玲奈の誘いと恵梨香の決断
「うんうん。本当に? わかった。じゃあそうするから。うん。ありがとう、お母さん」
莉奈は携帯の通話を終えると、携帯をポケットの中にしまう。
先程から莉奈は習い事に遅刻するという連絡を九条家に入れるため形態で母親に連絡を入れていた。
「莉奈、どうだった?」
「うん。用事が終わったら連絡してって」
莉奈の言葉に祐介は安堵のため息を吐く。
莉奈の母親は厳格な人物で、祐介も幼い頃は莉奈と一緒によく怒られていた。
そんな人物だからこそ説得が上手くいかない場合、どうすれば話がこじれないように仲介できるのかとずっと考えていたが、その考えも杞憂に終わった。
「よかった。また莉奈の親に大目玉貰うと思ってたよ」
「別に怒ってなかったよ。それに祐介と一緒なら別にいいって」
莉奈の最後の一言が祐介にはどうしても引っかかる。
最近の九条夫妻は稽古に遅刻する時等莉奈を怒ることは一切なく、それどころか自分と一緒にいる時はどんなことがあっても見逃してくれる。
何故自分と一緒にいる時は見逃してくれるのかと祐介は疑問を思うが、お言葉に甘えて余計なことを考えないようにした。
「後お母さんから伝言で、『帰りは九条に顔を出しなさい』って」
「わかった。じゃあ帰りは莉奈と一緒だね」
莉奈と帰りの約束をして先程までの雑念を振り払うべく、祐介は窓の外を見た。
窓の外は住宅街がある自分達の町とは違い、高層ビル等が立ち並ぶ都会の風景へといつの間にか変化していた。
「それで玲奈さん。この車はどこに向かってるんですか?」
「それは秘密。もうちょっとでつくから、それまで待ってて」
助手席に座っている玲奈はそう言うと、再び恵梨香に話しかける。
結局あれから女性人以外には何も伝えられていない。
車内では若干恵梨香がそわそわしている様子だけが祐介には伝わってくる。
そんな恵梨香の落ち着きのない様子を見ていると隣で則之が祐介の肩をトントンと叩いた。
「則之? どうしたの?」
「祐介は玲奈さんがどこへ行くと思いますか?」
「そんなのわからないよ」
祐介も玲奈が自分達をどこに連れて行くか見当がつかない。
玲奈の気まぐれはいつものことなので、このまま九州地方までドライブということも十分に考えられた。
「俺としては玲奈さんの気まぐれで、このまま九州地方までドライブにならないように祈ることしか出来ないよ」
「それだけは考えたくないですね」
「俺もだ」
吹雪も2人の意見に同調する。
どこへ行くか告げられてない男性人は、恵梨香とは違う意味で落ち着きがない。
「みんな、ついたわよ」
リムジンが駐車場に停止すると玲奈が全員に外へ出るように促す。
せかされた祐介達が外へ出ると、そこには古びた小さい2階建ての建物があった。
「ここはどこですか?」
「ついてくればわかるわ」
そう言うと、玲奈は建物の中へと歩いていく。
その後ろを恵梨香がくっついていく。
「祐介、行こう」
「わかったから。だから莉奈は引っ張らないで」
祐介は莉奈に手を掴まれ、引っ張られながら中へと入っていく。
「私達も行きましょうか」
「そうですね。ここにいても仕方がありません」
莉奈達に冷ややかな視線を送りながら則之や女神達も続いて建物の中に入っいく。
内装は見た目通り古くさい作りとなっているが、きちんと掃除がされているのか埃が1つも落ちていない非常にきれいな状態で管理されていた。
玲奈は奥の方へと歩いて行くと、とある扉の前に立ち止まり扉を開ける。
「さぁ、みんなここに入って」
玲奈に促されるまま、6人は扉の中に入る。
扉の中は何かの事務所のようで辺りには机やソファーが置いてあった。
「玲奈さん、結局ここはどこなんですか?」
「そのことも説明するから。みんなそこのソファーに座って」
祐介達は玲奈に促され、奥にある客間のソファーに座った。
