華やかな表舞台
9月4週目の休日、夕焼け空を眺めながら、祐介達はクリスタルパレスホテルへとやってきた。
クリスタルパレスホテルは祐介達が住んでいる地方では最高級のホテルである。
32階建ての高層ホテルで、特に最上階のスイートルームから見る夜景は絶景と巷でも評判になっている。
ホテル内は娯楽室等のレジャー施設も完備されており、中でもホテル内にあるパーティーホールは全部で10ホールあり地方最大級の広さを誇り、大きな行事がある時は決まってこのホテルが使用されている。
その最高級ホテルの入口で2人の男女がそのホテルを見上げていた。
「このホテルって大きいわね」
「そうだね。さすがこの地区最大級を誇るだけはある」
ホテルを前にして莉奈は緊張しているように見える。
2人はここまで西園寺家が出してくれた車でここまで連れてきてもらい、その時から妙に落ち着きがないそぶりを見せていた。
このようなパーティーを何度も経験している祐介だが、いまだにこのような催し物には馴れてない。
「全く、相変わらずこのホテルは無駄に広い」
「そういえば祐介ってこのホテルに来たことあるの?」
莉奈の素朴な質問に祐介は動揺する。
転生前に姉の会社の祝賀パーティーでこのホテルには何度も来たことがあり、内装のこともよく知っていた。
その時は誰とも話したくなかったため、喫煙室に篭ってずっと煙草を吸っていた所を女性社員に発見されパーティー会場に連れ戻されたことを今でも鮮明に覚えている。
「いや、噂で聞いたことあるだけだよ。姉さんからこのホテルのこと結構聞いてるから」
「そうなんだ」
祐介の咄嗟の嘘も莉奈は特に疑問を持たず話を流す。
そのことに祐介は安堵しながらも、莉奈に対してはもう少し注意して話そうと心に決めた。
「それよりもこのチケットで本当に俺達も会場に入れるのか?」
「うん。このチケットを見せれば入れるって玲奈さんは言ってたけど」
2人は緊張しているためか、顔がこわばっていた。
元々今回2人がスノーサイドプロダクションのパーティーに出席できるようになったのは玲奈の計らいである。
パーティーの主催者に怪しまれないようにと西園寺家とは別のルートを使い、パ-ティーチケットを玲奈が入手してくれた。
家にはチケットと一緒にスノーサイドプロダクションに所属しているアイドル一覧の冊子が送られてきたが、祐介達が見る前に燈子に取られてしまったため2人は中を確認していない。
その時冊子を見て嫌悪感を示す燈子の顔が祐介には印象的だった。
「そういえばチケットと一緒に送られてきたあの冊子ってなんだったんだろう」
「それはわからないけど、姉さんの表情から大体察しはつくよ」
「えっ?」
「それよりも中に入ろう。姉さん達ももう入ってるはずだから」
祐介は莉奈の腕を掴み、パーティー会場の受付へと歩みを進める。
2人が受付につくとそこにはスーツ姿の女性が受付を取っていた。
「お客様、お名前の方を伺いたいのですが宜しいですか?」
「はい。神山祐介と九条莉奈です」
「神山様と九条様ですね。チケットの方はお持ちですか?」
「はい。チケットはこちらに‥‥‥‥」
そう言うと祐介はチケットを2枚受付に渡す。
受付の女性が一瞬2人に怪訝な視線を向けるが、チケットを確認するとやがてその表情が笑顔になる。
「神山祐介様と九条莉奈様ですね。お待ちしておりました。こちらのホワイトバンドをお付け下さい」
「わかりました」
そう言うと2人は腕に白色のゴムバンドを手首につける。
「こちらのバンドはこのパーティーホールに入るための通行証になりますので、くれぐれも失くさないようにお願いします」
「わかりました」
