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お騒がせ女神の学園生活  作者: 一ノ瀬 和人
お騒がせ女神と偶像少女
29/57

最終オーディション選考結果

 夏休み最後の練習日、いつものスタジオに集合した祐介達は恵梨香を取り囲むようにして集まっていた。

 曲の方は何度もスタジオに足を運んで必死に練習したおかげで、どうにか普通の人が聞ける程度には仕上がっている。

 だがこの日はいつもとは違い、スタジオ内は緊張感に包まれている。

 その原因は恵梨香の持っている封筒にあった。

 

「恵梨香、本当にその封筒の中身見てないの?」

「あぁ、なんたってさっき家を出る時にポストに入ってたからな」


 恵梨香の手に持っている封筒の送り主はスノーサイドプロダクションと書かれており、宛名の所には恵梨香の名前の他に小さくオーディション最終選考結果とある。

 最終選考の通知結果が合格か不合格かわからず、祐介以外の全員がドキドキしながら恵梨香の封筒を見つめていた。

 

「僕のことではないのに妙にドキドキします」

「恵梨香さん早くあけましょう。中身が非常に気になりすぎてこのままじゃ私、夜も眠れません」

「わかったから。あせるなって」


 6人それぞれ思い思いのことを考えながら、恵梨香が代表してその封を切る。

 中身を見ると大きな紙の他に、複数の小さい紙切れも何枚か入っていた。

 恵梨香は封筒の中の大きい紙を取り出し、書いてある文字を読み上げる。

 

「ええっと‥‥‥‥『このたびは弊社で行われたオーディションにご応募いただきありがとうございます』‥‥‥‥」

「恵梨香。そこじゃなくて結果、結果」

「そっ、そうだよな。肝心なところを読まないとダメだよな」


 あははと声にもならない笑いを恵梨香は上げる。

 その様子からはガチガチに緊張している様がありありと見えた。

 

「『選考の結果、貴殿には是非とも弊社の方でデビューしていただきたく思います。詳しい日程は』‥‥‥‥これって合格ってことでいいんだよな?」


 恵梨香が驚いた顔をすると同時に莉奈や則之達も喜びの声を上げる。

 中でも女神は自分が受かったかのように喜んでおり、恵梨香に抱きついていた。


「女神ちゃん、そんなにくっつくなよなぁ。身動きとれないじゃんか」

「恵梨香さん、おめでとうございます。私も本当にうれしいです」

「まぁ、今日ぐらいはいいじゃないですか。莉奈も喜んでいますし」


 則之は落ち着いた声色だが、顔の所々が緩んでいるのが祐介からは見て取れる。

 吹雪も莉奈も女神もそれぞれが恵梨香の合格を喜んでいた。

 

「恵梨香、おめでとう。私もうれしいよ」

「莉奈‥‥‥‥」


 莉奈も恵梨香のほうを見ながら優しく微笑む。

 その目からはうっすらと涙が浮かんでおり、親友の夢がかなったことを心から喜んでいるように見えた。

 

「決まったのは良いが、まずは音楽祭の方を頑張らないとな」

「おう、任せとけ。学校の伝説になるパフォーマンスを披露してやるからな」


 スタジオが喜びに包まれる中、祐介だけは素直に恵梨香の合格を喜べなかった。

 それは今後の恵梨香の将来のこと知っている祐介だからこそ出てしまう素顔である。

 恵梨香の将来を考えた時、果たして恵梨香の背中を押した方がいいのか、それとも引き止めるべきなのかいまだにはっきりと祐介の中で答えは出ていない。

 どちらの行動をすれば正解なのか今の祐介にはわからなかった。


「祐介? どうしたの暗い顔して?」


 心配そうな顔をして話しかける莉奈の呼びかけに祐介は我に返り、莉奈のほうに視線を向けた。

 

「なんでもないよ。それにしても恵梨香はすごいな。デビューしたら応援しないといけないね」


 自分がその時上手く笑えているか祐介は全くわからなかった。

 ただわかるのは今の自分がここにいても、素直に恵梨香を祝福してあげることは出来ないという気持ちである。

 祐介は祝福ムードの輪から離れ、自分の荷物を整理し始めた。

 

「祐介? どうしたの?」

「ごめん。ちょっと体調が優れないから今日は帰る」

「えぇ~~、これから練習するんだぞ。いきなり帰るのかよ」

「悪い恵梨香。この埋め合わせは今度するから」


 そう言うと祐介は荷物をまとめ慌ててスタジオを後にする。


「あいつこういうとこ空気読めないよな」

「体調が悪いなら仕方がないですよ。むしろ演奏もしないのに僕らの練習に付き合ってくれてることに感謝しないといけません。それよりも練習の方を始めましょう。時間もありません」


 扉を出た時、恵梨香達のそんな声が祐介の耳の届く。

 祐介はその言葉を聞きながらボーっとした頭で、廊下を歩き外へと出た。

 外へ出た途端夏独特の暑さと蒸した空気に、何もしていないのに祐介の首や腕からは大量の汗が噴き出しシャツを濡らした。

 

「この高温多湿。やっぱり日本の夏は嫌いだ」


 祐介は高校を中退してから夏は基本的にクーラーのかかった室内で仕事をすることが多かったので、暑さは苦手な部類に入る。

 転生前は燈子が経営している会社のスタッフに無理矢理外へと引っ張りだされない限り、太陽の出ているうちは絶対に外へは出なかった。

 

「こんな暑い日に外に出るなんて、俺どうしたんだろ。夏は1番嫌いな季節なのに」

「確かに夏は嫌だよね。じめじめして蒸し暑いし」

「そうそう、暑くて汗かくし頭もぼーーっとする‥‥‥‥って莉奈?」


 外でボーっとたたずんでいた数分の間に、先程までスタジオ内にいた莉奈が祐介の横に立っていた。


「どうしてここにいるの? 練習は?」

「体調が悪いって言って抜け出してきちゃった。祐介のことが心配だったし」


 いたずらっぽく莉奈は笑うが、祐介の内心は穏やかではない。

 体調不良のかけらも感じさせない元気な様子は、莉奈が自分の異変に気づいてここへ来たんだと嫌でも気づかされてしまう。

 最近一緒にいるせいか、自分の考えていることが莉奈には全て見透かされてる気がしていた。


「心配してもらわなくても大丈夫だから。だから練習に戻りな。時間もほとんどないんだし。俺のことは置いといて」

「そうはいかないよ。だって私体調悪いんだもん」


 祐介としてはピンピンしている莉奈がどう見たって病人には見えないが、本人が体調不良と言い張るのでむげに追い返すことも出来ない。

 こんな時に祐介が取れるほう方は1つしかない。

 ため息交じりの声色で、祐介は莉奈に1つ提案をした。


「わかった。それじゃあ途中まで一緒に帰ろうか」

「うん」


 祐介の方を見て莉奈は力いっぱい頷く。

 笑顔で元気よく自分の隣を歩く莉奈を見て、祐介は途方に暮れるしかなかった。


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