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エリザベスは、意外と鋭く、意外とお腹で考え事出来るタイプです。
本日は晴天なり。こんな日は外に出て、気持ちよい風を感じたい。
間違っても、こんな地下に入り浸りたくはない。
「わぁ、本当に美しい魔力ですねぇ」
「・・・・・それほどでも」
お久しぶりですうさぎさん。もとい、ルウェ様。
目の前には、目をキラキラとさせて私の手の中を見つめるうさぎさん、もといルウェ様。正確には、私の手の中に浮かぶ氷の薔薇を。
「薔薇を形成する際に漂う魔力が、まるで湧き水のように澄んでいる!!こんな魔力初めてです!!」
「魔力にも、色があるのですか?」
「えっ!!ご存じないんですか?」
ご存じも何も、孤児院には私しか魔法が使える人間がいなかったから。とりあえず、なんか大事になるのは嫌だったので、力を抑えることだけ必死に身に着けた。
「例えば、僕の魔力は・・・・」
そういって同じように手の中に氷の薔薇をつくるうさぎさん、もとい、ああもううさぎさんでいいや。私のよりは長いが、普通の人よりは短いであろう詠唱の後、おそらく魔力がその手に渦を巻く。その色は、青と緑の入り混じったいろ。時々黄色もあるかな?
「水と風と、少々砂が混じっています」
「そう、ですね・・・」
ということは、無色透明の私の魔力は、属性がないということかな?
「しかも、魔力の量も桁違い!!僕の魔法士団長の地位も危ないですね!!」
「いえいえ、そんな恐れ多い。量だけで、実際扱えなければ意味がありませんから・・・」
「そんな・・・・・、そんなに魔力があるのに・・・」
ん?ちょっとうさぎさんの雰囲気が変わった?
「僕には、これしかないのに・・・・」
「えっ?」
「いえ、なんでもないです!!同じ平民出身で、同じ魔法が使える者同士、仲良くしてもらえますか?」
気のせいだろうか?
「ええ、もちろん。私でよければ、いつでも声をかけてください」
「よかったぁ。やっぱり、貴族の方ばかり相手にしていると、ちょっと・・・・」
困ったように眉を下げるうさぎさん。ああ、垂れた耳の幻覚まで見えそうだ。
「でも、よいのですか?エリー様の元を離れて・・・」
「・・・・大丈夫です。エリーも、だいぶ王宮での暮らしに慣れてきましたから」
にっこり。
実際は、結構渋ったエリーをがんばって説き伏せた。
王宮に来て、ほぼ初めての別行動だ。
大丈夫。もうエリーは一人でも。
「そうですか、嬉しいです!!その美しい魔力を目にする機会が増えるのですね!!」
「・・・・ええ、まあ」
さすが、魔法馬鹿とウィリアム様に言われるだけのことはある。うさぎさんが前のめりになるぶん、私が半身を引く。
「ああ、本当に嬉しいです・・・・」
だから、その裏に潜む闇に、気づけなかった。
「本当に・・・・」
自分に似た闇に、気づくことが出来なかった―――――。
「いい加減侍女離れしろ」
「・・・・・・」
そういわれても、私の心は荒れ放題だ。
ステラが行ってしまった。
『エリー、もうあなたも随分王宮の生活に慣れたでしょ?』
それは、ステラがそれを望んだから。
『私はずっといるわけじゃないのよ』
困ったように笑う顔が、見たかったわけじゃない。そんなこと、とっくに分かってる。
ステラは私が心配。同じくらい、私がステラを心配していることを、ステラは理解してくれない。
ふて腐れる私に、ウィリアムはあきれた様に肩を竦める。
「お前も子どもじゃないんだ、独り立ちするには遅いくらいだ」
「・・・・・何も知らないくせに」
「何?」
何も知らないくせに、この人は当然のように私たちの関係をいさめるのだ。
ステラの事、何も知らないくせに。
「ステラが、そばから離れるのが嫌なんじゃない!!」
「なら、なんでふて腐れてるんだ」
まるで子供扱い。ステラのそれは、私を幸せにしてくれるのに、ウィリアムのは神経を逆なでするだけ。
「ステラが私を見ないままどこかへ行くのが嫌なの!!」
「同じじゃないか・・・」
「全然違うわ!!」
そう、全然違う。
ステラ、お願い。
私はエリーよ。
ただのエリー。
お願いだから。
私を見て?
たった一日離れただけで、不機嫌さマックスのエリー。しばらくご機嫌伺いに明け暮れたのは言うまでも内だろう・・・・・。
そして、それを見抜くウィリアム様はエスパーです(笑)




