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お騒がせ女神の学園生活  作者: 一ノ瀬 和人
お騒がせ女神と偶像少女
28/57

努力の意味

 恵梨香達とのバンド練習から数日後、祐介はこの前立ち寄った公園のベンチに腰を下ろす。

 ここに祐介が来たのは女神と恵梨香についての話をするためである。

 バンド練習の後、事前に2人で予定が合う日を話し合い約束をしていた。


「あいつ遅いな」


 祐介は手元の腕時計を見ると時刻は14時15分。

 約束の時間は14時だったので既に15分過ぎている。


「どれだけ俺を待たせれば気が済むんだよ。本当にあいつは時間にルーズだよな」

「ムムッ、ここら辺やけにイカ臭いですね。祐介さんの匂いがします」

「遅刻してきて早々その発言か。てか俺は臭くないからな。しかも何でイカの匂いが出て来るんだよ」


 唐突に祐介の後ろから登場した女神は祐介の反論を華麗に流し隣に座る。

 真っ白いワンピース姿の女神はその容姿もあいまって、一瞬だけだが本物の女神のように不覚にも思ってしまう。

 

「あれあれ? 祐介さんもしかして私に見惚れちゃったんですか? まぁ、天界のアイドルって私は呼ばれているのでそうなってしまうのは当たり前ですよね」

「そんなこと思ってない。それに莉奈の方がお前なんかより数倍きれいだ」

「こんな所で莉奈さんのことを言うなんて。全く胸焼けしてしまいます」


 女神はあきれたようにその場でため息をつく。

 

「それで、今日は私に何の用でしょうか? この天界で愛らしくて可愛いと評判の人気アイドル女神ちゃんに手土産1つ持ってこないで呼びつけるとはいい度胸してますね」

「まぁ、手土産云々とか愛らしくて可愛いとかツッコミどころが多いけど、お前がアイドルだってことは俺も同意するよ」

「珍しいですね。祐介さんが私のことをほめるなんて。やっとあなたもこの女神ちゃんの魅力に気づいて‥‥」

「違うよ」


 自慢げに話す女神のことを飛びっきりの笑顔で祐介は見つめる。

 

「アイドルって日本語で書くと『偶像(ぐうぞう)』って書くんだ。ビジネス目的だと『詐術を用いて演出された虚像(きょぞう)』って意味だから、ドジで間抜けで肝心な時に全く役に立たないお前にぴったりだと思って」

「ムキーー、それって私のことを馬鹿にしていますね?」

「馬鹿にしてないよ。部下にまで愛想をつかされるようなダメな女神にはぴったりだって言ってるだけ」

「それって馬鹿にしてるじゃないですか。奥手で陰湿で卑屈なこの素人童貞」

「素人童貞は関係ないだろ。そういうお前だって男性経験0(ゼロ)な癖に」


 2人はベンチから立ち上がり、その場で睨みあう。

 静かな公園で明らかに浮いている2人のことを、公園で遊んでいた親子達からは冷ややかな視線を向けられる。

 やがてその視線に気づいた2人はにらみ合いをやめ、深いため息をついた。

 

「やめよう。今ここで俺達が争っていても全く意味がない」

「そうですね。とりあえず商店街のお肉屋さんで売ってるビッグメンチカツでも食べながら話しましょうか」

「お前、結構食い意地張ってるんだな」


 こうして一時的に2人は公園を出て、商店街にある肉屋へと向かう。

 数分後、公園に戻ってきた女神の手には商店街の肉屋さんで売っているビッグメンチカツが握られていた。

 一方一緒に戻ってきた祐介の手には肉じゃがコロッケが握られており、ベンチに座るとそれにかぶりつく。

 2人が食べているものは祐介のおごりではなく、それぞれが個人でお金を払って買ったものである。

 

「やっぱりこのメンチカツは大きくておいしいですね。で、そういえば私達なんで今日ここにいるんでしたっけ?」

「目的まで忘れたのかよ。てかメンチカツ食うの早いな」


 おいしそうにビッグメンチカツを食べている女神に対して『太るぞ』という言葉をかけずらい。

 莉奈と比べて運動も全くしていない女神が、どうやって今のスラっとした体系を保っているのか祐介は内心非常に気になっていた。

「恵梨香の話だよ」

「恵梨香さんですか? そういえばスノーサイドプロダクションの最終選考に残ったんですよね。さすが未来の国民的アイドルです」

「ど阿呆。そのプロダクションが問題なんじゃないか。お前、自分が転生前俺に言った事忘れたのか?」


 女神は小首をかしげて不思議そうな表情を向ける。

 その顔を祐介は見て、心の底からあきれてしまう。

 

「『毎晩テレビ局やレコード会社の社長を相手に夜のアイドル活動をしてる』ってお前が言ってたことだろ? それに恵梨香が最後まで所属していた芸能事務所もスノーサイドプロダクションだ。もしかしたらあの会社裏で何かやばいことでもやってるんじゃないのか?」

