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お騒がせ女神の学園生活  作者: 一ノ瀬 和人
お騒がせ女神と孤高の少年
53/57

2人の共通点

「ひっ」


 恵梨香達の後ろにいた少女は吹雪達を見るとすぐさま恵梨香の後ろに隠れた。

 その少女が吹雪達の方を見ると、彼女はガタガタと震えだしその場で梓に抱きかかえられる。

 

「とりあえず吹雪君と則之君は僕と一緒に外に行こうか」

「わかりました」

「では萩村さん、申し訳ありませんが後は宜しくお願いします」

「任せて下さい」


 そういい残すと吹雪達はジョーの後についていき、スタジオを後にした。

 廊下へ出るとジョーは2人をとある部屋の前まで案内する。


「山吹さん、さっきの子はもしかして夕凪葵さんですか?」

「はい。実はというと彼女もこの事務所に入ることを承諾してくれたんです」


 ジョーは悲しげな顔でそのように答える。

 その表情は夕凪葵と契約したいと1週間前話していた人の表情には思えなかった。


「でも彼女は男性恐怖症のはずだ。そんな事で芸能活動なんかできるのか?」

「初めは私も彼女のことを諦めていました。ですが、芸能活動をしたいと言ったのはほかならぬ彼女自身なんです」

「どういうことですか?」


 則之も食い入るように山吹をを見つめていた。


「彼女からこの前直接電話が掛かってきて、芸能事務所に入れてほしいと連絡がありました」

「それで、山吹さんは快諾したんですか?」

「いえ、始めは彼女の話を断りました。しかし彼女があまりに熱心に話すものですから、ある条件を付けてそれが出来たらということで話をつけました」

「ある条件とは?」


 山吹の出した条件に2人は興味津々であった。

 正直吹雪には山吹がどんなにハードルの高い条件を出したのかが全くわからない。


「親を説得できたらという条件です。正直無理だと思っていましたが彼女はその条件を見事にクリアーしました。もちろんちゃんと親御さんとも合い、しっかり話し合った末の了承です」


 ジョーはそういうと当時のことを語りだす。


「先週の見学時、恵梨香さん達の親御さん達と3者面談をしました。その時夕凪さんの親御さんに今回のことを話した所、彼女の両親も芸能活動に賛成してくれたみたいです」

「賛成してくれた理由については話してくれたんですか?」

「その理由は何も教えてくれませんでした」


 ジョーの話で吹雪は大体の事情を把握できた。

 今日の撮影に女性しかいないのは夕凪葵への配慮のためだということに気づく。

 彼女が男性恐怖症だからできるだけ男性はいないように、山吹が萩村に頼みこみこの状態を作ったのだろう。

 

「それでこの部屋は一体何のためのものなんですか?」

「ここはビル内の監視カメラを見ることが出来る部屋です。彼女達の勇姿を見るために萩村さんにお願いしました。定点なのがちょっとネックですが、これで彼女達の撮影風景が見れるんです」


 その言葉を話す山吹の姿は吹雪から見てどこか寂しそうに見えた。

 吹雪はその話を聞くと立ち上がり、扉に手をかける。

 

「吹雪、どこへ行くんですか?」

「ちょっと飲み物を買ってくる」


 吹雪はそう言うと扉を開け廊下へと出る。

 廊下へ出ると吹雪は近くの自動販売機で加糖のコーヒーを買いベンチへと座った。

 そこで先程ジョーから聞いた話を頭の中で反芻していた。


「男性恐怖症か」


 吹雪は再びスノーサイドプロダクションの事件について考える。

 あの時祐介達に全て任せていれば、あんなに酷いことにはならなかったのではないかと今でも思っている。

 あそこで三枝家の兵隊を出したことで、あんな騒ぎになったことを吹雪は後悔していた。


「俺は伯母さん達の言う通り、当主失格だな」

「あっ」


 独り言をいう吹雪が声のする方へと目を向けると、その先には夕凪葵がいた。

 長い髪をばっさり切ったショートカット姿の葵は吹雪の姿を見ると、ガタガタと全身が震えだす。


「悪い。今視界から消えるから」

「待ってください」


 吹雪が立ち去ろうと立ち上がった瞬間、葵が吹雪のことを引きとめた。

 吹雪は葵のほうを見るが、彼女の体の震えはいまだに止まらない。

 

