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いつの間にか・・・・

 城下町へ繰り出してから数日後。


 エリー様のお部屋に近い庭園の中で、彼女をみつけた。


 噴水のそばに座り込み、流れる水を眺めるように覗き込んでいる姿が、そのまま消えてしまいそうなはかない雰囲気を醸し出していた。


 先日の城下町での出来事で、彼女がエリー様に依存していることは明白だった。


『よくエリーを送り出そうとしたよな』

『ウィル、王女様を呼び捨てなど・・・』

『まあ、今目の前にいないし』


 そういって肩を竦めた、友でもあり上司でもあるウィリアムの言葉が頭に浮かぶ。


『お互い依存しあってるが、もろいのは断然侍女の方だな』

『・・・・・』

『そのくせ、自分が犠牲になることを、なんとも思わない』


 眉間に深いしわを刻んだウィリアム。


『俺の大っ嫌いなタイプだな』


 そう吐き捨てていた。


 自分は、どうだろうか?


 つい気配を消してしまったからか、彼女はこちらには気づいていないようだ。


 噴水の中に手を入れ、その感触を楽しむように揺らし、時折水をすくっては手の中から零れる様を眺める。その表情は、なんともいえぬもので、無表情とも違う、水を通してどこかもっと遠くを見ているような、そんな表情だった。見ているこちらの胸が締め付けられるような。


 侍女の制服が、汚れるのも構わず膝をつき、本当はつかみたい何かを、掴めない虚しさを、水に見ているのだろうか。


 ついに伏せられた顔。水の中の手も動きを止める。


 もう、見てはいられなかった。


「・・・・・ステラ」

「!!」


 名を呼ばれ、ハッとしたように上げられた顔。こちらを見て、その視線がこちらを認識するまでいつも以上に時間がかかったように思う。けれど、自分を認識したとたん、そのほほにさっと赤みが差した。


「ハーディガン様・・・」


 立ち上がり、スカートに着いた草花を払おうとした手を、止める。


 濡れた手を、どうしようか迷う彼女の手を、懐から出した布で包み込む。いや、布の上から自分の手を重ねる。


「っ!!」

「・・・・冷たい」


 もう日が落ち始めているのだ。しかも、そこの噴水は地下水を汲み上げている。年間通して温度の変わらぬ水は、今の時期でもひんやりとしている。


 引き抜こうとする手を強く握れば、困惑の色の瞳とぶつかった。


 夜の帳のような黒い瞳。けれど、その瞳が与えるのは、寂しい夜の静寂ではなく、安らかな眠りへと誘う(いざなう)夜の輝き。


 いつも冷静な物言いで誤解されやすいだろうが、彼女は誰よりも人のことを気にかけている。自分以上に。


 丁寧に水気を拭き取る。


「・・・・ハーディガン様」

「この時間でも、噴水の傍は冷える・・・・」

「・・・・・」

「あまり長い時間いるのは感心しない・・・・」

「・・・・申し訳ありません」


 ああ、違う。


 多分、彼女はこう考える。


 自分が体を壊せば、侍女の仕事に支障が出る。しかも、エリー様の精神も不安定にさせてしまう。自分の体を治す薬など、いろいろな方面に迷惑がかかる。


 けれど、自分が口下手であることは十分理解している。こんな時、何を言えばいいのか分からない。


 眉間によったしわに、彼女が困ったように眉を下げるのが見えた。


「えっ?」


 もう水気がないことに気づいたのだろう、礼を言って引こうとする手を、思わず握りしめる。


 驚いたように目を見開く彼女の瞳に、眉間にしわが寄った自分の顔が写る。


「・・・・・まだ・・・」

「えっ?」


 何を言えばいいのかわからない。けれど、どうしても彼女を放っておけない自分。


「まだ、冷たい・・・・・」

「!!」


 何も言えないのなら、行動で示すしかないのかもしれない。


 あなたが、心配だと――――――――。



惚れています。

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