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第七帖。サイパンを出よ!


 昭和十九年十一月二十四日 サイパン


 夜が明けかかっている。

 午前四時前、便所のそばの水道で髭を剃っていたマートスは大きくあくびをした。


「いてっ」

「どうしたマートス」


 やって来たのは頭のてっぺんにしか髪の毛がない男である。マートスよりも年上。遠くから見ればその髪型はアイスクリームに見え、近くでは巻き糞に見えてしまう。


 マートスは巻き糞頭に笑いをこらえながらあいさつした。


「コックス中尉。おはようございます。いえ、あくびをしたら手が滑ってしまいまして」

「災難だなあ。マートス、君の見立てじゃ今日は東京爆撃の日だろ? 髭剃りあとを気にするなよ。パイロットは操縦桿に気を配るんだ。自分の操縦桿にもな」


 二人はそこで大いに笑った。

 コックス中尉の飛行時間は二千時間を超えるパイロットである。マートスが第73爆撃航空団第499爆撃航空群に配属されてから知り合い、同じ機に乗る心通ったクルーである。

 マートスの乗る機の長がコックスであり第一パイロット。

 そしてマートスが第二パイロットである。しかし第20航空軍では同一のB29に配置されるパイロット二名はどちらも第一パイロットとしての資格を持つ。だから第二パイロットだからといって副機長というわけではない。


 配属されたてのときマートスはコックスとよく話した。

 ニューメキシコ州ロズウェルでB17の転換訓練を終えたばかりである話。第58飛行団にいたときはあちこち遊覧飛行した話。

 コックスも1942年に飛行教育を終えてカリフォルニア州メイザー飛行場で教官をしていた話をした。そして故郷カルフォルニアには高校時代からの恋人がいることを語った。


「しかし残念だなあ、マートス」

「何がですか」

「俺の恋人の話をしたろう。故郷にいる」

「はい」

「毎日手紙を出しているんだが、東京を爆撃しに行くとは書けないじゃないか。ああ! 思いっきり書きたい! ハニー、君の恋人は今、敵の首都を攻撃した英雄なのだよ!」

「検閲で消されますから、書くだけやめた方がいいですね」

「そうなんだよなあ。何とかごまかす方法はないかな」

「そんなことしてクルーを外されたら困るじゃないですか」

「本国帰還か! それもいい。そうしたらまっすぐ彼女のもとにかけ寄ることが出来るじゃないか」


 コックスはウインクした。

 全然嬉しくなかったのでマートスは髭剃り道具を片付けて兵舎に戻った。


 ちょうど四時になる頃、すでに兵舎には朝食が容易されていた。新鮮な卵ももちろんある。新鮮、という単語は粉末加工した卵の対義語として使われるもので、まだ調理されずに烹炊所の棚にきちんと収まっているのだった。

 普通の兵は口に出来ないごちそう中のごちそう。マートスたちのために特別に用意されているのだ。


「おはようございます少尉!」


 モジャモジャ頭の一頭兵が来た。スミス一等兵である。


「スミスか。早いな」

「そりゃ愛車の調子を見なきゃいけませんもの」


 スミス一等兵はハンドルを操作する仕草でおどける。

 スミスの仕事はB29の牽引である。帰って来たB29を駐機所まで持って来たり、あるいはエンジン不調を起こした機を飛行場の端っこまで避けたりする。


「それより少尉。いよいよですねえ」

「おー。午前七時に出撃なのは変更なしか。このままなら今日はいよいよ初の東京爆撃だ。そして僕はサイパン一周旅行に出るんだぞ、スミス?」

「えっへへへ、いやいや少尉。ウイスキーを忘れないでください。無料ウイスキー配布の日になるんですよ」


 それから朝食を終えたマートスは機に向かった。

 B29のクルーは十一名。

 全員がすでに機のまわりで雑談をしたり機材のチェックをしたり余念がない。もっともここ一週間は攻撃、延期の繰り返しだった。

 どうせ今日もまた……という念があることは否めない。


 ——最初の頃は緊張感にあふれていたのに。


 そう思いつつも、マートスはこのくらいの緊張感がちょうどいいと思っている。あまりに張りつめるとすぐに切れてしまうからだ。




  

