ミニデート
「そういえば、祐介って最近燈子さんの仕事手伝ってるの?」
「手伝ってるよ。それも毎日。日に日に仕事の量が増えて正直困ってる」
祐介は莉奈との帰り道、忌々しい口調で自分の姉である燈子の話をする。
日笠家の騒動後、燈子が祐介に任せる仕事の量は日に日に増えていった。
特に夏休みに入った日から大口の仕事の話が入ったらしく姉はそちらに手一杯で、他から取ってきた莫大な量の仕事は祐介1人で対応している。
そのため祐介は夏休みになってから毎日忙しく過ごしていた。
「だから、最近午前中は莉奈とのトレーニングで午後はバンド練習の見学。夜は英会話の稽古か姉さんの仕事の手伝いって感じで忙しいよ」
「夏休みの宿題は?」
「それはもう終わった。自由研究も全て」
「私も自由研究以外は終わったよ」
「そうなんだ」
先程から2人は雑談に終始している。
莉奈が楽しそうに自分に話しかけていることが、恵梨香のことで悩んでいる祐介の癒しにもなっていた。
「祐介、あそこでクレープ屋さんが移動販売してる」
莉奈が指を指すのは女神との集合場所でよく使う公園である。
そこの入り口に移動販売用のが止めてあり、数人が列をなして並んでいた。
「どうせ帰っても仕事しかしないならクレープ食べていかない?」
「莉奈って体調が悪いんじゃなかったの?」
「私の体調不良はクレープ食べれば劇的に回復するの」
「どんな理論だよ。クレープよりもむしろ医者に行って薬飲んだ方がいいんじゃ‥‥‥‥って引っ張らなくても行くから。付き合うから」
莉奈に腕を掴まれ強引に引っ張られながら、祐介もクレープ屋の方へと歩いていく。
その光景は小さい頃の祐介と莉奈に戻ったように思え、祐介は思わず笑ってしまう。
「何がおかしいのよ」
「ごめんごめん。幼稚園ぐらいの時にも莉奈にこんな風に引っ張られてたなって思うと、なんかおかしくなっちゃって」
「失礼ね。昔と違うわよ。私だってもう分別ついた大人なんだから、あんな無茶なことはしないから」
「大人‥‥‥‥ね」
祐介はムスッとした莉奈に対して苦笑いを浮かべる。
日笠家の騒動で莉奈が5人の男を気絶させた話を持ち出そうとしたが、莉奈の機嫌がさらに悪くなりそうなのでするのをやめた。
2人が並んだクレープの列は順調に進んでいき莉奈はイチゴのクレープ、祐介はブルーベリーのクレープを注文する。
2人はそれを買い、店員からクレープを受け取ると公園にあるベンチに座った。
「すごくおいしそう」
「そうだね」
祐介はそうつぶやくとブルーベリーのクレープにかじりつく。
甘いのが苦手な祐介でも独特なブルーベリーの甘みはおいしく感じられた。
「おいしい。やっぱりイチゴにして正解だった」
隣にいる莉奈はおいしそうにクレープをほおばっている。
幸せそうにクレープを食べる莉奈を見て、祐介の心は少しだけ和む。
さっきまで恵梨香の事で荒んでいた心が、莉奈の幸せそうな表情を見て心が軽くなった気がした。
「その顔」
「へっ?」
「祐介さっきよりもすごくいい顔してる」
「そんなにひどかった?」
「うん。まるで世界中の不幸を全て背負ってるような顔してた」
「そうか」
莉奈は笑っている顔を見て、祐介は莉奈に隠し事ができなくなっていることを悟った。
ほぼ毎日一緒にしているトレーニングやトレーニング後に行われる週3日の英会話の授業を通して、この時代に転生した神山祐介という人物についての理解が深まっていることを改めて実感した。
「で、なんか聞かないの?」
「何が?」
「俺がそんな顔してた理由。昔の莉奈なら聞いてきたと思うけど」
「それは聞きたいわよ。祐介が悩んでいるのがよくわかるし」
莉奈はそういうと手元のクレープを大きな口を開けてかじりつく。
「でも、祐介が本当に困ってるなら私に相談してくれるはずでしょ」
祐介は里奈に対してどう返答していいのか困ってしまう。
莉奈が向ける太陽よりもまぶしい純真な笑顔が、祐介の胸をより一層苦しませることになる。
結局この日はクレープを食べた後、祐介は莉奈を家へと送り届け、自分も燈子が待つ自宅へと帰って行く。
どうすれば恵梨香にとって1番いい選択になるのか悩む祐介も、莉奈だけには今回の悩みは話さないようにしようと心に誓った。