対になっているソファーには手前のソファーに吹雪、則之、祐介の順に座り、反対側のソファーに女神、恵梨香、莉奈の順に座った。
玲奈は2つのソファーの間にパイプ椅子を置き、そこに座る。
「今日はごめんね。みんなを巻き込んじゃって」
「そのことは別に気にしてません。それでここはどこなんですか? 見た所どこかの事務所のようですが?」
「ここはサニーサイドアップっていう芸能事務所なの」
玲奈は楽しそうに祐介達に話す。
「サニーサイドアップ?」
「僕はそんな事務所聞いたことがありません」
則之と吹雪も玲奈の話に首をかしげる。
転生前の知識を持っている祐介でも、そのような事務所の名前はに聞き覚えがない。
「そりゃあ、名もなき弱小事務所だから。則之君達が知らなくても当然よ」
「弱小事務所って」
自虐的に事務所の話をする玲奈に祐介はあきれる。
そのあきれ果てる祐介の様子を見た玲奈はケラケラと笑っていた。
「でもどうしてそんな所に僕達を連れてきたんですか?」
「実はここの社長に恵梨香ちゃんの話をしたら、是非1度お会いした言ってたから今日は来てもらったの」
「玲奈ちゃん、もう来ていたんですか」
ドアの方から出てきたのは古い黒縁眼鏡によれよれのスーツを着たひょろひょろの男性だった。
顔は青白で祐介の目からは不健康にしか見えない。
そして頬に張られた大きな伴奏子が余計に目を引いた。
「ジョーさん、久しぶり。その頬の絆創膏はどうしたの?」
「あぁ、ちょっと女の子をスカウトしている時にいいものをもらっちゃって」
ジョーと名乗る男は自分の頬に手を当てて苦笑いをする。
ジョーの後ろには祐介が見たことがある少女の姿が顔を覗かせた。
「山吹さん、本当に恵梨香ちゃんはここにいらっしゃるんですか?」
「梓」
恵梨香がジョーの後ろにいる梓の顔を見て驚いていた。
梓も恵梨香を見つけると恵梨香めがけて歩いていく。
恵梨香も立ち上がり、梓の方へと向かいその手を取った。
「梓がどうしてここにいるんだ?」
「恵梨香ちゃんともう1度グループを組めるって聞いたんで慌てて飛んできたんです」
「そうか‥‥‥‥」
恵梨香は神妙な表情で梓の方を見た。
梓は笑顔で恵梨香の方を見つめていて、視線は恵梨香からはずそうとしない。
「聞いた話だと、後でここに葵ちゃんも来るらしいの」
「葵も来るのか?」
「うん。山吹さんが葵ちゃんにも声をかけたんだって」
山吹と呼ばれた男の方を恵梨香は見ていた。
ソファーに座っている祐介は山吹の行動を不審に思いながらも、玲奈に質問をする。
「それよりも玲奈さん、そろそろ今回のことについて詳しく説明してくれませんか?」
「それは私が説明しましょう。梓ちゃんと恵梨香ちゃんもそちらのソファーに座ってください」
ジョーに促され、恵梨香と梓も莉奈達が座っているソファーへと座った。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。私はサニーサイドアップの社長である山吹ジョーと申します」
「ジョーさんは父とのつながりで親交があってね。この前の事件のことも全部知ってるわ」
「皆さんには大変申し訳ないですが全て聞かせてもらいました。祐介君や莉奈さん、そして吹雪さんの活躍も聞いています」
山吹の言っていることには嘘偽りのないように祐介は思えた。
玲奈は行動は突拍子もないことをするが、人を見る目は誰よりもあったと祐介は思っている。
それは関東魔法高校の生徒会に燈子を推薦し、歴代最高と呼ばれた生徒会の会長をしていたことからも明白で祐介も全幅の信頼を寄せている。
それと同時に自分達がここに呼ばれた理由も大体察しがついた。
「今回恵梨香さんと梓さんを呼んだのは他にもありません。実は夕凪葵さんも含めて3人でもう1度ユニットを組んでアイドルデビューをしてみませんか?」
「ユニットを?」