「無理はしない方がいいんじゃないか? 無理すると返って悪化する」

「いえ、大丈夫です」


 全身ガタガタと震え今にも立てなくなりそうな葵を見て吹雪は心配になる。

 

「大丈夫なわけないだろう。とりあえず俺はすぐいなくなるから‥‥‥‥」

「大丈夫です。だから1度三枝さんとお話させてください」


 あまりに必死な葵に吹雪は戸惑いを隠せない。

 葵は自動販売機をはさんだベンチの向こう側へと座った。

 

「声を聞くだけなら平気ですから。幸いここなら自動販売機の反対側は見えません」


 その言葉を聞き、吹雪も葵とは反対側のベンチへと座った。

 葵の言う通り反対側のベンチの様子は吹雪からは見て取れない。

 

「それで、震えは収まったか?」

「はい、今は大丈夫です」


 声も特に震えることはなく、吹雪はとりあえず大丈夫な様子にほっとする。

 先程までとは違い、声もはっきりと聞こえていた。


「それで俺に何の用なんだ?」

「一言お礼を言いたくて」

「お礼?」


 自動販売機の向こう側から聞こえている葵の声は弱弱しい。

 それと同時に何故葵が自分にお礼を言っているのかがわからなかった。


「悪いがあれは俺の手柄じゃない。祐介の功績だ」

「でも、あの騒ぎを大きくしたのは三枝さんなんですよね?」


 吹雪は当時のことを思い出す。

 確かにあの時騒ぎを大きくしたのは自分の部隊である。

 だからこそあの事件の責任も全て吹雪にのしかかるべきはずなのだった。

 

「そうだ。俺があんな馬鹿騒ぎを起こさなければ、君みたいな被害者も生まれていなかったかもしれない」

「それは違います」


 葵は力強く吹雪の意見を否定する。

 それは自動販売機越しでも、吹雪に伝わってきた。

 

「あの騒ぎのおかげで、私は最悪の事態を避けることが出来ました」

「俺は何もしていない。ただみんなに迷惑をかけただけだ」


 吹雪はあの騒ぎで祐介達だけでなく、三枝家にまで迷惑をかけた。

 その強い思いは吹雪の中に今でも色ごく残っている。

 

「実は俺も夕凪さんに聞きたいことがある」

「何でしょうか?」

「貴方は何故あんなに怖い思いをしたのに、再び芸能活動をしようと思ったんですか?」


 吹雪が今回のことで特に疑問に思っていたのは葵のアイドルへの復帰である。

 あの事件で1番怖い思いをしたのは葵であり、そのせいで男性恐怖症にまでなってしまう。

 そこまでして彼女が芸能活動に拘る理由を吹雪は聞きたかった。


「私は親のようになりたかったから」

「親のように?」

「そう。私の両親って父は俳優で母は女優の芸能人一家だったんです」


 吹雪はその話を聞いて、自分の心に何かが引っかかる。

 先程までのかしこまった話し方とは違い砕けた様子で話す葵は、どことなく誰かに似ているように感じた。


「昔から両親は私のことを芸能人にしたかったみたい。だから昔から色々なオーディションを受けていたけど全部落ちていたの」


 吹雪は顔の見えない葵の話を聞いて、自分と境遇が似ていることに気づく。

 葵は芸能関連で自分は魔法関連、分野は違うが親や境遇何もかもが似すぎていた。


「親も落ちるたびに私のことをしかってたっけ。『何で貴方はこんなことも出来ないの?』とか『努力が足りないから落ちるのよ』とか散々言わた」


 吹雪も小さい頃は親から散々色々なことを言われてきた。

 上手く魔法が使えなければ、殴られることもしばしばある。

 だから必死になって、親に見限られないように努力をしていた。


「それでスノーサイドプロダクションのオーディションが受かった時はすごく喜んでくれたわ。それはもう自分の事のように褒めてくれた。それで私もやっと自分も両親と同じスタートラインに立てるんだと思ってた」

