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使って、と言って通した部屋で大の字になって横たわる京を横目に、紗愛は小さく息をついた。
「『大変なの連れてきちゃった』って……思った?」
言葉をかけられて紗愛が京を見ると、京が顔を紗愛に向けて無表情に見つめていた。
「まさかそんなこと」
紗愛が否定すると、京はむくりと起き上がり、紗愛と同じ目線の高さで言葉を口にした。
「嘘だ」
冷たい拒絶を含んだ声音に、紗愛は困ったように眉根を寄せる。
「嘘じゃないよ。そんなこと、思ってないもの」
「それじゃあどうして溜息なんてつくの? 聞こえよがしに、わざとらしく」
紗愛はふっと微笑を零した。そんなことで不安になってしまうのか。世界は敵だと、自分の味方になど成り得ないと、思い込んでいるからそう受け取ってしまうのだろう。
「朝から凄いことがあって少し疲れただけだよ。それにわざとなんかじゃないし、何も不安がることないよ?」
紗愛に近づかれ、瞳を覗き込まれ、京はつ、と目を伏せる。そんな京に紗愛が悲しそうに言った。
「きみは、拒絶するんだね。そんなに自分を大切に守ってたら強くなる術を知らずにちょっとしたことで脆く崩れちゃうよ」
京は紗愛の言葉に微かに首を振った。
「強くならなくても良い。嘘偽りで固めた見せかけの砦なんて要らない。崩れるなら早く崩れてしまえば良いんだ」
抑揚のないその声に、つらさと悲しさが感じられる。この少年は何を見てきたのだろう、と紗愛は思う。
京がまだ幼く細い躰に抱えきれないほどの苦しさを抱えているように紗愛には見えた。形のない苦しさはだが、確かな質量を持って、ぼとぼとと京の足元に零れ落ちているように紗愛には感じられた。
「どうして強さを求めるの? どうして弱かったらいけないの? どうして強くなきゃ生きていけないのさ?」
京が静かに紡ぐ抑揚のない言葉に、紗愛は答えない。
「強くなるためには穢れを身に纏わないといけない。他人を蹴落とさないといけない。どうしてそんなことを僕に求めるの?」
紗愛は尚も答えない。否、答えられないのだ。
「僕には……できないよ……」