのみ。大人しくても美しいドレスのおかげで、壁の“花”くらいには見える出来にはしてもらえたはず。


「じゃあ、先に会場で待ってるから」

「・・・・うん」


 最後にギュッと手を握り、エリーと別れる。主役は遅れて登場するのだ。


「ちゃんと連れてくさ」


 エスコート役がウィリアム様なのがいただけないが。


「ハーディも、会場の男たちの足を守ってくれよ」

「・・・・ああ」

「踏む予定はありません」


 ですから、私の監視は必要ありませんからね、ハーディガン様。


 恐れ多くも、私のエスコート役はハーディガン様。


「あの、本当によろしいのですか?」

「・・・何がだ?」


 ドレスを用意していただいただけでなく、エスコートまで。


「どなたか、お誘いしたいご令嬢がおいでではないかと・・・」


 随分前の事のように感じるが、花冠の作り方も知りたがっていた。作って差し上げたいご令嬢がいるのではないか、とそう思って言ったのだけれど。


「・・・・いない」

「そう、ですか・・・」


 なんだろう、なんか今胸がスッとしたような?


 またも“?”と思っている間にさっと左手を取られる。促されるように手を引かれ、その手を頼るように足を進める。わぁ、さすが貴族様、エスコートが手慣れてます。


 足のこともあるし、とりあえず壁にたどり着くまではこの手を支えにするしかない。


「エリー・・・」

「ステラ、見ててね。私、がんばるから」


 肩越しに振り返ってみたエリーの顔が、孤児院にいたときとは比べ物にならないくらい、キリッとしていて、やっぱりうれしいような寂しいような、複雑な感情を覚えてしまった。




 

 さて、舞踏会の会場にやってきました。


 エリーの登場はもう少しあとなのですが、すでに私のHPは黄色になりそうです。


 まさかこれほどとは、さすが武闘会(・・・)


 ご令嬢たちの眼差しが、本当に針のようです。


「大丈夫か・・・」

「・・・・はい」


 精神的にはすでに危険ゾーンです。


 ようやくたどり着いた壁際で、私はたまらず手を放した。


 忘れていたわけではない。家柄も花丸の上に将来も有望な騎士様に、世の令嬢方が狩人(ハンター)にならないわけがない。獲物(ハーディガン様)につく虫に、容赦はない。


 恐るべし、ご令嬢たち(ハンターたち)


 そんなことを考えながら現実逃避をしていたら、さらに現実逃避したい事態に陥ってしまった。


「確か、エリザベス様の侍女殿、でしたか」

「・・・・宰相、殿?」


 ハーディガン様の驚いたような声に顔を向ければ、そこにはおよそ舞踏会の華やかさにふさわしくない、仏頂面をしたこの国の宰相であるウェリタス様が。


 思わず淑女の礼をしかけ、手で制される。


「怪我は、もういいのか?」

「はい、おかげさまで随分と良くなりました」


 ええ、正確には、まだ壁の支えがいりますが。


 私は知らなかった。意識のなかった時に、宰相殿が医務室を訪れていたことを。


「それは結構」


 相変わらずの仏頂面のせいで、何をしに来たのか全く読めない。


「この国の国政にかかわるものとして、礼を言おう」

「そんな!!臣下として当然のことをしたまででございます」


 何のことかは明言していないが、言いたいことは分かる。エリーの誘拐事件のことをいっているのだろう。


 礼を言われて悪い気はしないが、ここではやめてほしい。ただでさえご令嬢の視線に串刺しにされているのに、これ以上針の筵にはなりたくない。どうして王宮の男の人って頭いいのに空気読めないのだろうか?


 生涯独身宣言をしているのに、ご令嬢たちは障害があったほうが燃えるのか。なんか視線が倍増した気がする。


 背中を、冷汗がダラダラ流れるのを感じてしまう。


「名を・・・」

「えっ」


 一瞬、宰相殿が何を言ったのか聞き逃してしまった。


 そんな私を気にすることなく、宰相殿は続ける。


「名は、なんと言っただろうか?」


 恒例の親子でお茶会、で名乗った気がしたけど、その場に宰相殿はいなかったかもしれない。でも、報告書とかで上がってるのではないだろうか?宰相ともあろう人物がそんなに記憶力が悪いとも思えない。


 が、そんなこと言う権利も度胸もないので、私は素直に答える。


「アステリーリアと申します」


 家名はない。孤児なので、必要なときは孤児院の名前を使う。そのことは知っているだろうから、名乗らない。


星の娘(アステリーリア)、か」

「!!」


 正確に私の名前の由来を言い当てられたのは初めてだ。


 私の名前は、今は使われていない古語でつけられている。


「・・・ストニア伯爵の息子よ、王女様のためにも、彼女のことを頼むぞ」

「はっ!!」


 驚く私をよそに、宰相殿は踵を返す。


 結局何をしに来たのか分からない宰相殿をよそに、舞踏会は佳境をむかえるのだった。

あと数話です。

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