「では、パーティーの方をお楽しみ下さい」
受付のお姉さんのセリフを聞いた後、祐介達はホールの中へと潜入する。
パーティー会場は広く壁際にある特設ステージが印象的だった。
会場中にある丸テーブルの上には祐介には縁のない様な高級料理が並んでおり、壁際には飲み物を貰うためのバーカウンターが並んでいる。
入り口が見えなくなり、完全に会場の中へと入ると莉奈は深いため息をつき緊張を解いた。
「はぁ~~~~」
「そんなに緊張しなくてもいいのに」
「祐介だって緊張してたじゃん。それにこんな服初めて着たから余計に緊張するって」
莉奈が言うのは自分達が着ている格好である。
現在祐介は黒のスーツに青色のネクタイ姿で、莉奈は真っ赤なパーティードレスに身を包んでいる。
これはドレスコードに引っかからないようにと玲奈が祐介達の服を選んでくれた賜物である。
その時、目キラキラとさせて莉奈の衣装を選んでいた玲奈が印象的であった。
「でも、その格好をしている莉奈はすごくきれいだと思う。隣にいる俺が見劣りするぐらい」
「それを言うなら祐介も似合ってるから」
莉奈の姿はアイドル顔負けの素晴らしい格好をしていて、所々に気品がある。
それは九条家が教育を施してきた成果でもあり、歩き方も他の人とは違い優雅である。
周りのお客さんも人1倍きれいで気品がある莉奈の姿に見とれていた。
「それに、私はお世辞なんていらないから」
「お世辞時じゃないって」
莉奈は顔が真っ赤になり、そっぽを向く。
そんな莉奈を見ながら祐介はいつも通り和んでいる所、燈子と女神が2人の方に近寄ってくるのが見えた。
女神が黄色のドレスに身を包んでいるのに対して、燈子は仕事用の真っ黒なスーツを着込んでいた。
「きれいな美少女だと思っていたがやっぱり莉奈ちゃんだったか。どうやら上手く入れたようだな」
「ついでに寄生虫までいるようですが」
「誰が寄生虫だよ」
女神の罵倒に対して祐介は猛烈にツッコミをいれた。
「一応言っておくが女神ちゃん、祐介は寄生虫ではない。特に害もないのだからミジンコ扱いで十分だ」
「燈子さん、それさっき女神ちゃんの言葉より酷いと思いますが」
ばっさり祐介のことを切る燈子に対して、莉奈は苦笑いを浮かべながらすかさずフォローを入れた。
祐介といえば、止めるのをあきらめがっくりと莉奈の隣でうなだれている。
「莉奈ちゃんは祐介に優しいな。女神ちゃんぐらいばっさり切っても罰は当たらないぞ」
「確かに祐介は私にとって優柔不断でへたれでいざという時には失敗ばかりのどうしようもない弟みたいな存在ですが、ちゃんと良い所もいっぱいあるのでそんな風には言えません」
「そろそろ俺、泣いてもいいよな」
燈子達から浴びせられる罵声に対して莉奈の隣で祐介は落胆するしかない。
悲嘆にくれる祐介のことを無視して3人は話を進める。
「さてと祐介の罵倒はここまでにして、ステージの近くを見てくれ」
「ステージですか?」
莉奈と共に祐介はステージを見ると、そこには5人の少女の姿があった。
その女の子達はミニスカートにノースリーブのへそだしルックでどの女の子も可愛いが、祐介にとっては目の毒である。
その5人の中に祐介や莉奈もよく知っている少女の姿があった。
「恵梨香‥‥‥‥」
「莉奈、違うよ。姉さんが言ってるのは恵梨香のことじゃないよね?」
「祐介も洞察力だけは鋭くなったようだな。その通りだ」
「どういう意味?」
燈子と女神はわかっているようだが、莉奈だけは祐介の言葉の意味がわからなかった。
「恵梨香達だけじゃなくて、周りの人達を見れば莉奈もわかると思う」
「周り?」
祐介は恵梨香の周りの少女達の方に視線を移す。