「そうですか?」


 女神は真顔で祐介のことをじっと見つめる。

 いつものおちゃらけた雰囲気と全く違う女神の表情を祐介は不気味に思ってしまう。


「だって夜の活動ってことは枕営業を恵梨香がするってことだろ? それは絶対阻止しないと」

「祐介さんに聞きたいんですけど、それって本当に阻止をする必要があるんですか?」


 女神の思いがけない問いに祐介は驚いてしまう。

 その答えは祐介の想像していたものとは全く違う答えであった。

 

「だって、ダメだろ。自分の体使って人にこびるなんて。そんなの未成年のすることじゃない」

「では、成人していればいいんですか?」

「それは‥‥」


 祐介はそこで言葉に詰まってしまう。

 女神の言っていることは確かに的を得ている言葉である。

 

「祐介さんこそ、さっきといっていることが矛盾しているんじゃないですか?」

「俺がいつ矛盾したことを言ったんだ?」


 祐介の言葉はいつにもましてヒートアップしている。

 頭に血が上っていることを祐介はしっかりと理解していたが、それでも止まることは出来ない。

 転生した時話していた趣旨に反する女神の言動に祐介は深い憤りを覚えていた。

 

「アイドルは『偶像(ぐうぞう)』、ビジネス目的だと『詐術を用いて演出された虚像(きょぞう)』。そういったのは祐介さんですよね?」

「確かに俺はそういったが‥‥‥‥」


 祐介は言葉に詰まってしまう。

 

「華やかな舞台の裏でアイドルがどんな努力をしているか、本当に祐介さんは知っていますか?」

「そんな事当たり前だろ」

「じゃあ、どんなことをしているか言って見て下さい」


 祐介はアイドルがどんなことをしているか詳しくは知らないが、大体のことは想像つく。

 それはダンスレッスンやボイスレッスンといった普通の人に聞いたら出てくるワードが祐介の頭にも浮かんだ。

 

「それはもちろん歌とかダンスとかトークの練習とかだろ?」

「本当に祐介さんはそれだけが努力って言うんですか?」


 女神は祐介の目を見据えて話し、その迫力に祐介は後ろにたじろいでしまう。

 

「例えば2人アイドル志望の女の子がいて、歌もダンスもトーク力も同じような実力だったら祐介さんはどうしますか?」

「それは、自分がよく知ってる方を選んで‥‥」

「そうですよね。もしその女の子のことを知っているなら使いやすいので普通ならそちらを選びますよね? じゃあ次の質問をします。その人達に自分を知ってもらうために、貴方ならどういうことをしますか?」


 女神は淡々と祐介に語りかける。

 

「それは売り込みをかけて、その担当‥‥‥‥TV局ならプロデューサーか。その人と話をして仲良くなって‥‥‥‥」

「自分を知って仲良くなる。それはいいことですね。ではさらに質問します。人と話すこととそのプロデューサーと肉体関係を持つことの何が違うんですか?」

「どう考えたって違うだろ? 倫理的りんりてきに考えたって間違ってる」


 祐介は女神が言いたいことが痛いほど理解でき、その考えに納得もしている。

 たが、どうしても女神に反論せずにはいられなかった。

 しかし祐介は何故自分がそんな感情に駆られているのか自分でも理解できていない。

 目的のためならどんな努力も受け入れて来た祐介にとって、女神の言っていることは至極当然のように聞こえるがそのことを受け入れられない自分がいた。


倫理的りんりてきとは何ですか? よくしているってことは恵梨香さんだってそれを望んでいたってことですよね?」

「恵梨香が望んでやってたかはわからないだろ」


 祐介の大声に周りの親子連れも2人の方を向く。

 大声を一心に受けた女神は相変わらず済ました顔で祐介のことを見ていた。

 

「前から思っていましたけど、祐介さんは理屈っぽいですよね」

「理屈っぽい?」

「そうです。何でも物事は論理的に語ろうとする所がいけないと思います」

「論理的に追求して何が悪いんだよ。世の中とか社会ってそんなもんだろ?」


 そっけなくいう祐介のことをあきれた様子で女神は見る。

 自分のビッグメンチカツを女神はほおばりため息をつく。

 

「はぁ、まだわかっていないんですかこの人は。部活動勧誘会の時莉奈さんの助けに向かったり、日笠家の騒動の時なんかはかなりいい感じだったんですけど思い違いでしたか‥‥‥‥」

「どういう意味だよ?」

「何でもありません。それより今日はこの辺にしましょう」


 そう言うと女神はベンチから立つ。

 祐介は慌てて女神の肩を掴み、彼女が帰ろうとするのを止めた。

 

「まだ話は終わってない」

「今の祐介さんと話していても埒が明かないと思います。あれだけの事件を体験しているので少しは変わったのかと思いましたが私の思い違いだったようです。じゃあ私は帰りますね」


 そう言うと女神は祐介の制止を振り切り、公園の外へと歩き出す。

 祐介は女神が歩いていく方を呆然と眺めている。

 

「何なんだよ。俺の何が間違ってるんだよ‥‥‥‥」


 祐介は弱音を吐き、脱力するようにベンチへと座る。

 この後しばらく公園のベンチに座り、女神の意図を汲み取ろうとするが、この日その答えが出ることはなかった。


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