「そこにきてあの事件か」

「うん」


 葵があの事件といった瞬間、声量が弱くなったのがわかった。

 それだけあの事件の爪跡が深いく刻まれてるのだと感じた。

 

「あの事件の後、親から散々謝られたわ。それ以降親からは芸能事務所の話はしなくなったの。芸能事務所に入るのもむしろ止めるように散々言われた」


 最近吹雪も似た様なことがあった。

 自分の父から好きなようにしろと言われたあの会話を思い出す。

 あれは自分のことを考えて父が出した決断だということが、今の吹雪にはよくわかる。

 

「そんな中であの山吹さんと会ったんだ。正直チャンスだと思った。恵梨香と梓もいてくれるなら私ももう1度やり直せるんだって」

「強いんだな。その前向きな姿勢を俺も学びたい」

「三枝君も何かあったの?」

「まぁな」


 吹雪はそう言うと手元にある缶コーヒーを一口飲む。

 加糖のコーヒーだったが、吹雪の舌では苦く感じた。


「俺の家は三枝家という魔法師を生業としている一族なんだ。魔法師の話は知っているか?」

「聞いたことがある。噂だと魔法師と呼ばれる人達は規律がすごく厳しいって」

「その通りだ。だから俺も君と同じように幼少期の頃から厳しい教育を受けてきた。三枝家の当主になるために」


 吹雪は小さい頃、九条家同様家の稽古等を精力的にこなしてきた。

 殆ど自由のない生活に辟易しながらも、自分は次期当主になるから仕方がないものだと友達と遊ぶことすら諦めていた。


「それって大丈夫だったの? もしかして私より大変な立場だったんじゃない?」

「一応これでも次期当主候補だからな。それぐらいの覚悟を持って今までやってきた」


 日笠家の騒動の時も要請を受けた時、次期当主候補としての強い思いで対応してきた。

 だが、三枝家の次期当主というのは建前で自分の友人を救いたかったという思いも同時に吹雪にはあった。


「だがこの前のホテルでの一件で少しだが考えが変わった」

「その理由って聞いてもいい? 何が変わったのかって」


 葵も吹雪の話に興味があるように思えた。

 吹雪は三枝家で行われた定例会議のことを思い出す。

 あの時は分家の人達から散々なことをいわれへこんでしまっていた。

 それは今まで当主として自覚ある行動をしてきた吹雪としては始めての判断ミスでもある。


「あの時騒ぎが大きくなったせいで、分家の方から批判がきたんだ。『お前は三枝家の当主にふさわしくない』ってな」


 伯母から言われたセリフは今でも吹雪の頭の中に残っている。

 そのことはしばらくの間吹雪の頭から離れることはない。

 

「でも、それは三枝君が悪いわけじゃない。貴方がいなければ私は‥‥」

「親父も君と同じ事を言っていた。『お前はよくやった』とな」


 父に言われたセリフを吹雪はようやく理解する。

 好きにやれということは自分の中にある可能性を広げろということ。

 三枝家という小さな器に縛られず、自分の信じる道を進めということの裏返しでもあった。

 

「俺も君と同じで父からあきれられて見捨てられたと思っていたが、どうやらその考えは違っていたみたいだ」


 父が出て行く時に見せた笑顔がその証拠でもある。

 自分が仲間のために行動していたことが、吹雪の父にとってはよっぽどうれしかったらしい。


「だから君の両親も決して君を見捨てているわけじゃない。むしろ自分の信じる道を進んでほしいからそういったんだ思う」


 吹雪はそのような話を葵する

 彼女の方から声は聞こえないが、納得してもらったものだと自分では思っていた。


「そうなんだ」

「だから俺も自分の信じる道を進もうと思う。莉奈のようにな」

「莉奈さんって、恵梨香の友達の?」

「あぁ、そうだ。知ってるのか?」


 葵は『えぇ』と小さく言う。

 