「確かに周りにもきれいな女の子が一杯いるけど何か関係があるの?」
「多分あれは恵梨香のいる事務所の先輩達だよ。ただここで問題なのはあの人達の格好にある」
「格好?」
恵梨香の周りの年上の女性達はそれぞれのコスチュームに身を包んでいる。
着物姿の女性や学校の制服らしいものを着た女性、他にもチアガールやマントを着た騎士風の女性等、グループによって様々な女性がいた。
「あれってグループごとの衣装でしょ? 何か問題があるの?」
「普通なら特に問題はない。あれが本当にそのグループのコンセプトにしているものならね」
「えっ?」
驚く莉奈に燈子が口ぞえをする。
「莉奈ちゃん、例えばあの着物を着ているグループの平均年齢は16歳の現役高校生グループなんだ。今までのシングルも全て制服姿で歌ってるのに今回は何故か着物を着ている。普段制服を着ているグループがこの日だけ着物を着ているのはおかしいと思わないかい?」
「確かにそうですね」
「つまり、俺と姉さんが言いたいのは20周年記念のパーティなのに、自分達のコンセプトとは全く違うことをしているのはどう見たって怪しいってこと」
「でも、特別なパーティーならサプライズ衣装で来たって良いんじゃないのかな?」
「甘いですね莉奈さんは」
女神が得意げな顔をしているのを見て祐介はイラっとした。
「大人の‥‥「大人の世界はそんなに甘いものじゃないよ。もしかしたらバックについている人の意向で衣装を変えたのかもしれない」‥‥‥‥私のセリフが取られました」
平然と話す祐介の前で女神は唖然とした表情を浮かべていた。
「そう言うことだ。とりあえずまだ推測だが、今日はそのようなことが行われるかもしれないと思ったほうが私はいいと思う」
燈子はスーツのポケットから煙草を取り出し、ライターを右手に持つ。
煙草を口にくわえ、今にも火をつけようとした時に祐介と莉奈は慌てて止めに入った。
「2人共何をする」
「燈子さん、ここで煙草はだめです」
「姉さん、ホール内は禁煙だから吸うなら外の喫煙室で吸ってきて」
「そんな事はわかっている。ちょっと口が寂しくなっただけだ。時間内には戻るから君達だけでそこにいてくれ」
そう言うと燈子は3人から離れ、1人ホールの外へと歩みを進めた。
ホールの外へと歩いていく燈子の後ろ姿はどこかいじけているように見えた。
3人はその姿を淡々と眺めている。
「姉さんは相変わらずのマイペースというか‥‥‥‥」
「燈子さんらしいね」
祐介と莉奈は燈子の行動に苦笑いを浮かべる。
「それで、私達はこれからどうしましょうか?」
「俺はとりあえず飲み物がほしい。さすがに話しててのどかわいた」
「そうだね。とりあえずあそこのカウンターで飲み物もらおうよ」
莉奈の提案の元3人はバーカウンターの方へと歩み寄る。
幸いにもバーカウンターの所には人がいないため、すんなりと祐介達の順番が回ってきた。
バーカウンターにいた男が祐介達のことを一瞥すると一瞬悩んだようなそぶりを見せた。
「何か俺達に用でも」
「いえ、何でもありません。失礼しました」
そう言うと、バーカウンターの男は祐介達の方から視線をはずす。
「それで、ご注文は?」
「烏龍茶を3つ」
「かしこまりました」
そう言うとカウンターに3つのウーロン茶を用意し手渡しで渡していく。
そのウーロン茶を祐介、女神、莉奈の順で受け取り3人はバーカウンターを後にし先程の場所へと戻ってきた。
「そういえば何か祐介さんの烏龍茶だけ濃くないですか?」
「そうか?」
「確かに。私達の方が何か薄いみたい」
「まぁ、後で濃い目で貰えばいいでしょう」
そう言うと女神はコップに口をつけてごくごくと飲み始める。
