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ちょっとコメディに戻りたい。
エリーの居場所を突き止めてからの騎士たちの仕事は早かった。
と、いうのはきいた話なのでよくは知らないけど。
気を失った私は、また医務室に逆戻り。
王宮専属の医師である初老のおじ様には、笑顔で『次傷口開いたら、ふさがるまで寝ててもらうからね』と笑顔で脅され、私は今言いつけ通り寝台にいる。
エリーが助け出されたことは、すぐにハーディガン様が教えてくれた。薬か何かで眠らされているらしく、まだ目を覚まさないらしい。けれど、けがなどはないとのことだ。
良かった。
素直にそう思った。
黒幕がどうとか、犯人がどうとかは聞いていない。そこから先は騎士団の仕事だし、それを聞いて私がどうこうできるはずもないから。
「よかった・・・・」
立てた左ひざに、顔をうずめる。
ああ、本当によかった。
あとはエリーの無事な姿を見られれば、それでいい。
それで、もう――――――。
それから数日後。
「ステラ!!」
「エリー!!」
私たちはようやく再会した。
松葉杖をつく私に、エリーは泣きそうな顔をしながらも、エリー自身に怪我がないことがなによりも私を安堵させてくれた。
「エリー様の誘拐は公にはされていない」
ウィリアム様も、どこか鋭さが消えた雰囲気になっていた。やっぱり、あの時は雰囲気が違ったから。さすが騎士団の団長だと見直したのだ。
「だから、舞踏会は予定通り行われる」
「・・・・・こんな状況なのに、よくそんなことできるわね」
嫌悪感をあらわにそう言うエリー。それに対し、小ばかにしたようにウィリアム様が鼻で笑う。
「こんな状況だからだ。お前が現れたというだけでこの国は多少混乱しているんだ。さらにごちゃごちゃ揉め事が起きているなんてことが知れたら、他国から一斉にちょっかい出されるに決まっている」
それなりに大国ではあるが、友好国ではない国も周囲にはある。そこに弱みを見せるわけにはいかないのだ。
そうなると、今度の舞踏会も危ないんじゃ。
ああ、でも私はついていけないし。
給仕係も、この足ではできないし。
騎士じゃないし。
ん?騎士以外で護衛としてもぐりこめるのは・・・。
うさぎさんだ!!
「あの、私も舞踏会に出席できませんか?」
「はっ?」
「ホント!!」
間抜けな声を上げるのはウィリアム様。喜びの声は、エリー。
「お前、舞踏会で男の足を踏んでまわりたいのか?」
前言撤回。誰がこいつなんて見直すもんか。
「残念ながら、踏みたい人物は別におりますので。そうではなく、護衛の一人として行けないかと」
魔法士団の一員のふりをすれば、行けると思う。
「・・・・その足で、か」
うっ、痛いとこつきますね、ハーディガン様。
舞踏会は数日後。
それまでにこの杖とおさらばできるだけの生命力は、残念ながら私にはない。
この世界には、魔法は存在するが、傷を癒す魔法は存在しない。いっそ、作ってみようかな?
ああ、でも壁の花になればいけるかも。つねに壁に寄り添ってれば支えになるし、目立たないし、陰からエリーを見られるし、いける!!花、なんて柄じゃないけど。
「大丈夫です。常に壁を背にしていれば舞踏会の間くらい・・・」
「壁の花になるってこと?」
おい、あえて避けた言葉を使わないでエリー。
「花?どこに?」
「失礼ね!!目の前にいるじゃないの!!」
ウィリアム様の言葉に、エリーが私を抱きしめながら反論する。いや、大輪の花を常に背負っているあなたのまえで、野花にも負ける私が花とか、世の男性からブーイングが巻き起こるわ。
盛大に引きつった私の顔に気づいていないのか、あえてスルーなのか、私越しに二人のやりとりは続く。
「悪いが、俺は雑草には詳しくなくてな。侍女殿が喩えられる花に心当たりがないな」
「ステラの魅力に気づかないなんて、目が悪いのね」
「目の前に豪華な薔薇が見えるせいで、他の花が目に入らないんだ」
「??確かに、王宮には薔薇が多いけど・・・」
ああ、口説かれてるのよ、エリー。なんで気づかないかな?
