緊急会議
投稿が遅くなり申し訳ありません。
「それで、今回の件についてはどう弁明するつもりですか?」
三枝家の大広間で1人の女性が吹雪のことを糾弾する。
現在三枝家では分家を含めた三枝一族の重鎮達全員が出席する緊急会議を行っていた。
この会議には吹雪も出席しており、吹雪の他にも本家分家問わず20人を超える数の人間が参加している。
その場で吹雪も父である徹の隣に座り自分を糾弾する女性、吹雪の伯母に当たる人物のことを静かに見つめていた。
「今回の件とは何のことですか?」
「恍けないで下さい。スノーサイドプロダクションの騒ぎで三枝家の私兵を勝手に使ったことです」
吹雪の父は話を逸らそうとするが、伯母の口調がそのことを許さない。
三枝家の私兵である魔法部隊を投入したことは、三枝家だけでなく三枝の分家にも知られることとなり大きな問題となっていた。
三枝家は中立の立場から物事を判断をすることをもっとうにしている魔法師一族である。
よって私情を挟んでの行動は最もタブーとされており、吹雪の独断行動は三枝家としても感化できない問題になっていた。
「聞く所によると吹雪が自分の友人を助けるため、勝手に私兵を使ったらしいじゃないですか」
「それのどこに問題があるんですか?」
「おおありです」
吹雪の伯母は父と吹雪のことを睨みつける。
伯母の鬼気迫る眼光に一瞬怯んでしまった吹雪であるが、すぐさま平静を装い伯母の顔を見た。
「国や三枝家のためならいざ知らず自分のことのために三枝の兵を使う等、本来ならばあってはならないことです。吹雪は次期当主候補としての倫理観が不足しているのではないですか?」
伯母の言うことは全て的を得ていた。
普段の吹雪なら今回の様な独断行動だけでなく、三枝家の私兵を使うこと等絶対しない。
それは他の分家の人達に隙を見せることになり、このような場で槍玉に挙げられることを本能的に理解しているからである。
「これならうちの息子の方が次期当主に向いていると思いますが。現当主もそう思いますよね?」
伯母は吹雪の隣に座っている吹雪の父の方へと目を向ける。
吹雪を糾弾し続けている伯母はどこか得意げで、生き生きしているように吹雪は感じられた。
「全く次期当主がこんなんじゃ、三枝家の未来も暗いですね。このような現状は大変痛ましいことだと思います」
わざとらしく身振りを交えて話す伯母から視線を逸らし、吹雪は悔しそうに唇を噛む。
三枝吹雪は名門魔法一族、三枝の次期当主候補と呼ばれている男であり、6人兄妹の長男として生まれた。
常に兄妹の見本となる行動を心がけてきた吹雪だが、この前起こしたスノーサイドプロダクションの一件で今まで積み重ねてきた評判が全て崩れ去ってしまう。
自分がたった1度犯してしまった取り返しなつかない大きな過ちに対して、吹雪は自分自身を責めていた。
「姉さん、さすがにそれは言いすぎじゃないですか?」
「私は事実を伝えているだけですけど、何か問題がありますか?」
伯母は自分の言葉に全く悪びれようとしない。
それもこれも伯母の言っていることは何1つ間違っていないのだからしょうがない。
むしろ反論する自分達の方に問題がある。
だが、それでも吹雪の父は吹雪を擁護する姿勢を崩そうとしない。
「お言葉ですがその意見は十分問題があります。先日渡した資料の通り、スノーサイドプロダクションの不正は明らかだったはずです」
「確かにそのような資料も送られてきましたね」
吹雪の父は背中に隠してあった大量の紙の束を目の前に出す。
その資料は100枚以上にも及び、父が必死になって情報をかき集めている様子が伺えた。
「それなら吹雪が行動した理由もわかってもらえるんではないでしょうか? 吹雪はちゃんと客観的に物事を見て、今回の事件が感化できない事態と思い行動したんですよ」
「私が言ってることはそのことだけではないんですが?」
「何?」
吹雪の伯母は依然余裕の笑みを崩す気配がない。
むしろ吹雪達の反論も全て予測しているように思えた。
「私が言っていることはそのような瑣末のことに何故三枝家の部隊を出したかということです」
伯母のその一言に周りにいる大人達も賛同する。
周りにいる半数の大人達が伯母の方の派閥に入っており、吹雪達親子のことを心よく思っていない人達が多い。
それは個人的な恨みの部分が大きく、現当主である吹雪の父でさえどうすることも出来ない。
「最終的に三枝家の部隊を出す許可を出したのは俺だ。そのことに関しては俺にも責任がある」