「恵梨香がよく話していたわ。莉奈という人の嘘みたいな本当の話」

「何を話したかは知らないが、多分それは全部本当の話だと思う」


 吹雪は莉奈との出会いを思い出す。

 初めて莉奈と出会った時のことは今でも吹雪の胸の中に残っている。


「私が聞いた話だと7mある木を1人で登って下りられなくなったって聞いたけど?」

「それは事実だ。ただその話には続きがある」

「それってどんな話?」


 声だけでも葵が興味津々に話を聞きたがっていることがわかった。

 吹雪としてもあの出来事は昨日のように思いさせる。


「祐介っていう俺の友達が莉奈を助けに木に登ったんだ」

「7mある木に?」

「そうだ。普段はあまり活発的な奴じゃないんだが、莉奈のこととなるると必死にがんばる憎めない奴だ」


 それは莉奈だけではなく則之や恵梨香、自分に対しても祐介は必死に何かをしようとする。

 そんな祐介を吹雪は自分にとって、かけがえのない親友だと思っていた。


「その子はすごいんだね。友達のためにそんな事をするなんて」

「そうだ。だがその話にはまだ続きがあってな、祐介が登り終えると帰りのチャイムが流れたんだ」

「それでそれで?」

「チャイムが鳴ったら莉奈が『テレビの時間だ』とか言って1人でするする下りてきてな、今度は祐介が降りられなくなった」


 当時莉奈が木登りがしたいといって上った後、降りられないと言って泣いていた莉奈を助けにいったのは祐介であった。

 自分も高い所が苦手なのに半べそをかきながらも、頑張って上まで上った祐介。

 だが、登り終えた時帰りのチャイムが鳴ると、莉奈は祐介を押しのけて1人で何でもなかったように木を降りてしまった。

 結局祐介が木の上に上って2時間後、地元の消防局がはしご車にのって助けに来てくれたため祐介は無事救出されたのがj件の顛末でもある。

 

「その後祐介はお姉さんからこっぴどく怒られ、莉奈もご両親から散々説教を受けた話を俺達は聞いたんだ」

「莉奈さんって本当にワンパクな子供だったのね」

「そうだな。あいつは普通に魔法の稽古をサボって遊んでいることもしょっちゅうあったからな」


 小学生時代稽古をサボってよく祐介の家で遊んでいた莉奈の話も吹雪はよく聞いていた。

 その度に莉奈の両親が祐介の家に行き、莉奈のことをよく連れ帰っていたらしい。

 

「そんな事があったの」

「あぁ、あの時は大変だったけど楽しかったよ」


 吹雪は小学生の時のことを懐かしく思った。

 ほんの1年前の出来事だが、吹雪にとってはどの思い出も先程起きたかのように感じてしまう。

 

「そういえば、三枝君はどうやって莉奈さんと知り合ったの?」

「莉奈との出会いか?」

「そう。恵梨香と則之君は小学生の時に同じクラスになって意気投合したって聞いたけど、その時から吹雪君は仲間にいたって聞いたよ」


 葵はどこか興味ありげな声で吹雪に聞く。

 それは葵にとっては単純な興味本位なものでもあったが、吹雪にとっては一生忘れられない財産であった。


「話すと長くなるけど、それでもいいか?」

「全然いいわよ。今休憩させてもらってるから」

「そうかじゃあ話そうか。俺達の出会いを」


 葵がそう言うと吹雪は当時のことを語りだす。

 莉奈との出会い、それはとあるパーティー会場に吹雪が顔を出したことから始まった奇跡であった。

次回は吹雪と莉奈の出会いの話になります。

こちらも明日の19:00に投稿しますのでもう少しお待ち下さい。

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