8
ねぇ、誰か愛して。
ねぇ、誰か癒して。
ねぇ、誰か手を差し伸べて。
もう、傷つけられてくないから。
もう、汚れたくないから。
もう、何も変わりたくないから。
この汚い世界で人間は穢れに蝕まれていく。
この汚い世界で人間の心はコロコロと変わっていく。
この汚い世界で人間は弱くなっていく。
こんなところにいたくないよ。
こんなところに置いてかないで。
こんなところに独りきりにしないで。
やだよ、寂しい。
やだよ、苦しい。
お願いだから助けて。
どうか……壊して。
* * *
「あああっ!」
京は叫んで飛び起きた。無意識に伸ばした片手が虚しく空を掴む。そしてそれが夢だと判ると、京は安堵して布団に沈み込んだ。
真っ暗な部屋に月明かりが差しこんでいる。青白い月光が京のいる部屋を照らしていた。
隣の部屋の紗愛が京の声に驚いて様子を見に来る気配はない。時計は隣の部屋にあるため京には今が何時か知る術はないが、恐らく深夜だろう。
草木も眠る、丑三つ時とやらの頃かもしれない。
京は自分の体が夢にうなされてじっとりと汗ばんでいるのを感じた。額に髪の毛が張り付いている。Tシャツは少しずつ冷えていった。
沈み込んだ布団に仰向けになり、京は天井を見つめる。布団を敷いて見上げると随分と天井は高く感じるのだと、京は初めて知った。
京は天井を見上げる自分の視界に、両手を持ってきて見つめた。悪夢のせいで掌も汗ばんでいる。あの時は何も感じていなかったのに、今になって夢に出てくるのか。
京は頭を抱えるように体を丸めた。助けてと怯える少年の声が過去から今へ時を超えて耳に響く。表情が目に映る。それは、自分。それは、少年。
京は両手で目を覆った。涙が溢れて来て止まらない。
「ごめん……ごめんね……」
月光は相変わらず京の部屋を照らす。京にとってそれは、罪人を照らすライトのように思えた。
静かな夜に、京の嗚咽だけが響いた。