絆
「それはまたすごいわね。5歳の女の子がタクシーで友達の家に行くなんて」
「あぁ。しかもその時莉奈は懐から財布を出してタクシー代全額を払ったからな」
祐介の家に着いた時莉奈は自分お懐から財布を出し、運転手に7000円を超える金額を渡していた。
後々そのお金の出所を聞いた所、今まで溜めたお年玉を入れていた財布だったらしい。
「その後は祐介と3人で遊んだんだ。祐介も最初は驚いていたな。突然ドレス姿で現れた莉奈と見知らぬタキシードを着た男が玄関にいるんだから」
吹雪はその時のことを思い出しクスッと笑った。
吹雪にとってはあの時のことは今でもよく覚えている。
「莉奈のドレスを見て『きれいなドレスだね』っていった祐介の両頬を莉奈は引っ張るし、3人で遊んでいた途中から祐介の姉である燈子さんも乱入してきて大変だった」
「ちなみにだけど、何で祐介君は莉奈さんに頬を引っ張られたの? 『きれいなドレスだね』って言葉は悪いようには聞こえないけど?」
「莉奈はどうやら自分がきれいと言われなかったことに腹を立てたみたいだ。祐介がその後『莉奈は可愛いの方だからきれいじゃない』といってさらに怒っていたな」
吹雪も始めは莉奈がきれいだとは思っていたが、決して可愛いとは思わなかった。
祐介の発言を間違いだと捉えてたが、その発言の真意を理解するのは莉奈ともう少しだけ共に過ごしてからのことである。
「よっぽどその時のことが記憶に残っているのね」
「あぁ。あの時俺は初めて親父から本気で怒られて、心の底から心配しているのがわかった」
その時父が何よりも自分のことを大切に思っているのか吹雪にはわかった。
父は今まで自分に関心がないと思っていたが、現実は全く違う。
父の自分に対しての愛情が吹雪にも伝わり、その時自分の考えが間違っていると思った。
「吹雪君は莉奈さんに救われたのね」
「莉奈だけじゃない。祐介にもだ。それから俺は莉奈達と友達になったんだ」
それから吹雪は莉奈や祐介とよく遊ぶようになる。
むしろ自分が家にいる時でも、莉奈や祐介が自分の家まで訪ねて遊びに誘ってくるようになっていた。
「だから俺としては極力莉奈や祐介のやることには協力したいと思ってる」
吹雪の強い決心に自動販売機越しに話を聞いている葵は何も答えない。
自動販売機越しの静けさが吹雪には不安だった。
「どうした?」
「いや、私も吹雪君達みたいな友達っていないからうらやましいなと思って」
「何を言ってるんだ? 君にはもういるだろ? 恵梨香や梓という大事な友達が」
「えっ?」
葵の反応を吹雪は意外に思う。
少しの時間ではあるが、恵梨香や梓と一緒にスタジオに入ってきた葵は楽しそうに見えた。
それに恵梨香や梓の後ろに隠れたのも2人への信頼の証だと吹雪は思っていた。
「俺としては2人は既に君の友達だと思っていたが、違うのか?」
「それは‥‥‥‥‥‥」
「あおい~~~~~~」
遠くの方からこちらにかけてくる恵梨香の姿が吹雪には見える。
恵梨香の後ろには息を切らす梓と心配そうに駆け寄ってくる女神の姿も見え、2人は葵のことを心配しているように見えた。
「って、吹雪? お前もいたのかよ?」
「あぁ。そこで少し葵さんと話をしていた」
自動販売機の横に隠れて見えない吹雪を恵梨香は発見する。
そして2人がいる光景を見て、恵梨香は首をかしげた。
「でも、あれ? 葵、お前男がダメだったんじゃないのか?」
「まだ姿を見るのは無理だけど、こうして声だけで会話をすることは大丈夫みたい」
「そうなのか。たまには吹雪もいいことをするんだな」
「たまには余計だ。たまには」
吹雪は笑い声を上げる恵梨香に対して、不満げな声を上げる。
ただ、葵の症状が洲k女子だけではあるがよくなっていることにどことなく安堵する。
「吹雪、そこにいたんですか。探しましたよ」
「則之」
則之は恵梨香の横に立つと一息つく。
それと同時に則之を見た葵の様子がおかしくなる。
「恵梨香達もここにいたんですか‥‥‥‥って葵さん!!」
「則之はもう少し考えて行動しろ。葵が怖がってるだろ」
「すいません」
恵梨香に頭を叩かれた後、吹雪のいるベンチに則之は無理矢理座らされる。
いまだに則之は状況を把握できていないのか、頭に?マークが浮かんでいるように見えた。
「吹雪、これは一体‥‥‥‥」
「まぁ、そう言うことだ。俺達は戻ろう」
「はい?」
吹雪は立ち上がると則之を連れ、先程の部屋へと足をむける。
吹雪の視界には既に葵の姿はなかった。
「吹雪」
「何だ、恵梨香?」
恵梨香の呼びかけに吹雪は立ち止まり後ろを向く。
「さっきの葵の話、ジョーに言っておいてくれ」
「わかった。恵梨香からの伝言、しっかりと山吹さんに伝えておく」
恵梨香の返事に答えると吹雪は先程の部屋へと再び歩みを進める。
途中から来た則之は今の状況が全く理解が出来ていないように見えた。
「吹雪、これは一体?」
「戻ったら説明する。だからちょっと待て」
それだけ言い残し、吹雪達は先程までいた部屋に戻る。
その後先程あった出来事を山吹に話すと、山吹の喜びの声が廊下まで広がった。