 昭和十九年十一月二十四日  清洲飛行場


「何だ、ありゃ」


 朝の散歩をしていた悠祀は目を丸くする。

 格納庫に妙な複戦を見つけたからである。

 二式(ふく)()戦闘機の略で複戦(ふくせん)というはずなのに、その機の(こう)席はジュラルミン板で覆われていて乗り降りができない。


「これじゃ後ろに人が乗れねーじゃねーか。二式(たん)()戦闘機とでも名前を変えなきゃならん」

「いいのヨ、それで」


 ひょっこり現れる(しづ)

 靜は作業衣のそでを肘までまくっている。油で滲んだヨレヨレの姿は、どこか勇ましい。

 靜は後席を指さして、説明する。


「後席がないんだから、もちろん旋回機銃も取り外してあるの。それから無線機も外そうってことなんだけど」

「旋回機銃は分かるが無線機も降ろしたのか? それじゃどうやって地上の司令を受け取るんだ」

「そう、その通りヨ!」


 靜の顔がパッと明るくなる。

 これは理解してくれて嬉しい、という意味だ。それから滔々と語る。


「無線機のない機なんて武装のない戦闘機と一緒だとわたしは思うの。だって地上からの指示が来ないと、下手すりゃ自分がどこにいるのかも分からなくなっちゃうじゃないの!」

「俺もそう思う。上から見れば町なんてどれも同じに見えるからなあ。地図みたいに地名が書いてあるわけでもなし。でも靜、止めたほうがいいって思うんなら、なんで外したんだ? ん? アンテナ柱も短くないか?」

「うん。短くすれば抵抗が減るの。あと防弾板も外した。燃料タンクの一部も空っぽにしてある」

「つまり……、機首の三十七ミリ砲だけ残してあるんだな」


 こんな風変わりな改造をしてある機のくせに、機首には連発の三十七ミリ機関砲が積んである。


 ——立派なもんだ。俺の機と交換してくれねーかな。


「だが何でこんな改造したんだ? これじゃパイロットは一人っきりで飛ぶことになる」

「これで全体として百五十キロ近く軽くなっているから上昇力はぐっとあがるはずヨ」

「なるほど。自重が減れば速度も上昇力もあがる」



 悠祀は腕を組み、改造機を隅から隅まで眺める。

 上昇力を得るにはエンジン出力を上げるのが一番だ。それが出来ないならば可能な限り機体を軽くするしかないのだ。この機のように。


「理屈はわかるがなあ。いて」


 背中をバン、と靜に叩かれる。


「いいのヨ。グチグチ言わない!」


 靜は明るい顔をしている。けれども悠祀には、その明るさの影になっているものが見えた。


「靜。もしかして怒ってないか」

「……なんで?」

「何となく。根拠はない」


 むっつりしたまま、まんじりと悠祀を見る靜。口の端をゆかいそうに曲げる。ちょっと嬉しいときの仕草だった。


「かもネ」


 そう言い、改造機を憮然と見上げる。


「この改造機、(こう)高度専用の改造ってとこネ。苦肉の策ヨ、こんなの。飛行機の上昇性能さえよければこんな無理なことをしないでいいんだから。……誰にも自慢できない改造じゃないの」


 マスクを下げ、尖らせた口の靜。

 常道から外れた改造をさせられたことに靜は怒っているのだ。整備兵だから、パイロットや戦隊長からの希望があれば可能な限り沿う。整備兵とはパイロットに最良の機体を提供し、戦局を有利に導くための縁の下で支える兵隊だ。


 靜にももちろん自負がある。だからこそ「やむを得ず」こんな改造をしてパイロットを乗せざるを得ないことに疑問や(いきどお)りを感じているのだ。

 それはこんな改造をせよと命じた者に向けられているというよりも、こんな改造しか出来ない自分に対するものではないかと悠祀は思った。わたしにもっと腕があれば。

 そう責めている気がしたが、お門違いだと悠祀は思う。むしろこんな不完全な機体で戦えと言ってくる第五戦隊やその上部機関の第十一飛行師団を怨むべきではないか?


