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 紗愛の家は伝統的な日本家屋だった。何にも邪魔されずに海が見渡せる絶好の場所に建っている。


「あがって。今日はまだ何もしてないから少し散らかってるけど、京君が使える部屋は全然散らかってないから」


 使ってないからねーと紗愛は苦笑して建物をしげしげと眺めている京を玄関に置いて先を行く。涼しげな畳の部屋を通り抜けて、隣室の襖を紗愛が開けると少しかび臭い匂いが部屋に広がった。


「あぁ、ちょっと閉め切ってたらこんなになっちゃって……。京君、悪いんだけど、掃除する間、隣の部屋でテレビでも見ててくれる? 窓開けたり箒で掃いたりするだけだから、すぐ終わるから」


 紗愛の言葉の通り、京はリビングと思しき部屋の畳に座り込んでテレビを点けた。映画くらいでしか見たことがない昭和の部屋をそのまま残しているようなリビングだ。テレビも古いが、流石にチューナーがないと地デジは映らないらしい。

 天気予報が途中から流れ、CMが流れる。京はリモコンをかちかちと操作してチャンネルを変えていった。


 ふと、京の手があるチャンネルのところで止まる。そのチャンネルでは小学生殺人事件の特集が組まれていた。


『えー、此処、○○市で起こってしまった恐ろしい事件。犯人は一体、誰なのでしょうか』


 テレビ画面の向こうでは、女性アナウンサーがマイクを持って話している。遺体発見現場付近からの生放送のようだ。


『被害者は○○市立○○小学校に通う七歳の男子児童、島田 (ほむら)君です。(ほむら)君は今月十日頃、近所で友達と遊び、門限の十八時前に別れて自宅へ帰ろうとした後から行方が分からなくなっていました』


 被害者の少年の写真が画面にアップで映る。あどけなく、親が持つのだろうカメラに向かって純粋な笑顔を見せる少年は、真っ直ぐに京を見ていた。

 京はふっと視線を逸らす。こんな目ができたのはいつまでだっただろう。


『行方が分からなくなっていた(ほむら)君が変わり果てた姿で発見されたのは十四日も経った、午前三時を少し回ったところでした』


 女性アナウンサーが深い余韻を残してそう言った。京はただ、続く言葉を待った。


『当時、現場には誰もおらず、発見者は現場近くの弁当工場のパート出勤のため出かけた主婦の方でした』


 京はテレビの画面を見るともなしに見ていた。カラスが落とした被害者の一部を主婦が発見したことが遺体発見のきっかけだったらしい。遺体は埋められていたものの、穴が浅く、動物に掘り起こされており、その一部をカラスが持ち去ったのだろう、というのが大人の見解であると、幾度も流れる無意味なイメージ映像を見ながら京は理解した。


『えー、(ほむら)君は胸、腕など十数か所をナイフで刺されており、司法解剖の結果、失血死であることが判明しました。尚、凶器となったナイフは量産された某メーカーの果物ナイフが(ほむら)君の体に刺さったままになっていたことからそれと断定し、警察は犯人の特定を急いでいます』


「……これ、ひどい事件だよね。罪もない子どもを何の目的で殺しちゃったんだろう」


 背後から紗愛の声がし、京は驚いて振り返った。紗愛の視線がテレビの画面を向いていたため、京はまたテレビへと視線を戻した。


「意味なんて、ないんだよ」京が呟く。「ナチスの時代と同じさ。力の強い者が弱い者を虐殺する……何も意味なんてない」


 京が淡々と呟いた。紗愛は黙って聴いている。


「意味も、目的も、ない。でも、こんな汚い世界で育って汚い大人になるよりは」京が目を伏せた。


「殺された方が救いになる時もあるよ」





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