女神の飲み物を飲む勢いは衰えず、手持ちの烏龍茶を一気に飲み干した。
「プハァーーこの烏龍茶今まで飲んだ中で1番おいしいです。莉奈さんも飲んでみてください。私、もう1杯貰ってきますね」
「おい女神、勝手な行動をするな」
祐介の忠告を無視して、女神はバーカウンターの方へと1人歩いていく。
祐介は勝手な行動を取った女神をあきれた表情で見ていた。
「そン何これっておいしいのかな? じゃあ私も飲んでみよう」
「ちょっと待って」
祐介は莉奈が烏龍茶に口をつけた所で静止する。。
祐介が注意深くコップの中身を見ると、確かに自分のと比べて烏龍茶の色が微妙に薄い。
自分のより色が薄い烏龍茶を祐介は先程から不審に思っていた。
「莉奈、ちょっとそのコップ交換しない?」
「別にいいけど」
そう言うと祐介は莉奈の烏龍茶とコップを取り替え、貰った烏龍茶を一口飲む。
祐介の後追いで莉奈も交換した烏龍茶を飲んだ。
「うん? 特に変わった所はないみたいだけど。普通の烏龍茶にしか見えないよ」
「ウェッ、ゲホッ、ゴホッ」
「どうしたの祐介?」
祐介はコップを持ったまま大きく咳き込み、その場で餌付く。
喉が熱くなりヒリヒリするような痛みが祐介を襲う。
突然の行動に莉奈が慌てて祐介の背中を撫で、しばらくすると祐介も咳きも収まった。
「これ、烏龍茶じゃなくてウーロンハイだよ」
「そうなの?」
「うん。すごいアルコールの味がする。よく女神のやつこれを一気に飲めたな」
元々女神はこの世界では中学1年生という設定だが、正確には何歳なのか祐介にはわからない。
年齢不詳の女神はもしかすると酒を飲める年齢で、普段から浴びるように飲んでいてもしかしたらアルコールに強いのかもしれない。
そうなるとウーロンハイを一気飲みしてうまいといっても別段おかしくない気がした。
「私のも飲む?」
「でもそっちに入ってるのもウーロンハイじゃないの?」
莉奈から渡されたものを恐る恐る飲むとそれは普通の烏龍茶だということがわかった。
「これは普通の烏龍茶だ」
「でも、私が貰ったのはウーロンハイだったよ」
「渡し間違い? でもそれならなんで俺だけ烏龍茶を渡したんだろ?」
「もしかして女神ちゃんのも」
「まずいな、ちょっと探しにいくか」
しばらく2人で女神のことを探しているとほのかに煙草の匂いがする燈子を見つけた。
2人が燈子の方に近寄ると泥酔状態に陥っている、女神に肩を貸そうとしている所である。
「2人共、ちょっと手伝ってくれないか?」
困ったような燈子に莉奈は慌てて、女神に肩を貸して体勢を立て直す。
2に背負われた格好の女神の顔は真っ赤になり、心配になる。
「女神? お前大丈夫か?」
「あっ、ゆうしうふぁんでかぁいしゅおうなしのゆうしゅけさんがいましゅが」
「女神ちゃん、大丈夫?」
莉奈が女神のことを心配すると同時に周りの照明が落ちていき、あたりが真っ暗に染まっていく。
それと同時にステージ上が明るく照らされ、その上にはまだ40代前半の眼鏡をかけた男がマイクを持って立っていた。
『お待たせしました。ただいまよりスノーサイドプロダクション20周年記念パーティーの方を始めさせていただきます』
こうして女神がのっけから泥酔する不穏な空気の中、スノーサイドプロダクションの20周年記念パーティーが幕を開けた。
ご覧いただきありがとうございます。
この物語はフィクションです。
作中では女神が烏龍茶と間違いお酒をを浴びるほど飲んでいますが、現実では煙草とお酒の摂取は20歳未満は法律で禁止されています。
ですので20未満の方は絶対にまねしないようにお願いします。