 悠祀は会話を変えようと試みる。


「しかしまあ、ずいぶんと思い切ったことをしたもんだ」

「うん」

「アンテナを短く切ったりするのはどこで覚えたんだ? 女飛か?」

「違う。あたしじゃないワ。松宮さんヨ」

「そうなのか」


 ふと思う。悠祀の家の(はす)向いが靜の家であるから、当然靜は美代子のことを覚えているべきではないか。

 そればかりか二人とも女子飛行学校の卒ならば同期生ではないのか。


「靜は美代子のこと覚えてるか?」

「うん。悠祀といっつも一緒だった」

「そ、そんな言い方……。〝男女七つにして席を同じ()せず〟だ。そりゃあ小さいときは遊んだだろうが。ある程度いったらそんなことはない」

「そう?」

「だと思う」

「ハッキリしないわネ、いつも」


 ため息でもつきたそうな靜。


「そ、それはそうとだな。お前も美代子も女子飛行学校の卒業だろ。もとは同期生なんじゃないか?」

「そうだけど」

「なら今日来るのが美代子だってことは事前に知っていたんじゃないのか? 教えてくれよ、そういうことは」

「知らないわヨ」

「なんで? 同じ女飛同士なのに」

「女飛は同じでもそのあと分かれたもん。松宮さんは戦闘。わたしは整備。悠祀だって少年飛行学校のあとは熊谷陸軍飛行学校に行ったでしょ」

「ああ。操縦を学ぶのは熊飛校だったからな。浅間山の火山灰には参ったなあ。洗濯物を干しておくと黄色に染まっちまって怒られたもんだ」


 陸軍でパイロットになりたければ道はいろいろある。

 そのうちの一つが陸軍少年飛行兵というシステムで、まず各地の少年飛行兵学校に入学する。

 それを卒業するときにパイロットは偵察、戦闘、軽爆、重爆ときには整備のいずれかに区分され、専門の陸軍飛行学校へ再び入学する。ここらへんの事情は女飛でも同じらしい。


 それから実戦部隊に配備されるが、襟章を見れば階級章の横にプロペラの金具が付いているので一目で「ははあ、あいつも少飛生徒だな」と分かる。かつ階級が同じならば同期生であるところまで分かる。

 仮に階級が違っても同じ少飛であるから親しみが一気にわくのだった。


 そうした理屈から言えば女飛同士、何かと親しみがわくと思ったのにそうでもないみたいだったのが悠祀には不思議だった。


 靜はうなずく。


「そうなんだ。その話、聞いたことある気がする」

「前に話したっけ」

「たぶんね」

「そうだったか。じゃ、どこで学んだんだ?」

「松宮さんに聞いたの。第五戦隊(ここ)に来る前は(まつ)()の第五十三戦隊にいたでしょ。そこだと複戦をこんなふうに改造してたんだってネ」


 そう言われてみると、こういう改造も理に叶っていると感じられる。帝都の空を守る部隊でやっているのなら間違いはないだろうのだろう。


 悠祀は勝手にそう思い込んだが事実は違う。

 松戸の第五十三戦隊でもこの改造は苦肉の策だったのである。B29の偵察型であるF13の東京侵入を複数回にわたって許した第十飛行師団は非難の的になっていた。参謀本部、防衛総司令部さらには民間からも「防空部隊は何をしている」と叱責される始末で、第十飛行師団長吉田喜八郎少将はこのような改造を提案したのだった。