ウィリアム様は気づかないことは承知の上なのか、意味深な笑みを深めるだけだし。ああ、エリー鈍いわ。鈍いのもヒロインの特性の一つだけれども。読者はとてもじれったくなるものなのよ。てか、私もハーディガン様もいるんですけど?目の前で口説くとか、こっちが砂吐きそうになる。
「エリー、別にドレス着るわけじゃないし、壁の花ではなく、壁の保護者的な?」
壁を保護するわけではなく、壁にいる保護者という意味です。なんか変な表現になってしまった。
私の言葉に、心底驚いたような顔になるエリー。
えっ、今の言葉のどこに驚くところがあるの?
「どうして舞踏会なのにドレスを着ないの?」
えっ、そこですか?
ああ、そうだエリーはそういう子だ。なんかどっと疲れた。
「護衛がドレス着るわけないだろ」
ウィリアム様に一票。
ドレスなんてとんでもない。馬子にも衣装だ。私がドレスを着たら、ドレスに気の毒だ。さらにはそのドレスを仕立てた職人にも平伏して謝罪をしたいレベルだ。謹んでお断りします。
「そうよ、いざという時動きづらいし。エリーのところにすぐに駆けつけられないわ」
「えっ、ステラはいつも遅いでしょ?」
エリーの一撃必殺が来ました。私のHPは一気に赤です。
ウィリアム様、なに肩を震わせてるんですか。ハーディガン様、微妙に視線をそらさないでください。余計傷つきます!!
天然もヒロイン特性の一つなの?天然はヒロインに必要なの?
「舞踏会の場に溶け込めるし、絶対ドレスの方はいいわ!!」
その心は、一緒にドレス着て舞踏会を楽しみたい、とみました!!
「くくくっ、確かにな、侍女の服だろうがドレスだろうが、早く駆けつけられないことには変わりない」
「ウィル・・・」
「本当のことだろ?」
ええ、本当のことなので反論できません。ハーディガン様、フォローしようとして口を開いて閉じるのやめてください。大丈夫です。傷ついてますが、大丈夫です。
でも、ただでは済ませませんよ。
「そうですね。それに、残念ながら私はドレスを持っていません。せっかくのエリーのお願いを叶えることはできません」
にっこり。対して不審そうなウィリアム様の顔。曰く、何を考えてる?
「きっと私にドレスがあれば、エリーが喜んでくれるのに。ああ、きっとエリーが可愛らしい笑顔を浮かべて喜んでくれるでしょうに。私には、それを叶える術がないなんて・・・・」
エリーを喜ばせたいのに、その術が私にはない。誰か、私の代わりに願いをかなえてくれないかな?
用意できるもんなら用意してみろ。
という私の思惑が分かったのか、苦い顔になったウィリアム様。くくくっ、私なぞにお金も労力も使いたくないだろうに、エリーの喜ぶ姿が対価となれば、考えざるを得ないだろう。苦しめ、日頃の鬱憤だ。
どうせ用意はしない、と高を括っていたところで思わぬ伏兵が。
「では、俺が用意しよう」
えっ、誰が用意するって?
「ホントですか!!ありがとう、ハーディガン!!」
最後に名前を呼んでくれてありがとう、エリー。
ハーディガン様、もしやあなたもエリーの喜ぶ姿が見たかったのですか?そりゃあ、薔薇と光が舞いそうな背景を背負った笑顔ですからね。世の殿方はみんなが見たいものでしょう。ん?なんでこんな不満を感じてるみたいな言葉が浮かぶんだろう?
?を浮かべる私をよそに話は進み、自分で墓穴を掘ったことに気づくのは、採寸と称した動かざるごと人形のごとし、という拷問を受けたときだった―――――。
やっぱり戻れないかも?