恵梨香は山吹の顔を見たまま押し黙る。
その険呑な雰囲気に山吹も一瞬肩がビクっとはねた。
「そうなのよ、恵梨香ちゃん。実はあのスノーサイドプロダクションで行われたパーティーのビデオをジョーさんに見せたら‥‥‥‥」
「この3人にトップを取れる素質を感じたんです。1人は玲奈ちゃんの知り合いということで玲奈ちゃんに説得をお願いしました」
「でも、1人足りなくないですか?」
祐介は周りを見るが、夕凪葵の姿が見えないことを気にかける。
それと同時に山吹の頬に貼ってある大きな絆創膏が気になった。
「残念ながら今の所、夕凪葵さんからいい返事がもらえませんでした」
「実は葵ちゃん、あれから男性恐怖症になってしまったらしくて」
「その頬の絆創膏ももしかして‥‥‥‥」
「勧誘の時に蹴られてしまいました」
ジョーは悲しげな表情で俯いた。
実際夕凪葵はあの事件で男の人に襲われている。
最悪な展開にはならなかったと玲奈からは聞いているが、それでも心に負った傷は深かったのだろうと祐介は考えていた。
「でも、まだ私は諦めませんよ。誠心誠意、心をこめて接すればあの子もきっと応じてくれるはずです」
「恵梨香達には悪いが、俺は今回のことについては反対だ」
山吹が話している時に吹雪がその声をさえぎる。
吹雪の様子は山吹を睨みつけ、激しい怒りをぶつけているようにも感じた。
「スノーサイドプロダクションの一件があったんだ。この事務所もまだ健全だとはいえない以上、この誘いに乗るのは得策ではない」
「確かにそうです。私も反対です」
「吹雪に女神ちゃん」
莉奈は女神と吹雪を見て肩を落とす。
莉奈としても、恵梨香の夢がかなってほしい反面あのような騒ぎに巻き込まれてほしくないという願望が見え隠れしており胸中は複雑な様子に見えた。
「私の事務所であんな事は絶対しません。健全な経営をもっとうにしていますから」
「そのせいで経営は傾くしアイドルには逃げられて散々な結果になってるんだけどね」
「玲奈ちゃん、それは内緒にしてよ」
玲奈はジョーの方を見ながらクスクスと笑っていた。
それと同時に山吹は何かを閃いたのか、ポンと自分の手を叩いた。
「そういうことなら今度うちの事務所の仕事を見学しませんか?」
「見学ですか?」
祐介はジョーに対して思わず聞き返す。
芸能事務所の仕事の見学をしてくれとか言う人を祐介は始めて見た。
しかも自分の仕事に他の人を巻き込む等普通に考えればありえないことである。
「そうです。いきなり全員で見学するのは無理ですけど、何人かに分けて案内をするということなら可能です」
今回の話は不安要素もあるが、同時にチャンスだと祐介は感じていた。
ちゃんとした事務所に恵梨香を引き渡すなら、恵梨香のアイドルとしての未来も変えられるのではないかとこの時の祐介は考えていた。
「俺はそれでいいです。莉奈はどうする?」
「私も別にいいよ。恵梨香がどんな事務所に入るのか私も興味があるから」
莉奈が頷くと祐介は則之達の方へと目を向ける。
「僕も莉奈達と同じです、吹雪はどうします?」
「俺もそれならいい。後は恵梨香がどう判断するかだ」
祐介達は恵梨香の方を向き、恵梨香の反応を待った。
「私もそれでいい。元々あんなことがあったけど、やっぱるアイドル目指しているしさ」
「恵梨香ちゃん」
梓は恵梨香の手を取りうれしそうに微笑む。
「それでは決まりですね。後、恵梨香さん達の両親にも色々と説明しないといけないことがあるので、一緒に来てくれるとありがたいです」
「わかったよ」
「じゃあ、皆さんのスケジュールなんですが‥‥‥‥」
その後祐介達は各自スケジュールを聞かれ、その通りに予定を組んでいく。
こうして祐介達はサニーサイドアップの見学ツアーを行うこととなった。
投稿が遅くなり申し訳ありません。
明日からまた数日間19:00に投稿を行います。