「そうですよ。そもそも貴方が部隊を出すなんて許可を出さなければ、こんなことにはならなかったんです」
糾弾する伯母に対して、吹雪の父は伯母を睨みつける。
先程の穏やかな表情とは別人とも思える表情に、余裕の笑みで対応していた伯母も表情が引きつる。
「それでは姉さんに聞きますが、今回のことで何か三枝家に不都合でもありましたか?」
「それは‥‥‥‥」
吹雪の父の追及に伯母は押し黙ってしまう。
先程とは打って変わり、狼狽する伯母の様子を見て吹雪の父親は挑発するように笑った。
「今回の件は他の魔法師一族からも賞賛されている。それに行政の方からも感謝状を貰ったんだ。三枝家の地位が貶められる所かむしろ株は上がっている」
吹雪の父が言う通り今回の三枝家の行動は賞賛はされど、非難する所は一切ない。
特に魔法師一族の中でもかなり位の高い九条家が真っ先に三枝家を賞賛したことで、他の魔法師一族からも三枝家を非難する声明は上がってこない。
それは今回の事件には九条家の次期当主候補である莉奈も関わっていたので、その矛先を逸らすための策略だと吹雪は考えていた。
「今回の吹雪がとった行動は賞賛されることがあっても糾弾するものではない。そうだろ? 姉さん?」
吹雪の父は勝ち誇った顔で伯母の方に顔を向ける。
伯母は悔しそうな顔をしながらそのまま黙り込んでしまい、やがて何も言わなくなった。
「誰も反論がないということは、吹雪への処罰についてなしということでいいですね?」
大広間は静寂に包まれ、吹雪の父の意見に反論するものは誰もいない。
反対派の人達でさえ、伯母と同様に下を向き吹雪の父と目線を合わそうとしなかった。
「それではこの話題はこれで終了。今日の緊急会議はこれまでだ」
吹雪の父が手を叩いたことを合図に会議は解散となり、部屋から大人たちが1人づつ出て行く。
その列には吹雪の伯母も含まれており、その表情からは悔しさがにじみ出ていた
そうしてあれだけ人がいた大広間には、いつの間にか吹雪と父の2人だけとなった。
「親父、本当にいいのか?」
「何だ吹雪、お前らしくもないことを言って?」
吹雪の父は不思議そうに吹雪を見る。
その表情からは父がどんな思いを抱えているのか吹雪はわからない。
「今回の件は俺の独断で動いたのに、親父にまで迷惑をかけて」
「そんな事か。吹雪に部隊を貸して指揮権を与えたのは俺だ。お前の責任等1mmもない」
父はこのように話すが、吹雪の胸中は複雑である。
スノーサイドホテルの一件で、あそこまで大きな騒ぎを起こさなければ今回の様な緊急会議は行われなかった。
そもそも部隊を使いたいと言ったのは則之と自分なので、父には全く非がない。
それなのに父は自分の行いを一切糾弾せず全く触れようとさえしないので、父の考えが吹雪には全くわからず悩んでしまう。
「それに、俺はうれしかったんだからな」
「何?」
吹雪の父は子供のような笑顔で吹雪のことを見ている。
その顔は先程の会議等では絶対に見せることはない、吹雪の家族だけが知っている父の顔であった。
「お前が我侭を言ってくれたことにだ。吹雪は昔から我侭1つ言わずに育ったから、ずっと心配だったんだよ」
「別に俺は親父への要求がなかっただけだ」
憮然とした表情で吹雪は父に言う。
元々伯母が前々から吹雪達の行動に逐一文句をつけていたので、できるだけ隙を見せないように行動をしてきた。
それが父には我侭を言わないできた息子と受け取られていたらしい。
「それにお前は友達を助けるために動いたんだろ? ならお前はもっと胸を張れ。お前がしたことは間違ってない」
父は自分の行いに対して、もっと誇っていいと話す。
吹雪としては父にそう言われたことで、多少ではあるが自分の行いに自信が持てた。
「ありがとう。親父」
「いいってことよ。それにしてもお前も変わったな。昔とは大違いだ」
「悪いが俺自身は自分が変わったと思ってない」
「確実に変わったよ。そうだな‥‥‥‥九条の娘さんとつるみだしてから変わり始めたんだな」
吹雪は父に言われて莉奈と出会った時のことを思い返す。
莉奈との衝撃的な出会いは8年経った今でも鮮明に思い出すことが出来た。
「あの時は大変だったが、今でもあのことがあってよかったと確信している。あんなお前の表情はもう2度とお目にかかれないだろうからな」
「出来れば忘れてくれ」
珍しく顔を赤らめる吹雪は当時のことを思い返す。
吹雪が莉奈と初めて出会ったのは、関東所属の魔法師達が集まる会合の場。
大勢の有名魔法師達が集まる社交の場で2人は出会った。