 武装、防弾装備、機によっては無線まで外した軽量機を実戦に用いる。果てはそれによる体当たり攻撃を敢行する。

 すでに第五十三戦隊では十一月はじめ、空対空特攻の特別部隊を編成し実戦に参加させていた。

 美代子が靜に教えたのはその軽量機の作り方であった。


「へえ。第五十三戦隊では軽量化をねえ」

「あれ、腕なんか組んじゃって。もしかして乗りたくなったの?」

「だって上昇力が格段にあがっているんだろ」


 そうだけどね、と靜よりも年かさのいった声。

 (よん)(かぜ)菊菜である。相変わらずの巨乳っぷりで、整備服の胸元はサイズが合っていない。油にまみれたマスクも口びるの形に沿って黒く油の帯があるあたりが(なまめ)かしい。


「そうだけどね。あんまり乗って欲しくないなあ」

「菊菜ねえちゃん。乗って欲しくないってどういうことです」

「むっ! 神佐伍長! ねえちゃんは禁止!」

「はい、神佐伍長! 禁止します! えーと、四風伍長に質問」

「はい、どーぞ」

「乗って欲しくないって言いますけど、これなら高度一万メートルまで早くあがれるでしょう。時間に余裕が取れれば攻撃にも余裕が出来る。いいことだらけです」

「だめ」

「なぜです……、っ」


 菊菜がいいこいいこしてくる。悠祀の頭をナデナデし、包容する。


「だめなものはだめ。分かった?」

「は、はい」


 悠祀はおっぱいに返事をした。靜と同じく油のにおいが鼻に届く。が、それに見え隠れして香るいい匂いに頭がくらくらする。

 菊菜が整備に戻ったところで靜が言う。


「悠祀、ほっぺたがニヤけている」

「ん? そうか? 俺はこれが普通の顔痛たたたた! 引っ張るな!」

「こんなにたるんでいては戦闘に支障が出ますよ」

「な、何をわけの分からないことを!」


 明らかに不機嫌そうな靜。おーいて、と悠祀は頬をおさえる。


「結局、菊菜ねちゃん教えてくれなかったなあ。なんで俺がこの機に乗っちゃだめなんだ? 手柄を立てたらほめてくれるかなあ」

「今のままでもいいじゃないですか」

「今のまま? B公に手も足も出ないこのままで?」

「うん」

「何だそりゃ。それじゃ戦う意味がないよ」

「戦わなくたっていいじゃないの」

「え」


 靜は無表情な顔を悠祀に向けていた。能面のように感情が読み取れない。これは怒りでもないし悲しみでもない。


「靜」

「何でもない。で、この機はネ——」


 言いかけて靜は敬礼する。誰か上官が来たのだな、と思い悠祀はそっちを向き、敬礼する。


「——この機はネ、松宮さん専用機だから」


 陸軍軍曹松宮美代子である。

 悠祀と目が合うとまず悠祀に敬礼した。それから靜に答礼した。


「どんなふうですか」


 やや前かがみな美代子は訪ねる。自信なさそうに見えた。軍曹(上官)なんだからもっとしゃんとすればいいのにと悠祀は思う。たとえ幼なじみであっても上下の分別はあってもいい。

 靜がしっかりした口調で答える。


「大体はやり終えました。あとは燃料を入れれば試運転できます。ですが応急の改造機でありますから、軍曹殿の乗っておられたようにはいかないかもしれません」

「いえ、……ありがとうございました」


 美代子は相変わらずの「ですます」だった。翻って、軍人言葉の靜が新鮮に見えた。

 それから靜は機の説明を続けた。どこをどんなふうに改造したか、それによる操縦の変化はどんなものが考えられる……。美代子はふんふんとうなずきときに質問した。


 ——ぎこちねえなあ。


 悠祀はまどろっこしく思った。


「おい水臭いぞ美代子」


 言い放った。

 びっくりして振り返る二人。


「いいじゃねえか、同じ町内出身同士、言葉遣いなんか。靜も靜だ。同期ならそんなギクシャクする必要もあるめえ」

「雑な言葉遣いネ、悠祀は」


 靜が腰に手を当ててカラカラ笑った。これこそが靜だ。遠慮して軍隊言葉を多用するの姿はどうにもガラではない。


「神佐君は」と美代子が言った。「ちっとも変わりませんね」


 こちらもうれしそうな、けれどもまだわずかに戸惑いの見える笑みでいる。


美代子(お前)もな」

「わたしは変わりましたよ」と腰に手を当てて笑顔の美代子。「ホラ、今では上官ですから」

「そういやそうか。それで軍曹殿。いかがしますか」

「やっぱりくすぐったいからやめてください。殿も不要です」

「お、そうか。なら美代子」

「はい。神佐君」

「東部軍じゃこんな機で戦っていたのか」


 美代子の顔にやや曇りがさす。

 悠祀はその変化に気付かない。


「神佐君は、操縦ですか」

「おう、そうだよ」

「後席は……」

「寺嶋という伍長だよ。少飛だ」

「パイロットなら、改造機に乗りたいのもわかります。でも、こんなものはダメなんです。一人っきりで高度一万メートルで戦うなんて、……ダメなことなんです」

「は……」と悠祀は呆気に取られた。美代子の言葉は、あまりにも切々としていた。

 

「なんでだ」


 やや強めの口調。


 ハッ、となる美代子。あたふたとして、言う。


「あのっ、ごめんなさい。その、で、出過ぎたことを言って」

「そんなことない。意見ならドンドン欲しい。なぜだめなんだ。菊菜ねえちゃんもそう言ったけど、なんで俺は乗っちゃだめなんだ。俺だってもう実戦機を任されているんだぞ」

「それは、その……」

「この機はそりゃあ美代子専用機だってのは分かるけど、ちょっとくらいいいじゃないか」

「そう、ですねえ」

「それで良ければ俺のも改造してもらうし、駄目だったら何もしない」


 美代子の顔がさらに曇った。


「いえ、でも……」


 もごもごハッキリしない美代子。

 両手を股間のあたりでモジモジさせている。困っている。明らかに困っている。だがなぜ困るのかが分からない。

 なぜ理由を教えてくれないのか、悠祀には納得がいかないのだった。乗ってはいけないのは分かったが、改造さえ渋るのはなぜか。でも菊菜も美代子も理由を知っている。


「靜。お前はどうなんだ」

「何が」


 靜も話を振られて少し困った顔を見せた。


 ここで美代子が話をさえぎった。


「靜さん。あの、これ乗ってみていいですか」

「どうぞ。脚立いる?」

「ありがとうございます」


 靜は脚立を準備して主翼の下に置いた。美代子はよいしょと翼に乗る。おしりのラインがきれいだった。

 気付けば、靜がこっちに目配せのようなものをしている。


 もういいでしょ。早く行って。


 そう言わんばかりに。


 美代子は操縦席に収まっている。そして美代子に続いて主翼に乗った靜と話を始めていた。ちょっとの間それを眺めていた悠祀は、自分も乗機の操縦席に座っていようと思った。


 ——なんだってんだ一体ぜんたい。


 悠祀は不満だった。むしろ美代子は上官なのだから、これは命令だと頭ごなしに言ってくれた方が納得したかもしれない。上官の命令が絶対なのが軍隊なのだから。


「俺には改造してくれねえのか……。改造が大変だからかな」


 思う。

 改造中は出撃できない。戦力の低下である。もしこの改造が改良ならば第五戦隊の複戦は全部が改造される。それだけの手間をかける時間もヒマもない。

 

 だから改造は美代子の機のみにとどめ、たとえ頼まれてもやらない。そういう取り決めがあったのか? ならそう言えばいいのに、言わないのはなぜだ?


 悠祀はあれこれ考えをめぐらせた。だが答えが分からないのだから考えは堂々巡りに入るばかりだった。


 ぼんやりと空をながめる。

 中部軍管区には警戒警報が発令されている。いつ空襲警報に代わってもおかしくない。




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